第2話 殺心(さつじん)
「女バス、来ないぜ。監督風邪でぶっ倒れたんだと」
「え?」
「誰でもわかる。加藤、いじめられてたんだろ?放課後、花見達が三人が揃って前を歩いてて、加藤が一人で一m以上離れて歩いてりゃ誰が見ても呼び出しって解るだろ」
「え…野口君…助けてくれたの?」
「まぁそんな大そうな事じゃないけど」
「あ…」
「ありがとうは要らない」
「え?」
「お前、ブスだからな」
「…そっか結局…野口君も私の事、馬鹿にしてるだけなんだね…。じゃあ、本当にありがとうは要らないね…」
「あ、おい」
成が何か言いかけたけれど、朝里は無視して涙を瞳の中にたっぷり浮かべながら、朝里は体育倉庫を出て行った。
「ちげぇのにな…」
朝里が閉めた体育館の扉を見つめ、成はボソッと呟いた。
教室に気まずく入った。
すぐ三人と目が合った。
まるで、
【お前が野口君につげぐちしたんじゃねぇだろうな!?】
そんな視線があちらこちらから突き刺してきた。
そう。
成はクラスの…学年…いや、全学年から、幅広く人気だった。
告白なんてもう日常茶飯事。
そして、謝られるのも日常茶飯事。
無口で、いつも一人で、男子からは逆モテだった。
“気取り屋”“すましてる”“鼻につく野郎”
そんな空気なんて気にもとめず、独りを纏っていた。
その何とも言い難い、雰囲気がもう女子達はメロメロだった。
その中で、一番近づけるクラスメイトは、いつだって成の話題で、詰まっていた。
何より忙しかったのは、スマホ。
みんなサイレントにして、画面が映る時は授業は聞き流すだけで、光る瞬間を待っていた。
『今日も野口君格好良いね♡』
『ねぇ。ブスに邪魔されたけど、少し話せてラッキーだった』
『あたしなんて、バスケ部の練習見逃したくなくて、帰宅部に入ったんだもん!』
『あはは!それはウケル!』
しかし、それでスマホの使い道を間違えているのに、さらにこいつらに間違いが発生する。
一人のラインを皮切りに、一斉にそれは朝里に首に巻き付いて、朝里は死にかける。
『朝里ちゃーん?元気?さっきは置いてけぼりにしてごめんねー。まさかと思うけど野口君に要らない事言ったりしたりしてないよね?してたら学校、来られなくなるよ?』
『朝里ー、あんたなんか野口君と話せる権利なんて持ってないの。解る?』
『もしも、あたしらから呼び出されたなんて言ったら、もう最終手段に出るからね』
涼子と栗と一花からのラインだった。
(あなたはあたしをどうしたいの?私が何したって言うの?)
涙目で、三人に目を向けると、涼子はにやついて、他の二人にやれとでも書いたのか、栗はきつい目で睨んで、一花は右手の人さし指で、べーをした。
『なんで?なんでブスってだけでそんな酷い事言うの?無視してればいいじゃない。どうして?』
『バーカ!ブスはそれだけで不快なの。こんな狭い部屋で同じ空気吸ってるってだけで気持ち悪くなるんだよ!』
朝里は行き場を失った。“ここにいるだけで不快”だなんて、もう打つ手はないじゃないか。
だって自分は本当にブスなんだから…。
でも、それは生まれつきで、朝里だって、願ってブスに生まれて来たわけじゃない。
それなのに…何故…?
放課後、三人が教室を出ると同時に、静かに席を立って、気付かれないように三人に付いていった。
そして、校門で、無防備な三人の背後からそっと朝里は、待った。
大きな車か、スピード出し過ぎな車が来ることを。
(いける!)
獲物が来た。
小走りで、三人を突き飛ばした…
…しかけたのに、腕がなぜか三人の背中に届かない。
そうこうしていると、三人は何もどこもケガもそれどころか、朝里に気付く事さえないまま、帰って行った。
朝里が絶望に苛まれ、殺そうとした。
しかし、そのあってはならなかった事件を止めた。
誰かが腕をつかんでいたのだ。
「…どうして?どうして止めたの?あいつらは…私の心を殺したのに…!」
「…朝里…」
「どうして止めたのよ――――――――――!!!」
その場でうずくまり、悲鳴のような泣き声で周りの生徒は少し不気味がって、早足で朝里を避けて通り過ぎて行った―…。
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