(32)説教

~紗彩目線~



「そろそろ、昼か」



 シヴァさんが、壁にかかっている時計を見てそう言った。

 12の数字を針がさしていたから、たぶん時計だろう。


 それにしても、長く感じたけどまだこの世界に来て半日経っていないんだよね。

 

 不思議に思っていれば、私を膝の上にのせていたジョゼフさんが私の顔を覗き込んできた。



「そういえば、サーヤ君は食事はどういうものをとっていたんだい?」

「栄養補助食品とかサンドイッチとかです」



 ジョゼフさんにそう言えば、部屋の温度が下がった気がした。

 うん、きっと気のせいだ。


 この世界にカロリーメイトやゼリー飲料があるかわからなかったから栄養補助食品と言っておいた。


 ちなみに、サンドイッチは片手で食べられるからよく買っていた。

 おにぎりも食べていたけど、おにぎりは日本ならではの食べ物だから言わなかった。

 多分、おにぎりよりもサンドイッチならこの世界にあるはず。

 小説にはあったから、実際にあるかはわからないけど。



「…………サーヤ君?」



 ジョゼフさんが私を膝からおろして、そのまま彼が座っていた椅子に乗せた。

 そして、ジョゼフさんはそのまま床に膝をついて私をしっかりと見る。


 うん、いったいどういう状況?



「なんですか、ジョゼフさん」

「サンドイッチはともかく、栄養補助食品は食事とは言わないよ」

「え?」



 ジョゼフさんの言葉を聞いて、純粋に疑問を持ってしまった。


 確か、食事というのは栄養を摂取するためのものだったはず。

 私は、ちゃんと栄養を摂取していたから食事と言えるはずだと思うんだけど。



「サーヤ、サンドイッチと言いますが具材は何だったんです?」

「え、卵ですけど」

「…………だから、こんなに肌が荒れているのね」



 困惑した表情を浮かべたアルさんに聞かれ、そう答えれば額を抑えたセレスさんがそう呟いた。


 ちなみになんで卵かと言うと、それが一番安いから。

 別に栄養が偏らないように野菜が入ったサンドイッチもたまに食べるけど、あれって結構片手だと持ちにくいしこぼしやすいんだよね。



「サーヤ君。すまないが、少々君とは『話し合い』が必要のようだね」

「え?」



 ジョゼフさん、なんで口元は笑っているのに目は笑っていないんですか?



「いいかい、サーヤ君。まず、栄養補助食品というのはこれのことかい?」

「似たものだと思います」

「そうかい……。いいかい、サーヤ君。栄養補助食品というのは、足りない栄養分を補助するのが役目だ。だが、これを主食にするのは良くない」



 ジョゼフさんが言いながら取り出したのは、長方形のチョコレート色のクッキーっぽいものだ。

 この世界にも栄養補助食品があるのは、かなり驚いたけど魔法があるからもしかしたら技術も発展しているのかもしれない。


 そう思っていれば、ジョゼフさんに注意されてしまった。



「でも、時間短縮にはいいですよ?」

「…………なんで、時間短縮する必要があるの?」

「だって、書類とか溜まっていますし。それに栄養補助食品なら摂取するだけですから、飲んでしまえば仕事ができます」



 別に、学生時代からこんな食生活だったわけじゃない。

 

 ただ、社会人になってからは食事をする暇もなく仕事を押し付けられ、その仕事をすべてやらなければ給料をもらえなかった。

 さすがに睡眠を減らすといろいろと危険だから、食事の時間を最小限にした。



「…………サーヤ君。食事とはね。栄養を取り入れることだけが役目ではないんだ。味や匂いや見た目を楽しむことで、心が潤され癒される。何より、君の食事の仕方では完全に時間短縮が目的となっているから、摂取できていない栄養分もあるんだ。わかるかい?」

「……なんとなく、わかります」



 ジョゼフさんの注意に、胸がいたくなる。

 食事を楽しむなんて、社会人になってからは全くしていなかった。


 実際、この言葉は実家にいる両親や祖父母からも言われていたから余計に胸が痛んだ。



「君の健康状態が悪かったのは、ここの部分もあるんだろうね。いいかい、サーヤ君。どんなに忙しくても、食事や睡眠を抜くのは良くない。別に、急に直せとは言わない。体が驚くからね。でも、少しずつ直していきなさい」

「……はい」

「さて、サーヤ君の食事だがしばらくの間は『ゾウスイ』と言うものを食べる」

「雑炊!?」



 ジョゼフさんの真剣な表情で言う言葉に俯きながらも答えると、頭を撫でながらそう言われた。


 え?

 雑炊って言った?


 え?

 この世界に、雑炊ってあるの?

 まず、米ってあったの?


 でも、ちょっと嬉しいかも。

 やっぱり、小さい頃から食べなれているものがあるかもしれないから。



「そうだよ。あれなら、あまり胃に負担が来ないからね」

「とりあえず、とっとと行くぞ。午後は、サーヤの買い出しがあるんだからな」

「はいはーい。アタシが行くわ~」



 ジョゼフさんの痕にシヴァさんがそう言えば、セレスさんがキラキラとした表情で挙手をしながらそう言った。


 なんだか、セレスさんってたまに女子高校生かって思う態度で来るけどいったいいくつなんだろう?


 この世界の人って、かなり長寿みたいだけど。



「セレス、書類は?」

「全速力で片付けたに決まっているでしょ!!」



 アルさんとセレスさんの会話を聞いて、私は思ってしまった。


 あ、お疲れ様ですセレスさん。

 わざわざ、私なんかの買い出しのために。



「…………こういう時だけ早い」

「だまらっしゃい」



 ノーヴァさん、そんなボソッと言わないで上げてください。

 あと、セレスさんはノーヴァさんを小突かないでください。



「こらこら、昼食を食べに行くんだろう?」

「早く行くぞ」



 ジョゼフさんが困ったような表情を浮かべると、シヴァさんが疲れたような表情を浮かべながらそう言った。

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