おい!ブス!俺たちについてこい!

第1話 私の名前は、ブス。

加藤朝里かとうあさり

中学二年生で、クラス替えしてから、私、加藤朝里は名前が変わった。




…私の本当の名前は…







ある日の放課後、

「加藤さん、ちょっといい?」

「あ、うん」

話しかけてきた女子は三人。

本間栗ほんまくり下田一花しもだいちか花見涼子はなみりょうこだった。

三人は、何も言わないまま、朝里の前を行く。

(もし…だったら…どうしよう…)

朝里の脳裏にが蘇ってくる。



場所を変えて、体育館の倉庫に四人。

「加藤さん、中学に進級してから、友達、あんまり出来てないみたいだね」

「あ…うん、私緊張しいで…新しいクラスにまだ慣れなくて…」

「緊張って…あはは!」

「え?」

涼子は栗と一花をバックに大笑いした。

この派閥のリーダーは涼子だ。

「馬鹿じゃないの?慣れとか時間とか関係ないの。朝里、あんたがだからだよ!解ってなかったんだね、可哀そうに(笑)」

「ふふふ」

三人の笑い声が被った瞬間、

(まただ…また始まった…)

それはだ。

そう思った瞬間、朝里は下を向き、何も言えなかった。



その時、




「ん?お前ら何?女バス…じゃねぇな。もうすぐ女バスの奴ら来るぜ?良いの?」

誰かが倉庫に入って来た。

「あ、なり君…!」

「…何してんの?」

「えっと…ガールトーク…って言うか、女の子同士しか話せない事とか、色々あって…」

と、この状況を、どう上手く切り抜ければいいか、焦った。



成は、学校中でも人気の男子だった。

バスケ部で、一年生にもかかわらず、いつもレギュラー。

バスケ部にいて困らないところ満点だった。

背は百八十九センチ、ドリブルや緊張に押しつぶされないメンタル、不利な体勢でも勢いの限りのダンクシュート、そんな繊細で豪快なバスケの技を、中学校一年にして、バスケ雑誌の一ページに紹介されるほどだった。



「俺はこんなとこに四人いて、一人がいじめられてるっぽい女子以外のお前ら三人に会っちまってアンラッキーだけど」


「え…や、こ…れはなんて言うか…本当に秘密話で…ね?朝里!」

「あ、うん。そうなんだ。大丈夫」

その朝里の大丈夫と言うから、手を伸ばすのをやめた。



「ま、いいや、俺そう言うの別に興味ねぇし。とにかく早く出てけ。もう女バスの連中くる」


「あ!はい!行くよ!栗!一花!」 


笑いものにされた上、一人、置いてけぼりになってしまった。


中一の時は、少ないながらも友達はいた。

二、三人だけだけれど…。

しかし、二年生になったら、一人も友達が出来なかった。

一年生の時の朝里以外の友達が同じクラスになり、自分ひとり、一組~九組まであるクラスからはぐれてしまえば、いちいちお弁当も食べなくなったり、トイレだって一人。

ただでさえ、人見知りなのに…。


そして、朝里が一番恐れていた事…が始まってしまった。

実は、朝里は、小学校の時もいじめられていた。




―小学一年―

「ブースブースブース!!!」

「あさりの味噌汁、朝里が作ると変な匂いするってさー!」

「貝が落ちてたら割っちまおうぜ!」


そう言うと、その男子連中は、ぱかっと開く筆箱を、貝に見立て、バッキバッキに踏みつけにした。

「あ…!や、やめて!やめてよ!壊さないでぇ!!」

朝里は必死で止めよとした。


その筆箱は去年、父にもらった誕生日のプレゼントだったのだ。

とっても、大切だったのに…。

朝里をいじめるのに飽きた三人の男子は、悪びれる様子もなく、

「ブース!ぺっ」

最後、その筆箱に、これでもか、と言わんばかりに、唾を吐き、去って行った。



「何?お前。いじめられてんの?」

自分より少し大きな男の子の声が、筆箱を大切に胸に抱え泣いている朝里に近づいてきた。

泣きながら、朝里は言った。

「パパにもらった筆箱…壊されちゃった…朝里…嬉しかったのに…パパ…怒るかな?パパ…悲しいかな…?」

「うーん…解らないけど、俺が一緒に謝りに行ってやるよ。お前は悪くないって」

「え?」

「だって、俺見てたから。最後、唾つけられてたの。それだけ見えたんだ。だから心配すんな!大丈夫だ!俺についてこい!」


その時の男の子はまさにヒーローだった。


「ごめんなさい!パパ!実は…パパから誕生日の時買ってもらったものなのに、壊してごめんなさい!」

「ごめんなさい!パパさん、ママさん!この筆箱は朝里ちゃんをいじめていた奴らのやった事です!助けられなかったので、俺も一緒に謝ります!ごめんなさい!!」

朝里はもちろん、男の子の方が必死で謝ってくれた。

その男の子のしっかりさに、朝里の両親は驚いた。

「ありがとう。朝里を助けてくれて。朝里もよーくお礼言いなさい」

そう言われかけた瞬間にもう玄関から姿を消してしまった。

「大丈夫です!俺、帰ります!」

その子は最後になっても名前も言わず飛び出して行ってしまった。


と呼ばれたのは、本当に悲しかったけれど、あの男の子が、小学何年生か、どのクラスなのか、それを全く聞かないで、離れてしまった事を、朝里は、とても寂しく思った。



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