第32話
「下がってなさい、私が姉の強さを見せてあげるわ」
いつお姉ちゃんになったのかはさておき、怪我をしたノルと不調の俺は大人しく下がるべきだな。
そこにはハシャマがいた。
「ひどいけがだっぺ!任せてくんろ!」
やはりこの身体、成長途中なせいか零式自体の適正、魔術流路はリンやノル以上に完成度が高いものの身体がついていけてない。
レイの時はその流路が未完成だったが、肉体を犠牲にすることでどうにかなっていた。
更に零式本来の独壇場である近距離戦、それが難しい。
クォーターエルフの身体、あと50年後の身体なら……
「……萎えました」
女はまるで何も起きていないかのように平然としていた。
「逃すと思う?妹と弟を傷つけたあんたを」
「いいですよ、今は姉の称号を差し上げます。今は、ですが」
女が跳躍する。
「だから逃さないっての!」
リンが追おうとするが、膝を崩してそれをみた女は遠くに飛んでいってしまう。
「無理はしない方がいいですよ?ではまたお会いしましょう」
闇に消える女、やはりその声はどこかで聞いたことのある声に似ていた。
◇ ◇ ◇
「………ズ……」
……何だ?
「……レイズ、いつまで寝てるの」
あれ?俺は……
「……ノル?魔導書は全部覚えたのか?」
「え?」
「何寝ぼけてんのよ、でもよかったわ。もう起きないかと思ったもの」
「起きた……あれ?」
どうやら俺はあの後寝ていたようだ。
「何故添い寝を!?羨ま……ではなく魔力不足で絶対安静なんですよ!?」
「ライもしたいならすればいい」
「え、いいのですか!?では早速」
「ええと……僕どれくらい寝てた?」
身体も何となく軋んで痛みもある。
「3日よ、治癒してくれたシーアに感謝しなさい」
「レイズっちのためなら大丈夫だよー」
そんなにか……今後の俺の課題だな。
「ごめん、役に立たなくて」
まさか零式絶禍を避けられるとは想像していなかった。
あれは、人なのか魔物なのか。
「大丈夫、私も何もしてない。でも看病はしてた。リンもずっとレイズのこと見てた、かわいいって」
「そんなこと言ってないから!ライもいつまでも添い寝してない!やることはやってるんでしょうね!」
リンに睨まれたはライはふふっ、と笑みをこぼす。
これだけ見ればカッコいい。
俺の髪の匂いを嗅いでなければな。
「私が何もしてないと期待していますね…?残念でした、きちんとやるべきことはしていますよ」
取り出したのは零式水晶。
「解析が完了してどんな零式が保存されているか判明しました。最初に言っておきますがこれはかなりの悪意の塊かつ、高度な魔術です」
「いいから早く」
「一言で言えば、強制的に零式を使用出来るように覚醒させる零式です」
零式に覚醒させる零式?
だが、それだけならあの暴走は理由がつかない。
「わからないと言う顔ですね?そうでしょう、ですか問題はその覚醒方法です。この零式は対象のある場所に作用します。何処だと思います?」
能力を覚醒させる。
それなら作用する場所は1つだ。
「……脳?」
「流石レイズ君、その通りです!この零式を受けた対象を
「もしかして、あの暴走は副作用?」
「そうです!流石かわいいだけではありませんね。零式に覚醒する代わりに脳が損傷します、そして獣の様に正気を失うんです。話に聞くと黒い女は例外のようですが」
ある意味適合したということだな。
「黒い女は理性もほとんど残っているようですし、かなり高度な零式を用いれる可能性があると言っていいでしょう。もしかするとそれは鍛錬では至れない場所でリンやノルよりも上かもしれませんね……」
「何よそれ……触りさえすればいいなんてふざけてるわ!いいわ、私もそれに触れてみるから」
「止めた方がいいんじゃないかな、今の話だともしかしたら廃人になるかも知れないんだよね?」
「ええ、これはハイリスクハイリターン、というか先程も申しましたが零式使いには影響ありません。しかし、何故この様なものを作ったのかもわかりません。私には無理矢理零式を広めている様にしか……」
「本当にレイが……?」
違う。
そう言いたかったが、今の状況はそうとしか言えない状況だった。
「そ、それはどうかなと思いますね……」
「私もー!そんなことしないよ、多分きっと
ライとシーアの擁護がすごい弱い。
正体を知る2人はきっと俺が野望の為に零式水晶を創り出したと思っているのかも知れない。
「……レイは多分、そんなことしないよ」
「あんたに何がわかんのよ、会ったこともないあんたが」
リンは吐き捨て零式水晶を触れない様に持ち出す。
「あのー、取り込み中悪いんだげど……」
空気を読んで完全に部屋に入り損ねたハシャマとイシャがいた。
「ごめんなさい、僕を助けてくれたのに」
「あー、そげなこと気にしてねぇっぺ。
それよりわい村の人手が足りねぇみてぇで戻りてぇんだけど、ええかな?」
「勝手に帰りなさいよ」
「そだそだ!あのこえぇおなごいたっぺよ、なんか落としてってさ、何かてががりになっかなと思って渡しとくべ」
「ありがとう、へぇ、何を落とし……」
それは、髪飾り。
何度も見た小さな青い蝶をあしらった髪飾りだった。
「んだ!?おいどこいくんだべ!!」
……そうだ。
何故あの声を思い出せないでいた?
完全に思い込んでいたからだ。
まさかそんなことをするはずないと、願っていたからかもしれない。
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