6・選定
李が〈SC―66〉と題されたその書類を読んでいると、CNSAの職員が彼のもとへ走り寄り、一枚の書類を手渡した。彼はそれを一瞥してからリチャードソンに声をかける。
「今しがた、残存宇宙船の確認がとれました。といっても無線を傍受しているものだけですが――人民解放宇宙軍〈蒼天3号〉、EUSF〈ピレネー12号〉、USS〈アラバマ号〉、カリフォルニア・エアロスペース社〈プロキシマ8号〉、欧州客船協会〈パスファインダー号〉、民間宇宙船〈
生き残りは
だがそこで、彼の眼は〈Kepler―22b〉の文字をとらえた。
――ケプラー22b!
それは地球から約六二〇光年の距離にある、白鳥座ケプラー22星系のバビタブル・ゾーンに位置する惑星であり、これまで発見されたものの中でもっとも人類移住に適した
*
──
CNSAと
「ええ、ええ――本当ですか?信じられん――いや、しかし……」宇宙船の中央に位置する第一艦橋のせまい無電室で、船長がCNSAのオペレーターと交信していた。
「了解しました。NASAもそういっているのなら……ええ、まだ燃料棒を入れ換えずとも大丈夫でしょう」船長は早々に交信を終えると、無電室から出て船員に号令した。
「諸君、我々はただいまより地球へ帰還する。通信封鎖状態でだ――どうやら緊急事態で、我々の宇宙船が必要らしい……くわしいことは判らんが、一刻を争うそうだ」顔面蒼白の船長はそれだけいうと、船員の質問を無視して自室へ引きこもってしまった。
「なあ、おい――船長は何か隠してやしないか?顔が真っ青だったぜ」操縦士は隣に座る同僚にぶつぶつ言いながらも、出発にむけて原子力エンジンのスラスト・レバーをわずかに押し出し、いくつか計器を調整した。そして、地球への最短経路を検索しようと電子マップを開き、起動したソフトウェアは、自動的に
「お、おい!何が起きているんだ!」と操縦士がどなる。「俺は何もしてないぞ!」
「原因は――不明です!システムが未知のエラーを吐いています!」システムを監視していた
「解析しろ!何のためにお前を雇ったと思ってるんだ!」一等航宙士がわめいた。――だが、技術要員がこたえる前に、レーダー監視員が凍った声で叫んだ。
「約七〇キロ前方に反応あり!当該機は――EUSFのC―24E型武装輸送船です!回避信号を発信しましたが、当該機からの応答はなし!」監視員は大急ぎで機体番号をデータベースと照合する。画面に表示された文字を見て、監視員はほとんど悲鳴にちかい声で叫んだ――「回避してください!当該機はポセイドン級核弾頭を搭載しています!」
だが、もはや回避が不可能であることは誰の目にもあきらかだった。〈パスファインダー号〉はすでに秒速八キロの速さで
〈パスファインダー号〉は秒速九キロ、十キロとさらに加速しながら、ポセイドン級恒星間核ミサイルを満載した輸送船に衝突した……
そのC―24Eの乗員は、
〈パスファインダー号〉の三五〇六号
「こわい……たすけて、パパ……」抱きかかえた熊の縫いぐるみを涙でぬらしながら、少女は父親に助けをもとめる。
「よし、よし、大丈夫――パパがついてるからね……」父親は恐怖でなかば放心状態のまま、我が子を抱きよせてはげます。――だが、船体最後部に位置し、急減圧をまぬがれたその客室の気圧も、〇・九気圧、〇・八気圧と、刻一刻とさがっていった。
「私、耳……いたい……」〇・六気圧まで減圧された客室で、少女は耳をおさえる――だが、父親が何かはげましの言葉を言おうとしたその時、客室の隔壁がバキッと音をたてて裂け、二人は血液を
*
宇宙への本格的な進出を果たした人類にとって、
――地球温暖化だって?なあに、俺たちにはあの広い宇宙があるじゃないか!あそこには資源が山ほどあるし、地球は最悪、
だが、宇宙空間から「切り離された」地球――錆び、朽ち果て、あちこちを喰いやぶられた「母港」――において、あれほど湯水のように使えた金属資源と石油資源は、にわかに節約が叫ばれはじめた。
従来の内燃機関をもちいたガソリン・エンジンの
その反面、商業航空路線はほとんど破産していたが、デルタ航空・日本航空・アエロフロート航空・ルフトハンザ航空など数社は、各国政府の出資によってかろうじて破産を免れた。彼らは数十機が導入されていたAn―227〝ムリーヤⅡ〟型
だが、もし、手の届く距離に〝新品の〟地球が存在したとすれば――?
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