8・相違
海洋ゴミが点々とうかび、重油でどす黒く染まった太平洋――その七万四千フィート上空を、黒い電波吸収塗装でおおわれたU―51高々度偵察機が
その機体には灰色で「丸に星」マークと、ゴチック体で〈U・S・AIR FORCE〉の文字が描かれている。――USSDCは数日前に北米防空司令部 (NORAD)へと改称され、東
「対水上レーダーに感あり。前方カメラを最大望遠に切り替え……これは――
「輸送船はいないのか?なんでも巨人宇宙船を大陸まで輸送するとか……」と
「いまは遠すぎて潜水艦の反応はとても拾えません。もっと高度をさげるか、接近しないと……」副機長がこたえた。「それとも、ディッピング・ソナーを投下しますか?SH80哨戒ヘリから借りたものを無線化して搭載していますが」
「よし、速度をあげろ――マッハ二・七まで増速。ソナーを
「中国海軍から警告です……〝南
「ちっ……」機長が鋭く舌打ちをした。「もう嗅ぎつけやがったか。おい――反転だ。一八〇度転針し、ホノルル基地に帰投しろ」
「
「チャフ、フレア散布!
だが、U―51が発見した艦艇――人民解放海軍155A型原子力巡洋艦〈
「駄目です!完全にロックされています!」副機長がさけぶが、機長は冷静な表情をくずさず言った。
「一か八かだが……エンジンを切ってもう一度フレアを散いてみよう。赤外線追尾ミサイルなら誤魔化せるかもしれん」
「レーダー追尾式だったらどうするんです!我々は死ぬのですよ!」通信員が悲痛な声でさけぶが、機長はいっこう意に介さない。
「どのみち――
U―51の腹面からふたたびフレアの火球が放出され、目標を見失いかけていた対空ミサイルは、ふたたび現れた〝標的〟に吸いよせられて自爆した。
「今だ!ECM装置作動!」機長が言うと、通信員がE939電子戦機から拝借してきたECM装置を作動させ、付近一帯に強力な
「よし……」機体を
*
──NY市・ニュー・ヨーク港──
「U―51撃墜未遂事件」の発生をうけて、国連は――もはや拒否権の
「ふぅ……」屋外のベンチに座り、湯気のたつ合成ココア――液状油脂に香料と甘味料で味付けしただけの飲料――をちびちび飲みながら、学生がいった。「外はさむいですね……暖房
「ふむ、では
「それは……人間は先進技術を有していますし、礼儀礼節を身につけてもいますし……」学生が言いかけるが、教授はそれを手で制した。
「君、君――そういうことではないよ。言っただろう、
「いいかね――人間と動物は、基本的にはなにも変わらない。それに……私がおもうに人間は〝進化種〟、すなわち〝優等種〟などではなく――むしろ〝劣等種〟だ……」
「劣等種?どこがです?」〝劣等種〟という単語に反応し、学生が首をひねる。
「あるいは、劣等種ですらないのかもしれん――人間と、他の動物との本質的なちがいは、動物が地球から〝
彼はそこで一旦言葉を切り、トルコ煙草の紫がかった煙を吐き出すと、やがて思い出したようにいった。
「〝
「先生、帰国便の出発時刻がせまっています……」学生が言うが、教授は気にも留めない。
「面白いものだ――なにしろ、地球のような
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