(50)父性
~シヴァ目線~
俺は、服を脱いで体に力を入れた。
パキパキとなる骨の音と共に、自身の体の変化を感じる。
無骨な腕から銀色の毛が生え、爪は鋭くなる。
グルルルという鳴き声が、のどの奥から聞こえる。
俺の姿は、狼の獣人としての本来の獣の姿に__銀狼に変わった。
確か親父は、俺を囲うようにして一緒に眠ったはず。
獣の姿になると、人型の姿よりも体温が高くなる。
夢の中にいるのであれば、人型よりも獣の姿の方が温もりは伝わりやすい。
親父が俺が寝る前にした行動を思い出しながら、紗彩を囲うような姿勢に変え、起こさないように紗彩を俺の腹の部分に横たわらせ毛布を掛ける。
そうすれば、歪んでいた表情から少し力が抜けた。
「サーヤ!…………サーヤ!!」
起こさないようにしながら、しっかりとした声音でサーヤに呼びかける。
「役立たずなんかじゃない」
苦しみながらつぶやいたサーヤの言葉を、俺は否定する。
どういう夢を見ているのかは、俺にはわからない。
サーヤの過去を聞いたわけでもない。
実際に、サーヤの過去を体験したわけでもない。
だが、呟いた言葉とその時の表情からサーヤはその夢の内容はかなりひどい物だろう。
「お前は、役立たずなんかじゃない。…………お前がいてよかった。セレスは、お前の考えで救われた」
そう言いながら思い出すのは、セレスの嬉しそうな笑顔だった。
セレスは、普段は全く出さないが内心自分の口調を気にしていた。
そのことには、俺達も気づいていた。
だが、俺達にはどうこう言えるものじゃなかった。
セレスの過去を知っているからこそ、変に気を使われてしまったと思われてしまうかもしれない。
変に気を使うのは、セレスにとっては良くない。
だが、サーヤはセレスの過去を知らない。
だからこそ、セレスにとってサーヤの言葉は何よりもうれしい言葉だった。
気を使われて言われた言葉ではないからこそ、セレスにとってそういう考え方があるという信憑性を持てるからだ。
サーヤだからこそできることだ。
サーヤことを役立たずだと罵った奴らは、彼女の何を見ているのだろうか?
サーヤを罵り、夢の中でまたサーヤを傷つける。
お前たちに、いったい何の権利があるというんだ。
だが、サーヤを見ていてそいつらが哀れになってくると同時に嬉しさも込み上げてくる。
サーヤの良さを理解しなかった愚か者たちが、哀れだ。
サーヤは、頭がよくかなり冷静な部分がある。
だからこそ、彼女はこれから成長するだろう。
しっかりと育てて否定せずに済めば、彼女はとても優秀な存在になっただろう。
だからこそ、哀れだな。
自らの手で、優秀な存在を手放してしまったのだから。
まあ、そのおかげで俺たちと出会いセレスは救われたが。
そう思っていると、眠っているサーヤが俺に抱き着いてきた。
抱き着いたとは言っても、サーヤの腕が俺の背に回ることはないが。
だが、そんな姿に俺の中で何かが込み上げてくるのを感じた。
これは、なんだ?
暖かく、不快ではない。
逆に、眠っているサーヤが余計にかわいらしく見えてしまう。
「ああ、そうか」
これが、父性と言うものだろうか?
まさか、実の子供がいないのに芽生えるとは思わなかったな。
だが、よくよく考えれば狼の獣人の先祖である狼は親とか関係なく群れで子育てする。
ある意味、実の子でなくとも芽生えるのかもしれない。
__だが
「芽生えたとして、何になるっていうんだ」
俺の血筋を知って、それでも俺を見てくれた奴は少ない。
何より、俺のことをよく思わない奴らはいる。
俺なんかが彼女の保護者になったとすれば、俺をよく思わない奴らにとって俺を傷つけるかっこうの獲物になるだろう。
何より、彼女はどう思うだろう?
俺の血筋を知って、俺に対して侮蔑の視線を向けるだろうか?
そう考えれば、やはりサーヤは俺以外を保護者に選ぶべきだろう。
ああ、でも__
「もしお前が望むのなら____」
俺は、お前の保護者になっていいのだろうか?
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