交流編
(33)文化の違い
~紗彩目線~
ジョゼフさんに抱き上げられ連れてこられたのは、【食堂】のプレートがかかっている部屋だった。
広さ的には結構広くて、小学校とかの食堂みたいに二百人ぐらいの人が入っても余裕そうなぐらいだ。
そこからは、肉の焼けるジューシーな匂いや卵スープのようないい匂いが漂ってくる。
部屋の中に入れば、シヴァさんたちが来ている軍服に似た服を着ている筋肉質な人たちがいるのがわかる。
みんな、頭の上に動物の耳があり腰には尻尾がある。
さすが獣人騎士団、モフモフパラダイスである。
「朝・昼・夜の食事は、基本時間が決まっている。その時間の間であればいつでも来ていい決まりだ。だが任務でその時間内に来れない場合は、個人で弁当を頼む必要がある」
シヴァさんに説明を聞きながら周りを見ていると、何度も私の方を見てくる人が何人かいる。
うん、やっぱり成人女性なのにジョセフさんに抱き上げられているからかもしれない。
「気にしなくてもいいよ。みんな、君の小ささに驚いているだけだからね」
そりゃあ筋肉質のあなた達から見れば、平均身長もいっていない私は小さく見えるだろね。
心の中でそう思いながら、ジョゼフさんに席に座らせてもらう。
まあやっぱり思った通りというか、テーブルは私の目とちょうど同じ位置にある。
…………自分の身長の低さが思い切り自覚できてしまう。
「…………君用の椅子が必要だね」
ジョセフさん、お願いだからそんな仕方がないものを見るような目で見ないで。
再びジョゼフさんに抱き上げられると、今度は隣に座っていたジョセフさんの膝の上にのせられる。
「…………子連れ狼ならぬ子連れ熊?」
いつの間にかいなくなっていたセレスさんが、大きな土鍋を持ちながらそう言ってきた。
もう、なんとでも言ってくれ。
目の前には、セレスさんによっておいしそうな雑炊の大きな鍋が置いてある。
ツヤツヤと光を反射して輝くご飯。
食欲がそそられる出汁の香りが漂ってくる白いスープ。
細かく刻まれた色とりどりの野菜。
人参っぽいオレンジ色の野菜。
ほうれん草のような緑色の葉っぱ。
トロっとした卵。
空腹を感じていた私にとって、目の前にある料理が宝箱に見えた。
それにしても、鍋がかなり大きい。
私の顔よりも大きい。
まあ、そう思っていたのは私だけじゃなかったみたいだけど。
「ねぇ、これって一番小さい鍋よね?」
「そのはずだよ」
私の正面に座っている座っているセレスさんが、恐る恐るといったふうにジョゼフさんに聞いている。
いや、持ってきたのあなたでしょうが。
ジョゼフさんも、セレスさんの反応に苦笑しながら答えている。
「……サーヤが小さく見える」
セレスさんの左の席に座っているノーヴァさんが、ポツリと小さな声で呟く。
「サーヤ、鍋は熱いから絶対に触るなよ」
「盛るのは、私達がした方がいいですね」
左隣に座っているシヴァさんがそう言えば、右隣に座っているアルさんがそう言う。
もう、完全子供扱いである。
あの私、成人しているのですが。
一応、社会人なのですが。
「思ったんだけど、これサーヤちゃんは食べきれるのかしら?」
「食べきれないだろうね。多くて二杯、少なくて一杯の半分ぐらいだろう」
セレスさんが土鍋を見ながら心配そうに言えば、ジョセフさんが真剣そうな表情で言う。
まあ最近ほとんどまともなご飯食べていなかったし、明らかに入っている量は私が食べきれる量でもない。
それから、ジョゼフさんたちはいろいろと話しているのを見ながら、私は空腹に耐えている。
みんなまだ食べ始めていないし、食べるのなら一緒に食べたい。
思えば、誰かと一緒に食べるのは久しぶりな気がした。
高校を卒業してからはずっと一人暮らしだったし、社会人に入ってからはしっかりと食べる時間すらなかったから。
だから、どうせ一緒にいるのなら一緒に食べたいと思った。
「別に、待たなくてもいいのですよ?」
「え!?」
そう思いながら待っていると、アルさんが雑炊を盛ったカップを私に目の前において私にスプーンを持たせてくれた。
「よく噛んで食べるんですよ。噛まずに飲み込むのは良くありませんからね」
「ああ、話すのに夢中になっていたね。食べようか、サーヤ君」
「いただきます!!」
アルさんがそう言えば、ジョゼフさんに言われ話していた他のメンバーが食べ始める。私も食べようと思い、久しぶりに「いただきます」と言って食べ始める。
噛めば噛むほど、ほろほろと口の中で溶けていくごはんと卵
しかも出汁をたくさん吸っていて、噛めば噛むほど口の中に出汁の味が広がる
くたくたになっている野菜も、苦みは感じず甘みと出汁の味だけを感じる
久しぶりしっかりとした美味しいご飯を食べているとの、シヴァさんたちが不思議そうな表情を浮かべて私を見ていることに気づいた。
「?なんですか?」
「その『いただきます』というのは、いったいどういう意味だい?」
「えっと、もしかして言いませんか?『いただきます』っていうのは感謝の言葉なんです。調理した人とか料理の食材になったものとか、野菜とか食べ物を作る生産者への感謝の言葉です」
昔は、それだけでなく神様や天地の恵とかへの感謝の言葉でもあったらしいけど。
シヴァさんたちの表情に不思議に思いながらも聞けば、ジョゼフさんに聞かれる。
まあ、確かに「いただきます」っていうのは日本だけらしいし、他の国では神様へ祈ってから食べるところもあるみたいだから、この世界では「いただきます」以外の別の方法があるのかもしれない。
「おや、そうなんですか」
「感謝の言葉か。いい習慣だな。俺達がこうやって力をつけ騎士として安全を守っていられるのも、こうやって食事や住居などを提供されているおかげだ。当たり前になっていたことも、それを行う者への感謝を忘れないようにしなければな」
「……うん。やってもらうのが当たり前なことは、この世界にはないもんね」
アルさんが驚いた表情を浮かべて言ったと思えば、シヴァさんとノーヴァさんがしみじみとした表情で言っている。
その二人の言葉に、私も確かにと思う。
一人暮らしをしてから、家事の大変さを自覚して母さんがいつもどれだけ大変だったかわかる。
社会人になってからは家にはろくに帰れず、母さんのご飯の味を思い出しながらコンビニ弁当とか栄養補助食品を食べていた。
あれだけある家事を、母さんは仕事と両立させていたことに驚きだった。
…………母さん、今何やっているんだろう。
「サーヤ、気づかせてくれてありがとう」
「い、いえ!私も、シヴァさんたちに助けてもらわなかったら、きっと死んでいましたから!こちらこそ、助けてくださりありがとうございます!」
「ふふ、お礼を言うのは料理を食べてからにしたらどうだい?せっかくの料理が冷えてしまうよ」
「そうだな」
しみじみと考えていると、シヴァさんに礼を言われて慌てて私も助けてもらったお礼を言う。
そんな私達をジョゼフさんは優しく笑いながら言い、シヴァさんもそれに同意しながら目の前のご飯を食べている。
私は、久しぶりの暖かいご飯をたくさん食べて満足した。
まあ、ジョゼフさんの言う通り全部食べ切ることはできなくて、ジョゼフさんが笑いながら食べてくれたのだけど。
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