第6話
「……驚いた」
「当然でしょ!」
「頑張った」
本当に10日で全て覚えるとは思わなかった、特にノルだ。
初日は1冊の1割ほどしか覚えていなかったが、翌日にはもう2冊目に突入していた。
読み進めれば進めるほど難解になるはずなのだが、それでも30冊を5日で完璧に覚えていた。
世の中には風景を一瞬で完璧に記憶する者もいると言うが……
「記憶するの苦手なのよ……うぅ」
リンに関しては2日で1冊ギリギリ覚えたくらいだが、それでも調子を上げて10日で全て暗記していたし十分過ぎるくらいだ。
次のステップに進んでもいいだろう。
「次は発現だ、方法は今覚えた詠唱を頭の中で読み上げるだけだ」
手のひらに小さな氷の塊が発現する。
「まずはこれが出来るように訓練する……ん?どうした?」
「発現と行使を別々に覚えて使うの面倒なんだけど」
そう、それが普通の考えだ。
「零式は発現さえ完璧なら行使の段階まで進むことは無い」
「……………え?」
「まず仕組みを教えておくべきだな……最初は多重詠唱だ。多重詠唱は詠唱、魔術を組み合わせてより強力なものにしたり、複数の魔術を同時に放つものだ」
「それはわかるわ」
「零式は複数の魔術を詠唱し、一度に全ての魔術を発現のみさせる。そうすると……」
「そうすると?」
「魔力塊を発現させることが出来る」
「……よくわからないわ」
「実際に見た方が早いな」
50mはあろうかと言う近くの大木に触れる。
──
直後、大木は左右に真っ二つになる。
「やっぱりすごい」
「以前話した発現は武器を持っているだけだと言ったよな?」
「言っていたわね、でもそのままじゃ意味ないともね」
「そうだ、だが一瞬で目の前に巨大な大剣が現れたらどうなる?」
「それは…………あっ」
「その空間は引き裂かれる……?」
「そうだ、零式は何も見えないから行使していないように見える魔術、だが実際には触れた対象内に魔力塊が発生する魔術だ」
「でも、それって触れないと駄目なんて使いにくいし、殴った方が強くない?」
ごもっともだな、だが。
「殴っても急所でなければ死に至らないだろう。それ以外にも利点はある、まずは魔術として中途半端だから魔術無効化の対象ならない点だ。そして極めれば……いや、これはまだ先の話だな」
「それが本当なら凄い」
「今のは100の詠唱を瞬時に行った結果だ。素質にもよるがハーフエルフは1000は余裕だろう……ということでこれからは発現の訓練だ、今からこの
取り出したのは黒い水晶。
「1000回の多重詠唱を行えば反応して破壊される。だが相当時間がかかるだろうからあまり気負わずに取り組むといい、俺ですら2年は……」
「できた!」
「…………………………………は?」
「こんどは私が勝ちね、ノル!」
「負けた」
出来たと言ったのか?
確かに見てみれば水晶は破壊されていた。
……ハーフエルフはこれが普通なのか?いやそんなはずはない。
「リン、ちなみにどうやった?」
「え、ただ頭の中で同じ1000回詠唱しただけよ?簡単だったけど」
「……あの数秒でか?」
「だって同じ言葉だし、ノルもできるんじゃない?」
しかしノルは首を横に振る。
実技はリンの方が向いているのか?
「本当に凄いな」
「そ、そんな褒められても嬉しくないわよ!早くあれよこしなさいよ!」
「わかってる、ほら」
シャイマを前にするリンは目を輝かせていた。
「あんたは食べないの?」
「食べ飽きたからな」
「うわ、贅沢ね……うーん、おいふぃ!」
嘘だった。
もう食い物の味はわからない俺が食べても無駄だ。
死に近づいているのだろう。
それまでに何としても全てを2人に伝えないといけない。
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