(45)眠る場所
~紗彩目線~
私は、お風呂という最大の難関を突破した後、またしても問題の壁にぶつかっていた。
「え、寝る場所ですか?」
「そうだね」
思わず聞き返してしまうと、ジョゼフさんは微笑ましそうな表情を浮かべて頷いた。
私達は食堂を出た後、会議室に向かった。
私の両側にシヴァさんとアルさんが座り、私の手前にジョゼフさんが座る。
ジョゼフさんの両側にノーヴァさんとセレスさんが座るという、またしても三者面談のような座り方だった。
何かまた重要なことでも説明されるのかと思えば、話の内容は私の寝る場所だった。
寝る場所と言われても、もちろん実家も一人暮らししていた家もこの世界にはない。
そうなると、必然的に寝泊まりする場所を探す必要がある。
う~ん、ホテルとか旅館ってこの世界にあるのかな?
でも、お金がないし相場もわからないし。
「君の部屋はもちろん騎士団の宿舎に作ってあるんだけど、まだ掃除が終わった状態なんだ」
「…………私、戦えませんよ」
「それは、問題ない。サーヤの保護者が決まり、サーヤが自立できるまでだ」
私が考えこんでいると、ジョゼフさんが慌ててそう言ってきた。
騎士団に寄宿舎があるとしても、どうして私がそこで寝泊まりしてもいいことになるんだろう?
私は、確かに一応学生時代はある程度の運動はしてきたけど、シヴァさんたちみたいな大きな人を倒すことなんてできない。
そう思って聞けば、シヴァさんがまじめな表情で教えてくれた。
なるほど、保護者か。
一日でいろいろとありすぎて、すっかり忘れていた。
「で、誰の部屋にするのよ。確か、ジョゼフの話じゃあまだ終わっていないんでしょ?」
「ええ。もともと物置でしたから掃除は魔法でやっても、まだ必要な家具がそろっていません。かといって、普通に近くの店で集めたとしても彼女の身長では使いにくいですし安全とも言えません」
セレスさんがジョゼフさんの方を見ながらそう言えば、アルさんが私の方をちらりと見てから他のメンバーを見回して言った。
はい、アルさんの言いたいことはわかります。
身長が高すぎる人がいるこの騎士団の家具は、もちろん家具も大きい。
まあ、考えればそれはそうだろう。
私が元の世界で使っていた大きさの家具では、到底彼らでは使えない。
それどころか、家具というよりもごっこ遊びで使われそうな子供のおもちゃぐらいの扱いをされそう。
そうなると、確かに私がここにある家具を使うのは無理だ。
お風呂どころか椅子に座ることですら、シヴァさんたちの手伝いがなければ無理だったのだから。
「誰かの部屋で寝ること…………決定事項だよ」
「…………わかりました。お世話になります」
どこかワクワクした雰囲気を漂わせながら言うノーヴァさんに、私はガックリと肩を落としながら言った。
なんで、そんなにワクワクしているのか疑問を持ちたいところだけど。
とりあえず、私は部屋ができるまでこの中の誰かと一緒に寝るらしい……やっぱりいろいろと問題がありまくりな気がする。
「で、誰の部屋にするかだけど…………」
ジョゼフさんが考えながら見回すと、ノーヴァさんがバッと勢いよく挙手をした。
ノーヴァさんが、ものすごく乗り気だったことにとても驚いてしまった。
「ノーヴァは却下ね」
「…………なんで」
セレスさんがノーヴァさんをチラリと見た後言い、ノーヴァさんはジロリと右横にいるジョセフさんを挟んでセレスさんを睨んでいる。
ジョゼフさんはそんな二人をなだめようとしているけど、二人ともジョゼフさんの言葉に全く耳を貸していない気がする。
「あなた、寝起きが最悪じゃない。サーヤの世話までなんて、絶対にできないわ」
「…………そんなことない。できる」
ため息を吐きながら疲れたように言うセレスさんと、ムッとしセレスさんを睨みながら言うノーヴァさん。
なんというか、そんな二人に挟まれているジョゼフさんがかわいそうになってきた。
というか、ノーヴァさんは寝起きが悪いのか。
まあ、私も朝が弱い方だからスムーズに起きれるかと聞かれれば目をそむけたくなるけど。
学生時代は、よく母さんに叩き起こされていたな~。
冬の寒いときに、布団を剥がされた時はさすがに眠気が一瞬で覚めてしまったけど。
「あなた、朝会議するときにだいたいセレスに叩き起こされているじゃないですか」
「あたし、いつもあなたの部屋に入るたびにベッドからずり落ちかけているあなたをベッドに戻しているけど、サーヤがいた場合どうなるのよ?下手したら、潰れるかベッドから落ちるわよ」
「…………」
学生時代を思い出していれば、セレスさんとノーヴァさんの会話にアルさんが入っていることに気が付いた。
ジトリと怖い笑顔で睨むアルさんに、ため息を吐きながら言うセレスさん。
そんな二人の言葉に、耳をしょんぼりとさせながら無言で聞いているノーヴァさん。
なんだか、ノーヴァさんが一瞬おやつを貰えなくてしょんぼりとしている近所の猫に見えてしまった。
あの猫、元気しているかな?
「私の部屋は…………ちょっと無理ですね。いろいろと貴重な資料もありますし、本棚においては少々埃をかぶっているところもありますから掃除してからではないと」
「私の部屋も安眠できるかと言えば、無理の可能性があるよ。私は医務室の隣の部屋だからね。夜中に怪我人が運ばれてくることもあるから、あまりオススメはできないかな」
アルさんが困ったような表情を浮かべて言うと、ジョゼフさんもアルさんと同じく困ったような表情を浮かべて言う。
えーと、とりあえず意見をまとめよう。
ノーヴァさんは寝起きが悪くて、下手したら潰されるかベッドから落とされる。
アルさんは掃除が必要で、ジョゼフさんは急患が来た時に起こされるかもしれない。
そうなると、残っているのはシヴァさんとセレスさんか。
「そうなると、俺かセレスか」
「あら、アタシの部屋でもいいわよ」
「…………セレス、よく徹夜するじゃん」
シヴァさんも同じことを考えたのかそう言い、そんなシヴァさんにセレスさんが胸を張って言う。
そしてそんなセレスさんを見て、ムッと睨みながらボソリと小さな声で言うノーヴァさん。
その瞬間、セレスさんがゲッとしたような表情を浮かべ、ジョゼフさんの額に青筋が浮かんだ気がした。
「セレス君?」
地を這うような低く恐ろしい声でセレスさんにジョゼフさん。
口元は笑顔。
なのに、目は全く笑っていない。
それどころか、じゃっかんすわっている気がする。
そんなジョゼフさんに、隠し事がバレたようにヤバいと言いたげなセレスさん。
なるほど、徹夜は隠していたのね。
「…………俺の部屋が一番安眠確保できそうだな」
「えっと、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
私の横でぼそりと言ったシヴァさんにそう言い頭を下げれば、シヴァさんも私と同じように頭を下げながらそう言った。
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