第3話 成が言うブスってなんか違うらしい

「何してんだよ…。何してんだよ!朝里!」

「どう…して…」

まだ現実を把握出来ていない朝里。

「お前何してんだよ!!ふざけんな!!心まで弱くなるな!!心までブスになるな!!」

「…誰…?…いい…誰でもいい…私の何が解るの?小学生の時からいじめられてたの…。我慢してたの…。でもなんのための我慢だったの?何もしてないよ?私、誰も傷つけてないよ?なのにどうして私は…」

朝里の涙腺は故障寸前だった。

朝里にとっては、誰かもわからない、こうして泣き続ける朝里を、ずっと抱き締めてくれている人は誰だのだろう?


何だか、さっきの殺意が少しずつ溶けて行くように、朝里の呪縛が消えていった。


やっと顔を上げると、予想だにしない人だった。


成だ。


「…野口君…」



「落ち着け、落ち着けよ、加藤」

そっと朝里を抱きしめて、頭をポンポンと撫でた。


「お前はなんも悪くない。前に俺が言ったはいじめでも何でもない。只、本当にお前がブスだったらブスなんて死んでもいわねぇ。俺は、あの時に下を向いて黙ってるだけのお前がブスって言ったんだよ」


「ほ…他に…一体どうしたら、どうすればよかったの?解らない」


泣くなんて言葉じゃ言い表せないほど、“えく” とか “んくっ”と朝里はとても苦しそうな泣き方をしていた。


「まず、加藤がだと思うな。下を見て…歩きスマホしてるやつらみたいに、そいつらは無しにして、加藤は、何もしてないのに下向いて歩いてる」

「…そう…なの…?私…」

「教室入ってくる時も、挨拶しないし」

「だって私、友達いないんだもん…」

「じゃあ、明日から、俺に挨拶したらいい。俺もおはようも言うし、さよならも言う。だから、加藤も挨拶しろ」

「…野口君に…私が挨拶?…もっと恨まれるだけだよ…」

「大丈夫だ。俺がさせない。大丈夫」




(二回目だ…。私を助けてくれたあの子と…。私を助けてくれた人…)



その“大丈夫”が温かくて、優しくて、嬉しくて…。

また、涙が出る。


その涙を鞄から出したハンカチで拭い、成に支えられてゆっくり立ち上がった。


「もう大丈夫。ありがとう。野口君。

朝里はゆっくり成に頭を下げると、笑って、そっと横断歩道に向かった。

その瞬間、右から大型トラックが結構なスピードで走ってきた。

「加藤!?チッ!馬鹿野郎!!」


周りの人たちが耳を塞ぐような、キーの高い音が響いた―…




「大丈夫か!?」

トラックの運転士が慌てて飛び降りて来た。

「あ、すみません。友達の大切なものが落ちてて…壊したくなくて…すみません」

「あぁ…良かった。でも君、もう飛び出したらダメだよ?」

「はい。すみませんでした」



「お前…何してんだよ、加藤。ビビらせやがって…」

成は自分が死んだかと思うほど、動機が速くなった。

「あ、ごめん。花見さんのスマホ…」

「あ?」

「この待ち受け画面…」

二人は、その待ち受けを見て、目をさせた。

「…俺じゃん…」

「これ…大切だよね?」

「俺に…聞くの?」

『ふ…ふふふふあはははははは!!』

二人は同時に大笑いした。


「じゃあ、私、花見さんにこれ届けるから、ここで。

「俺も一緒に…」

「ダメ!これはダメ。女の子の秘密!野口君も知らなかった事にしてね!」


そう言うと、朝里は一目散に涼子たちの所へ走った。

それを遠くで見てた成は、

「あいつ…結構しぶといな…」

そう言って笑みを浮かべた。




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