第9話
「今日は何かの祭り?」
「ええ、王国暦300年の節目を迎えたパレードですね!」
俺が死んだのは確か王国暦250年、つまりあれから50年後か。
所どころで魔術を使っている様だが零式ではない。
フィクナも聞いたことが無いと言うし、やはり普及は無理だったか?
「どうしたのですか?何か嫌なことでもありました?」
「ううん気にしないで、それよりご飯にしない?お腹すいてさ」
「そうですか?ならとっておきのお店に行きましょう!」
案内されて店に入って食べたのは鳥の丸焼きだ。
母さん達御用達らしく、北京ダックのように皮をメインに食べるらしく甘辛くて食べやすい。
「ここのはいくらでも食べられちゃいますね!」
「母さん達にもお土産で持って帰れるかな?」
「そうですね、聞いてみましょう」
前世では出来なかった親孝行、小さなことでもしてあげたい。
「おい、銀鷲の到着だぞ!!」
と、飯を食べていると急に店の中が騒々しくなる。
ぞろぞろと入ってきたのは5人の男たち、胸に銀鷲のブローチ、確か鷲と獅子は王国の象徴だ。
なるほど、何か有名な王国所属の兵士なのだろう。
「この店で1番旨い酒と飯を寄越せ」
その中のリーダー40歳くらいか?髭面のガタイの良い男かそう言うと革袋をカウンターに放り投げる。
ジャラジャラと言う音と落ちた時の音で金貨であることは明白。
「は、はい!急いで!」
女主人は少し怯えたような顔だ。
「なんだ、文句があるのか餓鬼?」
すると子供が1人男に近づく。
その手にはナイフ。
「前にも来て暴れたせいでママが大怪我した!でてけ!じゃないと痛い目にあうぞ!」
「やめなさいジェス!」
「ママ?ああここの女主人の息子か……なぁおい」
「へ?」
男は一瞬で少年の背後に移動し額に触れると、それだけで少年は吹き飛び動かなくなる。
まさか、これは……零式?
殺傷能力は低く、かなり弱いが間違いない。
「……レイズ、その子をお願いしていいですか?」
「え、あ、うん」
「そこの方、私と勝負して下さいませんか?」
え?ちょっと何言ってんだ!?
「姉さん!?」
「お前と?へぇ……なかなかの別嬪さんじゃねぇか。いいぜ、だが負けた方は勝った方の言うことを聞くでいいか?」
「はい、レイズは心配しないでください」
外に出た2人、フィオナは弓矢を出して男は素手。
「いつでも来ていいですよ?」
「大層な自信だな、なら弟の前で犯してやるよ!!」
魔術詠唱はなし、無詠唱。
発現は1,2……10程か。
零式初級中の初級か。
一方フィオナは距離を取る。
弓は遠距離、相性が良い。
1発1発は弱いが近づかれなければ勝てるだろう。
「どうしたのですか?近づくことすらできないと?」
「…………」
明らかに優位なのだが、男に焦った様子がないのが気になる。
「いきます!」
フィオナが矢を放った瞬間、男は矢に向けて手を向けると跳ね返りフィオナに矢が襲いかかる。
──
零式の壁で攻撃を受ける単純なもの、だが零式を知らなければ何が起きたかわからないだろう。
「う、嘘……」
「せっかく楽しむんだ、傷つけたら勿体ねぇからなぁ」
やるしかないか。
俺は瞬間、多重詠唱を行う。
その数、100。
──
「……なっ!?」
触れた地面を隆起させ、男の脚の腱を斬る。
「お、おい!何をした!」
「え、わ、私にも何がなんだか……」
「ちっ……ならこれで……」
男は再び多重詠唱を行う。
数は20といった所、まだ懲りないらしい。
もっときついお灸が……
突如地面から現れた檻に男は囚われ身動きとれない。
「こんな所て何してる、ズウラ」
「だ、団長!」
その銀髪、そして高度な零式。
指には銀色の指輪。
「迷惑はかけない、零式は人を助ける大切な力」
その姿、成長していても見覚えがあった。
……間違いない、ノルだ。
「ごめんなさい、部下が迷惑かけていた」
「あ、はい……」
姿は少し大きくなったたろうか、見た目から16歳ほど美少女に成長している。
美しいのはエルフの血の影響だろう。
「平気です」
「……ズウラ、何をしていたの」
「い、いえちょっと飯を食っていただけで……」
「ちょっと?ならその子は何故倒れているの?」
ノルは少年を抱き起こす。
「何があったか教えて」
少年から話をきいたノルは更に檻を狭くズウラを拘束する。
「ごめんなさい」
ノルは少年に抱きつく。
「本当にごめんなさい……大切な人が傷つくのは辛い、私も似た経験あるからわかる」
「……うぅ、うわぁぁぁぁぁあん!」
「良かったですね……うぅ」
「……そうだね」
リンとノル教える時に決めていた事があった。
それは1ヶ月の短い期間、2人をただ教えるだけにした。
どうせ死別するのだ、愛情やそう言ったものは与えていないはずだったのだが……
「ノル……良かった」
「……私?」
やばい、つい声に出ていた。
「あの、えっと……その、僕は……」
また話がしたいと思った。
……言おう、信じられなくても。
「おい子供!ノル様に呼び捨てとはなんだ!呼び捨てにする不届き者は史上最低の魔術師レイ・ゼロスくらいだぞ!」
「うるさいズウラ」
「うぎゃ!?」
………………………え?
いま、何て?
「まさか貴様、ノル・ノート様とリン・ノート様の偉大な零式を自分のものだと語るレイ・ゼロスの信奉者か!?こんな子供まであのような最低の詐欺師の信奉者とは……」
「だからうるさい」
「うぎぃ!?」
「最低……詐欺師……」
……どうやら、俺は更にとんでもない汚名を着させられているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます