(2)子ども

~アルカード(アル)目線~



 私と団長であるシヴァは、目の前にある深い森を見て思わず溜息を吐いてしまいました。



「なんでよりによって、この森に入っちまうんだよ」



 目の前に広がる森は【帰らずの森】と呼ばれる場所で、かなり強い魔物や深い霧の発生が原因で実力者でなければ生きて帰ることはできないと言われています。

 獣人騎士団をまとめる団長や副団長の私ですら、進んで入りたいとは思わないぐらい厄介な場所ですね。



「バカラバッシはここに入っていったんだよな?」

「ええ、そう見えました」



 私たちが追ってきたバカラバッシという魔物は、群れで生活する四本の角と六つの目を持つ厄介な魔物で、政府の方から騎士団に討伐の依頼が来ました。

 なんとか追い詰めましたが、馬鹿……仲間の騎士が一人誤って一匹逃がしてしまった為追ってきたのですがまさかこの森に入ってしまうとは思いませんでした。

 とりあえず、あの馬鹿には始末書と今月の給料を減額しときましょう。



「まあ、まあ。そんな怒るなってあいつもわざとだったわけじゃねぇんだし。な?」

「まったく…………とにかく早く仕留めてこんなところを早く出ましょう。夜になってしまえば、もっと厄介です」

「そうだな」



 この【帰らずの森】は日中もあまり明るくありません。

 夜になれば、深い霧も出てきて更に動きにくくなってしまいます。

 そうなれば、いくら夜目が効く私たち獣人族でも活動出来なくなるでしょう。

 そうなってしまえば、バカラバッシをしとめるどころか森から脱出する事もままならなくなってしまいます。


 それだけは防がなくては。


 周りを注意深く観察し耳を澄ませていると、隣にいる団長が難しい表情を浮かべています。


 すると遠くからバカラバッシの走る足音が響いてきました。

 慌てて団長と共に追えば、バカラバッシの姿が見えてきます。

 囲い込むために団長から横に少し距離を空けながら走っていると


「今のあいつは興奮状態だからな。もし、人を見かければすぐに突進していくだろう。できる限り、早く仕留めるぞ」

「人がいるとは思えませんが……って、団長! あれ!」

「なっ、人影だと!」



 バカラバッシを囲い込んで捕まえるために団長から横に少し距離を空けながら走っていると、バカラバッシの前方に小さな人影が見えます。

 なぜ、このような場所に人影が!?

 このままでは、バカラバッシがあの人影に激突してしまいます。


 なぜ、あの人影は逃げようとしないのですか!?

 バカラバッシ直撃されればば、大の大人でもタダではすみません!


 慌てていると、横を走っている団長が私の方を向いて大きな声で言いました。



「くそっ、アル! お前は、あの人影を保護しろ! バカラバッシは俺がやる!」

「わかりました!」



 獣人の本来の力を発揮し両足を豹の足に変えて全速力で走れば、余裕でバカラバッシを追い抜き前方にいた人影を抱きかかえ慌てて距離を取ります。



「大丈夫ですか!」



 怪我がないかと腕の中の人影を見れば、その人影の正体はまだ十歳も超えていないような肩甲骨までの漆黒の髪と瞳の幼子でした。

 幼子の瞳は、恐怖心でいっぱいになっています。

 逃げようとしなかったのではなく、恐怖心で逃げることができなかったのですね。



 それにしても、なぜこのような危険な場所にこのような幼子がいるのでしょうか?

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