新生、レイズ編

第8話



──イズ……



 ……暖かい。


 それに、甘く香りがする。

 昔病院で嗅いだことがある。

 これは……赤ん坊の匂い。


 どこかに赤ん坊がいるのか?


 何故か身体が動かない。


 死期が近いせい?死んだからか?

 いや……これは動かせないのではなく、


「こらレイズ、大人しくしなさい。そうじゃないとおっぱいあげませんよ?」


 目の前でそんなふざけたことを言う美女。

 だが、到底そんなふざけた様子ではなく真面目だ。


「起きたか!おおやはりリトファと俺の息子、可愛いな!いや、カッコいいか…?」


「アルブ、どっちもですよ。可愛くてカッコいいに決まってるじゃないですか」


 それもそうだな!ははは!


 親バカと言うやつだろう……ではなく。


 


 つまりこれは……


「ふぁあうはうへぁー《また転生したらしい》」




◇ ◇ ◇



 レイズ・アレグリス


 それが俺の新しい名前だった。


 ユースティア王国、その北部にある町ネリム。


 広大な牧場主であるアルブとその妻リトファ息子として生まれたのが俺だった。


 人間の父とハーフエルフの母、つまりクォーターエルフ、そして。


「大丈夫、レイズは私の弟です!だから私が守ります!」


 姉、フィクナがいた。

正確には本当の姉ではなく、両親が亡くなって母親リトファが引き取った子供らしい。


 ちなみに生まれてから5年間は大人しく子供らしくして、7年間は密かに零式の実践をしていた。

 同い年が周りに1人もおらず学校すらなかったのは驚きだが辺境ではこれが普通なのだろう。

 流石に赤ん坊がいきなり意味わからない零式を使えば忌み子と思われてもおかしくないからだ。


「ごめんなさいね、お願いねフィクナ」


 美しい長髪の栗毛、髪には形見の小さな青い蝶をあしらった髪飾りの美少女、俺の側にはいつも姉、フィクナがいた。

 年齢は5歳上、姉と言うよりもほぼ保護者で実の母親が貴族生まれだったせいか言葉遣いも雰囲気も高貴だった。


「はい!お買い物に行きたいなんてえらいけれど、一人だなんて行かせられませんから」


 12歳になりようやく一人で出かけられると思ったのだが……というか子供扱いしすぎではないか?


 だが俺には目的があった、それは……


「姉さんは零式って知ってる?」


「……零式ですか?」


「う、うん」


 一瞬表情が変わった気がしたが気のせいか。


「うーん、私は魔術適正が全く無くてほとんどそのあたりの知識は無いんです。お料理とかお洗濯の知識ならあるんですが」


 それも当然か、辺境で育てば普通は魔術に触れないで一生を終える人も少なくない。


「レイズは魔術に興味があるのですか?」


 ……ここで興味ある、なんて言ったら『危ないからやめて下さい!』と言われるに違いない。


「ううん、魔術がどんなものか見てみたくって」


「そうなんですね、でも見るだけにしてくださいね?魔術なんてすっごく危ないものなんですから!」


 やはりそうだろうな。


 家からユースティアの中央部までは歩いて半日かかる。

 日々の雑貨や医療品など中央部から売り歩く行商でこと足りるので、大怪我をしたとかでなければそうそういくことはないのだが、娯楽として月1回家族でいくらしいが今までは俺がいたことで行けなかった。


 で、今日は俺も12歳になり1人で行こうと考えたのだが。


「……なんで姉さんと2人なの?」


 そう、何故か俺とフィクナ姉2人で行かせられていた。


 子供だけに任せるのだろうか。

 それだけ信用されているということか?


「嫌ですか?」


「嫌じゃないけど珍しいなって」


「大丈夫です、私に任せて下さい!」


「母さん達は何してるんだろう、姉さんは知ってる?」


 いつもならうきうきで街に行くはずなのだが。


「そ、そ、それはですね、神様からレイズの弟か妹を授かる儀式をしているんです!はい!」


 ……あー、なるほど。


 母さんは確か20で俺を産んで父さんは同い年らしいから、まだまだ元気という訳か。


「儀式ってどんなこと?」


「はえっ!?ど、どんなことかですか!?そ、それはほら……ええと……抱きしめ合ってその……」


 顔を真っ赤にして可愛いが、意地悪しすぎたな。


「そのうちわかりますから!それよりお願いがあるのですが、少しだけ目と耳を塞いでくれませんか?」


「え?いいけど……こう?」


「あ、もう大丈夫です!」


 え?いや数秒しか経っていないぞ?

周囲を見ても何か変なことが起きている訳でも……いや?


 魔力発現の残渣がある。


 まさかフィクナが?


「ぼうっとしていると日が暮れてしまいますよ、行きましょう!」


 いや、気のせいか……





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