(46)寝起き

~シヴァ目線~



 サーヤは、もし獣人であれば猫の獣人だろうと思う。



「え、ちょ、うにゃああああああ」



 奇声を発しながら暴れるサーヤをワシャワシャと洗いながら、サーヤを観察する。


 全体的に傷跡はないが、手足のところどころに古傷のような痣がある。

 だが、全部服で隠れるところではないところを見ると隠す気もなかったようだな。

 一人で入れると言っていたところからすれば、今までサーヤはずっと一人で入るのが当たり前だったということか。


 そう思っていれば、サーヤが俺の上半身を見て顔を赤くした。

 …………恥ずかしがっているのか?


 そう言えば、ジョゼフが精神面と身体面の成長具合が平衡していない可能性があると言っていたな。

 ということは大人に近い思考を持ているから、恥ずかしがっているのか?


 …………別に男女で入る時の礼儀はしっかりと守っている。

 問題はない気がするが、やはり恥ずかしいのか?

 …………女の精神状態というのは、かなり難しいな。


 その後サーヤが溺れかけるハプニングがあったが、よくよく考えればサーヤの身長的にあの浴槽は無理だな。

 サーヤの部屋の浴槽は、彼女の身長に合わせたものにするか。

 さすがに一緒に入る時に羞恥心を持っているのであれば、何回も一緒に入るわけにはいかないな。


 できる限り、ストレスを溜めさせないようにする必要がある。

 子供は環境の変化に弱いと同時に、ストレスにも弱い。


 ただでさえ屈強で威圧感のある男が多く、同性のいない獣人騎士団だ。


 それだけでも、サーヤにはストレスがかかる。

 それなら、他の面でストレスを感じないように気を配る必要がある。




「…………もうお嫁にいけません」



 風呂から出た後、サーヤはソファの上でぐったりとしていた。


 サーヤがぼそりと言った言葉に、俺は思った。

 お前の年齢でお嫁に行く場合は相手は変態に限ると思う、と。



「何も気にする必要なんてないだろ。お前の身長じゃあ、一人で入ることは不可能に近いんだから」

「ちょっと、団長。女の子は、男と違っていろいろと複雑なのよ」



 とりあえずフォローのつもりでそう言えば、逆にセレスに怒られてしまった。


 だが、実際に言っていることは本当だ。

 サーヤの身長は、シャワーの蛇口にすらギリギリ届いていなかった。


 しかも、洗った後には溺れかける。

 もう、お前は何もせず補助されていろと思ってしまう。

 まあ、本人はいたって真面目に動こうとしているものだから叱るに叱れないが。


 こればかりは仕方ない。



 そう思いながら、俺はサーヤを食堂へ連れて行った。


 サーヤの紹介は、特に問題もなく終わった。

 紹介が終わった後、ジャックがサーヤと約束をしていたところは柄にもなく癒されてしまった。



 食堂で夕食をとった後は、サーヤが寝る部屋についての話し合いになった。


 最初は説明した後にノーヴァが勢いよく挙手したが、セレスに却下されていた。


 まあ、それもそうだろう。

 ノーヴァの寝起きの悪さは、俺達に限らず騎士団員であれば誰でも知っていることだ。


 はっきり言って、セレスも悪いがノーヴァはセレスの比ではないぐらい悪い。


 セレスは寝起きに本性を現してドスのきいた声ですごむぐらいだが、ノーヴァの場合は下手したらナイフだの武器や物が飛んでくる。

 物ならいいが、武器の場合は避けるのが大変だ。俺

 達は問題ないが、一般の騎士の場合は怪我するだろうな。


 それを考えると、サーヤを一緒に寝させるなんて問題ありすぎる。



 それにしても、セレスがサーヤを呼び捨てにしているのは驚いたな。

 食事の時に聞いたが、セレスはサーヤの考え方に救われたと言っていた。

 どうやら、サーヤの考え方がセレスにとっていい方向に向かったのだろう。

 セレスが呼び捨てにするのは、心を開いた相手だけだからな。


 とりあえず、誰と一緒に寝かせるかを考えるか。

 ノーヴァは抜きで、この中で寝起きが良いのは俺とジョゼフぐらいだろ。


 アルとセレス?

 あいつらは、却下だ。

 まあ、アルは自覚がある分セレスやノーヴァよりはマシだが。


 まあ、予想通りアルはそれなりの理由をつけて断った。


 ジョゼフは、まあしょうがない。

 あいつの部屋で安眠できるかと言えば、まず無理だからな。


 セレスの方は、焦ったが根に持っていたノーヴァの言葉で主張どころではなくなった。



「…………俺の部屋が一番安眠確保できそうだな」

「えっと、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」



 どうなるかはわからないが、サーヤが安心して眠れるように見守るか。


 幸い、狼の獣人は男も女も関係なく面倒見がいい。

 ここで役に立てなくては、いったいどこで立てる?






 実際にこの面倒見の良さと今までの経験が早く役に立つとは、さすがにこの時の俺は思わなかった。





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