(40)個性
~サーヤ目線~
「アタシは男だった。男が、女の言葉を話すのはおかしいでしょ?」
「えっと…………そうなんですか?」
「え?」
私がセレスさんの言っている意味がよくわからずそう聞き返せば、セレスさんは呆気にとられたように目を見開いたまま固まってしまった。
いや、男性と女性どっちなのかな~とは思ったけど別に性別がわかっても話し方でどうこう言う必要があるのだろうか?
あれでしょ?
セレスさんって、私の世界で言う『オネエ』という存在でしょ?
オネエさんなら地元の近所にもいたし、いなかったとしても別に他人の話し方にいちいちケチをつける必要なんてあるのだろうか?
「おかしいと思わないの?」
「え?だって、それっていわばセレスさんの個性の一つでしょう?」
「こ……せい……?」
「はい。それに、どんな話し方をするのかなんてセレスさんの自由ですし」
驚いた表情のまま呟くセレスさんを見ながら、私は心の中で首をかしげてしまった。
この世界では、男性は男らしい話し方でも強制されるのだろうか?
男女平等なら私としても生きやすいんだけど、この世界だとどうなるんだろう?
さすがに男女平等の世界で生きてきた私としては、男尊女卑も女尊男卑も押し付けられると困るんだけどな。
まあ…………うん。
『郷に入っては郷に従え』って言葉もあるし、努力はするけど。
「自由…………ふふ、サーヤちゃんっていい子なのね」
「いい子なのかは、いまいちわからないのですが」
少し寂しげな雰囲気を漂わせながら、セレスさんは笑った。
いい子と言われても、こっちとしては成人女性なんだけどな。
それに、自己管理もなっていないからいい子とは言えないし。
「いい子よ。…………アタシはね、可愛いものが好きなの。誰かを飾り立てるのが好き。自分が作ったり選んだりしたものをあげて、使ってもらうのも好き」
う~ん、セレスさんの言葉を聞いている限り可愛いものが好き以外は普通に男性としてあり得そうだと思うんだけど。
いや、最近はかわいいものが好きな男性もいるらしいから特に問題はないのか?
いや、でもこれって私の世界の話だからこの世界の常識に当てはまらないのかもしれないし。
う~ん、異世界交流って難しいもんだわ。
でも、セレスさんがどうして態度を変えられると思ったんだろう?
別に口調や好きなもの的に、特に問題はなさそうだと思う。
だって、私や男の幼馴染だって自分が選んだものを大切に使ってほしいって思うし。
「別に、女になりたかったわけじゃない。ただ、自分が好きなものを否定されたくない」
「…………別に気にする必要はないと思います」
私の言葉を聞いて、セレスさんはまた驚いた表情を浮かべて私を見た。
「セレスさんの好きなものを誰かが否定する権利なんてありません。否定する人がいれば、その人がおかしいです」
セレスさんが、どうしてそんなに悲しそうな表情を浮かべるのかがわからない。
だって、好きなものを好きって言って何が悪いの?
男らしくない?
女らしくない?
男らしいや女らしいって、いったい誰が決めたの?
神様?
ご先祖様?
そんなもの、時代によって変わっていくんだから意味のない古い慣習なんて溝に捨ててしまえばいい。
それに、セレスさんの好きなものがおかしいなんて言うのなら私だっておかしいことになる。
「私は、物語が好きです。動くことも得意です。あと、物事を考察するのも得意です。服は、動きやすさ重視でシンプルなものは好きです。ヒラヒラとしたスカートも、ピシっとしたスカートもあまり好きではありません。どちらかと言うと、ズボンの方が好きです。料理だって、あまり得意ではありません」
うん、改めて言うと本当に女の子らしくないと思うわ。
いや、成人女性だから女の子と言える年齢ではないか。
まず、女らしいというものの意味が分からないけど。
とりあえず、小さい頃から周りにいた女子と比較してみればいいのだと思う。
確か、小学生の頃は休みの日に近所の子と集まって山の中を駆けずり回ったりししたな。
その中で、スカートの子がスカートを汚して泣いていた子がいたな。
あの時は、山の中になんでスカートで来たんだろうって気になったな。
中学に入ってからは、読書に没頭するようになったな。
特に物語が好きで、物語の裏側とか結末を考察するのも好きだった。
料理は…………うん、できるかと言えば一応できるって感じ。
一人暮らしになった時に困らないようにって、母さんに叩きこまれたんだ。
ただ、得意かと聞かれればそうでもない。
いまだに、一部の料理はなぜか色が紫色に変化したりするし。
あれの原理は、いまだにわからない。
うん、黒歴史は忘れよう。
改めて考えれば、私も女らしいかと聞かれれば微妙だわ。
「どうですか?」
「どうって……」
とりあえずこのことを聞いてどう思ったのか感想を聞けば、複雑そうな表情を浮かべられた。
「私は、女らしくありません。でも、気にしません。だって、好きでもないものを強制されるのも悩むのも苦痛ですから。そりゃあ、悩んだ時はあります。周りから浮いている気がしましたから。でも、母が言っていたんです。人それぞれ個性があるんだから、好きなものは好きでいいんじゃないって」
「!?」
私の言葉に、セレスさんが目を見開いて驚いた。
別に私だって、悩まなかったわけじゃない。
小学校の五・六年の時に同級生の女子に『男っぽい』って言われた時なんか、私自身を否定されたと思って母さんの腕の中で号泣したし。
その時に、言われたことを母さんに言ったらそう言われた。
だから、私は何を言われてもそう思うようにした。
好きなものは好きで良い。
周りに迷惑をかけなければ、他人にどうこう言われようと関係ないんだって。
そう思っていれば、周りに『根暗』って言われても特に気にもならなかった。
実際、成績ではその子たちよりも上位だし。
まあ…………思い出せば思い出すだけ、あの会社に入ってから私って悪い方に変わっていたなって思う。
心配してくれた母さんに、本当に申し訳ないわ。
「だから、その…………男女関係なく好きなものは好きでいいと思います。話し方だって、セレスさんがその話し方がいいと思うのならそれでいいと思います」
うんうん、無理して自分の話しにくい話し方を使う必要もないし。
そんなの、無駄にストレスが増えるだけだし。
私だって、あの糞上司に友達と話すような口調で話しかけろと言われたら、一億つまれようと拒否するわ。
私、あいつ嫌いだし。
「…………そうね。ありがとう、サーヤちゃん。なんだか、サーヤちゃんには情けないところを見せてしまったわね」
「気にしなくていいと思います。私だって、ジョゼフさんの前で泣きましたし」
「サーヤちゃんは、逆にため込みすぎると思うわ」
セレスさんは、どこか安心したような表情で笑った。
ため込みすぎと言われても、さすがに成人すると弱音って他人に言えなくなるんだけど。
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