第12話

 中心部から少し離れた場所。

 そこが零魔団の拠点だった。


「勝手にこっちの団員を引き抜かないで欲しいんだけど」


「勝手じゃない、彼女には説明した。それに銀鷲の方が彼女の力を引き出せる。脳筋のリンにはわからないかもしれないけど」


「は?そっちこそ知識ばっかり詰め込んでるだけじゃない」


──また姉妹喧嘩が始まったな

──美少女同士の喧嘩は絵になるな


 セミロングの金髪。

 意志の強そうな吊り目、こちらも金の指輪をしている。


 ノルだけじゃない、リンもいた。

 性格はそのままだな。


 周囲の反応からは恒例のといった感じらしい。


「……あ」


ノルと目があうとなぜかこちらに向かってくる。


「昨日の男の子、銀鷲に興味ある?」


「あ、えっと……」


「また出たわねそれ、に似た黒髪の子にあたり構わず話すのやめたら?犯罪よ犯罪」


「リンも一緒、そんなんだからまだ処女」


「うっさいわね!」


 マジで何の話をしてるんだ……


「やる?」


「望む所よ!」


 ノルとリンが多重詠唱を開始する。


 リンは同種の多重詠唱、ノルは複数種だ。

 

──零式拳ゼロ・フィスト


 零式を拳に纏い、対象を殴った瞬間に一気に零式を拡張させ吹き飛ばす零式だ。

 安直にリンが思い切りノルをぶん殴ろうとするが、ひらりと避ける。


──零式絶ゼロ・ブレイク


 ノルがリンに触れようとするが僅かに届かず、その眼前に零式が展開され前髪を切り裂く。


「あんた殺す気?」


「大丈夫、リンなら死んでもしなない。今度は私」


 ノルがリンの周囲の地面を隆起させる。


──零式絶包ゼロ・フルブレイク


 ズウラに使った零式に似たものだろう。

 地面の中へ零式を展開、全方位から零式を鳥籠の様に囲う。

 地面を通すのは熟練した零式使いであれば魔力の揺らぎからどんな零式か判断されてしまう為。

 見えないが鋭利なそれは触れたらタダでは済まない。


「は?何これ」


 ……のだが、リンは周囲全てに零式壁を展開して全てを防ぎきる。

 人ひとりを全て覆う零式を展開出来るのはリンの膨大な魔力のおかげだろう。

 

──零式剣ゼロ・ブレイド


 リンが作ったのは不可視の魔力剣、それを思い切りノルに突きつける。


──零式壁ゼロ・ウォール


 それは零式壁をも貫きノルの服を大きく斬り胸が露わになる。


「脳筋」


 ノルがかなり押されている。

 ノルと比べても魔力量は桁違いなのかもしれない。


 知のノルと力のリン。

 徐々にノルの方が後手に回っていた。

 脳筋すぎる。


 というか、本気で戦っているよな……?

 

「このショタコン!あんたに渡すくらいなら私が保護するわ!」


「それはこっちのセリフ」


「なかなかやるわね、なら……」


「ストップです!リン!」


「ノルも終わりです!」


 リンの止めに入ったのは長身の美女だ。

 ノルの方は背丈の低い女の子。


「止めないでライ!今日こそ決着つけるのよ!」


「その通り、シーアも」


 全身に絡みつく零式鎖ゼロ・チェーンでリンノルが身動き取れない所を見ると、少なくともズウラよりは上の団員か。


「実力は拮抗、そしてだからこそユースティア王は互いの長所を生かすべく2つの団を作った、争うためではないでしょう」


「そうだよー、ノルも大人気ないねー」


「……わかったわよ」


「シーアが言うなら」


──いやー、いいものを見せてもらったぜ。

──ライ様とリン様はそろそろ結婚かぁ?

──いやいや、ノル様とシーア様の方が先だろう。


「……なるほど」


 指輪もしていたし、ノルもリンも相手がいたのか……にしても同性とは。

 確かにどちらも黒髪だ。


「あんたも大会出るの?」


「うん出るよ、姉さんが出るついでだから僕はすぐ棄権するけど」


「やめときなさい、遊びじゃないのよ?」


「大丈夫、すぐに棄権すればいいだけだから」


「あそ、あんた気をつけなさい、ノルはあんたみたいな黒髪の子誰でも構わないんだから」


「う、うん……じゃあね、リン」


「……今私の名前呼んだ?」


 やばい、つい。


「すいません」


「もう一度呼びなさい」


「何故ですか?」


「いいから」


「……リン」


「っ!」


 それだけで顔を真っ赤にする。


 ……何だこの反応?


 まさか本当に小さい男の子が……


「ごめんなさい!姉さんが待ってるので!」


「あ、ちょっと!!」


 何にせよ今は正体を明かすわけにはいかない。

 何故俺が最低の魔術師と呼ばれているか、それがわかるまでは。


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