成人式の悲喜劇

@maxyamada

第1話

一週間後の今日、タクマは晴れて成人の日を迎える。

今年の成人式は特別だ

なぜならこの年から成人年齢は18歳にに引き下がり、オレはその18歳成人の第一号になるからだ。

一週間後を想像するだけで胸が高鳴ってくる…

誰もがオレに注目する。オレが主役だ。

地味なスーツで成人式なんて糞くらえだ

オレは幼馴染のコウジとバイト代をはたいて真っ白な特攻服と旭日旗を新調し、車から乗り出して掲げることにした。

軽く10万を越える出費だが安いもんだ。

車もサンルーフのワゴンは家にないので乗用車の屋根に穴を開けてそこからオレが旭日旗を持って顔を出し、街中を爆走する予定だ。


迎えた成人式当日。周りを見渡すと似たような格好の新成人達がオレこそ主役と言わんばかりにお互いを牽制し合っている。

ちっ、負けてたまるか

オレ達こそが今日の主役だ!


オレは颯爽と車に乗り込むと屋根から上半身を乗り出しコウジがフルスロットルでアクセルをベタ踏みする

みんながオレ達を見ている

勢いそのまま街中に繰り出し、寒さもなんのその注目を浴びたい一心でひたすら街中を走り回った。

カマキリのようなデコバイクを乗り回してる特攻服くん達もオレらの車のインパクトには流石に敵わない。


「きっ気持ちいい〜」


まるで自分が世界の中心になったような解放感が全身を包み、記念の成人式は終わった…

………

……


ー翌日ー


「タクマ!あんたなんてことしてくれたんだい!」


朝一番にタクマの家に怒号が響き渡った


「かっ母ちゃんなんだよ」


「どうしたもこうしたもあるかい!あんた車に穴なんか開けてどうするつもりなんだい!お前ふざけろよぉ〜」


「ほっ、保険入ってるだろ。それで直せばいいじゃんか」


「バカ!自分で勝手に穴開けといて保険降りる訳ないだろ!

とにかくすぐに直してきな!」


「そっ、そんな金ねえよ」


「ほぉ〜、あんな馬鹿みたいな服と旗は買えるのに車は直せないっていうのかい?

それになんだいあの真っ白で格好悪い服は!カレーうどん食ったらお終いじゃないか!

旗といい服といいあんなもん今後どこで使うつもりなのか言ってみな!

お前ふざけろよぉ〜」


「そっ、それは…」


「成人式っていうのはね、昔の元服の出陣の代わりに式に出て一人前の男になりましたと世間様や領主様、今でいう市長さんに顔見せをする場なんだ。

だから自分が立派に見えるように、今後立派になれるように正装で式に臨むんじゃないか

それをなんだい、馬鹿みたいに派手な服着て騒ぎ散らかして、戦場だったらあんた真っ先にぶち殺されてるんだよ?分かってるのかい!

どうせあんたのことだから街中を悦に浸りながら走り回ったんだろうけどね

世間様はあんた達に見とれてる訳じゃないんだよ

今年もまた同じ様な馬鹿が量産されたと憐れんで見下してるのさ

そんなにアピールしなくても馬鹿なのは十分伝わってるよと

そんなに注目を集めなくても元々鼻つまみ者だから昔からみんな注目してるよと

馬鹿モグラ乙と

あんたのブラックアウトした未来を生暖かく見つめてるだけなのによくもまぁそこまで勘違いできるもんだ!

お前ふざけろよぉ〜」


「オ、オレは他の奴らとは違う!一緒にするなよ!」


「だったら車の修理費は自分で出しな。

他の奴らとは違うんだろ?

もうあんたは成人なんだ

いつまでも親の脛かじってないで働きな!

今後この家に住み続けるなら家賃を貰います。

それに食費に光熱費、ガソリン代。

一人前にキチッと払いな。

服と旗買わないで車に穴開けなければ余裕で一人暮らし始められたのに…

高い勉強代だと思って受け入れるんだね

不良が許されるのは未成年までだ。

成人して不良やってたらただの馬鹿だぞ!

アディオス!」


タクマはぐうの音も出なかった…

オレは何で車に穴なんか開けたんだろう。

特攻服やら旭日旗やら今後使うこともない代物をわざわざ買って…

オレは…愚かだ…」


子供から大人に変わる成人式。

善悪の区別。損得の区別を学んだ成人式。

母ちゃんの説教で未熟な精神が成熟した日。

タクマはこの日、聖人(成人)になった。


終劇


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