第25話
シドラ地方はレイとして生まれた家よりもさらに北東の最辺境地のことだ。
そこは標高の高い険しい山脈が連なり要塞と化していた。
そして何よりバスダニア帝国との国境のほとんどがシドラ地方になり、自然要塞のおかげで侵略をされることなく今に至る。
だからこそ少しの異常も見逃す訳には行かない。
「久しぶりに来たけど相変わらず寒いわね。設備も老朽化しやすそうだし予算変更してもらいましょ。貴族を肥え太らせも何の役にもたたないもの」
きちんと仕事をする奴もいるかもしれないが、ここはリンに賛成だ。
「お待ちしてたべー!あんたがリン様とノル様だべか?」
「お待ちだべ!」
……でかい、身長だけではない。
隣にいるのは娘だろうか、小さいがでかい。
「あんたがシドラの案内役?よろしくね。こっちはノルとそっちは新入りのレイズよ」
「あらー、思ったよりわけぇんだね!もっとおっさんが来ると思ってたから驚いたべ!」
地方の訛りがあるが聞き取ることは出来た。
「これ、ちょうだい」
おいノル。
「あらー、おっぱいだべか?重いだけでなんもよくねぇけどお乳ならたくさんでぇから吸えばいいべ!」
「ダメ!これはわたしの!」
「イシャ、欲しい人にあげんのがこの村の決まりだべ」
ノルが下からそれを支える度にたゆんたゆんと揺れる。
ほぼ薄布1枚の薄着なのは寒さに耐性があるのかもしれない。
……というか、あげるのか?
「あの!僕達異常行動を起こしてる原因を調査に来たんです、案内してくれませんか?」
俺達が見ているのなんて関係ないと言わんばかりにノルに授乳させようとしていたので無理やり話を元に戻す。
「あー、そうだったべ。じゃついてこいー。そいや自己紹介まだだったべ、ハシャマだべ。よろすくたのんだべ。こっちのちっこいのは娘のイシャだ」
「よろしくおねげします!」
「んじゃ、危ねぇからいえに戻ってな」
渋々と言った感じでイシャが戻った後、ハシャマに案内されている道中ずっとノルがもみまくっていた。
「そんな気に入ったべ?」
「興味深い、私とリンにはない」
「あるわよ、馬鹿にしないで」
「そうか?お、ここだべ」
案内された家は隔離されていたが、中に入るハシャマはなんの対策もしていなかった。
「がぁぁぁ!殺してやる!こっちにこいやぁ!!」
両手足は鎖で繋がれてるが今にも飛びかかる勢い。
「ハシャマさん!何か対策しないと!」
「対策……?ああ、近くにいるだけで同じようになると思ってんのか?」
「違うんですか?」
「こいつに触られなけりゃ平気だ、ただ触らられたりゃおしめぇだけどな」
空気感染するものではないことがわかったのは良かったが、触るだけで移るのはそれはそれで厄介だ。
症状を見ることも治療も難しい。
「ただこうして暴れるもんで何人かは力尽きてな……」
墓石代わりの氷柱が立ち並び、その前では泣き崩れる女性。
「こんなに犠牲になってる人が多いならここにきっと何かあるはずだよ、何か最近あった変化はないんですか?」
「ってもなぁ、こげな辺境だし変わったことありゃ……そういや旅の人がきたなぁ、全身真っ黒でなぁ、すごい疲れてたみてぇだからそん時はめしあげたんだがな。多分ありゃ帝国からの亡命者だっぺ」
亡命者か。
「で、そいつがお礼にってすんげぇもんくれたから飾ってたんだ。そこのわいらの神さんの祭壇の前だ」
「女神ユスティですね」
確か豊穣の神だったはず。
ユースティアの語源もそこから来ている。
さて、どんなすごいものが……
「ノル」
「わかってる」
2人が息を呑む。
俺もそれに見覚えがあった。
間違いない。
零式水晶だ。
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