(39)ずぶ濡れハプニング

~サーヤ目線~



「サーヤちゃん!!」

「!?セレスさん!!」



セレスさんの声が聞こえて振り向けば、さっきまで人がたくさんいた通りの向こうからセレスさんが走ってきているのが見えた。


 私もセレスさんの所へ行こうと走れば、ズルリと地面が滑った気がした。

 え?

 

 重力に従って横に倒れるのを感じる。



「わっ!?」

「サーヤ!!」



 私の悲鳴とセレスさんの私を呼ぶ声、それと共にバッシャーンッという音があたりに響いた。

それと同時に冷たさと寒気が襲ってくる。


気付いたら、私はセレスさんに抱き留められながら水の中にいた。

何が起こったのかわからなくて周りを見回せば、レンガの壁が左右にあった。

流れている水にレンガの壁。


どうやら、私は足を滑らせて助けようとしたセレスさんを巻き込んで川に落ちたみたい。



「大丈夫かしら、サーヤちゃん?」

「セレスさん!?す、すみません!お怪我は!?服も濡れて……」

「気にしなくていいのよ。…………って、あら?」



慌ててセレスさんに謝罪しようとセレスさんの方を見れば、セレスさんがびしょ濡れになっている姿を見て恥ずかしくなった。


 水で濡れて肌に張り付く白いワイシャツ。

 張り付いたことで、ワイシャツ越しでもわかるくらいしっかりとついた筋肉。

 髪の毛からポタポタと零れ落ちている水滴。

 顔に張り付いた前髪を、まるで邪魔だというように後ろに撫でつけている。


 簡単に言うと、ずぶ濡れのセレスさんの色気がヤバいです。

 

 頬に熱が集まるのを感じる。

 

 セレスさん、細いな~と思っていたけど意外に筋肉があった。

 着痩せするタイプだったんですね。



「す、すみませんセレスさん!!目をつぶりますね!!」

「ああ、気にしなくてもいいのよサーヤちゃん。アタシは、男だからね」

「そ、そうですか?」



 慌てて両手で見ないように目を隠せば、セレスさんが笑ったような声音でそう言った。

 おずおずと両手を下げてセレスさんを見れば、微笑ましそうに笑っていた。


 とは言っても、男性だからって大丈夫だとは限らない気がするんだけどな。



「深さがあって、流れが緩やかでよかったわ。ずぶ濡れだけど」



 周囲を見回しながら言うセレスさんに、途端に申し訳なさが込み上げてきた。

 もう少し、周りを見てから行動するべきだった。



「本当にすみません、セレスさん」

「いいのよ。ここら辺が滑りやすかったのを忘れていて、注意しなかったアタシも悪いもの」



 申し訳なく思いながらセレスさんに謝罪すれば、セレスさんも申し訳なさそうに眉を下げて言った。

 いや、しっかりと周りを見ていなかった私が悪いような気がするんだけど。


 とりあえず、今は川から上がるか。

 さすがにこのままじゃ、私もセレスさんも風邪をひきそうだし。

 さすがにそんなことになったら、あんまりにも申し訳なさすぎる。


 そう思っているとセレスさんも同じことを思ったのか、「上がりましょうか」と言って私を抱き上げて川から上がった。


 川から上がれば、服が水を吸ったせいかズシリと重みを感じる。



「…………ねぇ、サーヤちゃん」

「?なんですか、セレスさん?」



 川から上がり服の裾を絞って川の水を絞りだしていれば、セレスさんに話しかけれらた。

 絞るのをやめてセレスさんの方を見れば、彼は悲しげな表情で私を見ていた。


 え?

 もしかして川に落ちた時に、その拍子で何かがあったとか?

 怪我をしたとか?

 持ち物が壊れたとか?


 怪我をしたのなら一応応急手当の知識はあるし、なんとかして応急手当をしよう。

 物が壊れた場合は…………頑張って働いて弁償します。



「どうして、態度を変えないの?」

「え?」



 何があったのかと心配に思っていれば、セレスさんの思わぬ言葉に私は驚いてしまった。


 態度を変える?

 いったい、何故?


 セレスさんの言葉に意味が、いまいちわからなかった。



「アタシは男だった。男が、女の言葉を話すのはおかしいでしょ?」



 …………ちょっと、セレスさんが何を言っているのかわからなかった。

 別に、男の人が女の人の言葉を話してもいいんじゃないの?

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