第2話

「…………」


 次の日、俺は朝から完璧な準備を済ませ待ち続けていたが。


「……誰も来ない」


 街の至る所に貼り付けたチラシをもう一度よく確認してみる。


『弟子募集、誰も知らない秘伝の魔術を君に授けよう!

魔術経験:不問

年齢:不問

費用:無料

さぁ、君も新たな力の扉を開こう。

希望者はユースティア北域区、レイ・ゼロスまで。

場所は……』


 画期的なアイディア、それは弟子の募集だ。


 誤字脱字は無い、なのに何故?

 

 魔術師長だったことは城の外でも周知の事実だったはず、それなのに誰も来ない。

 おかしい、絶対におかしい。


 不思議に思い街の中心部に行ってみるとその理由が分かった。


 貼り付けたには『詐欺師』『魔術師団の恥』『最低の魔術師』という落書き。



「あの、少し良いか?」


「ひぃ!すみませんすみません!どうか助けて!」


 街で見かけた少年に声をかけてみると逃げられる。

 少年だけではない、話しかけようとした街の全員に逃げられるか無視され逃げられてしまう。


 嫌がらせは城を出てからも続いているらしい。


 今までの功績は全て無かった扱いか。

 面倒だな、無能魔術師はまとめて殲滅して……


 いや、それをしてしまえば逆賊、秘伝の魔術も人殺しの道具として語り継がれてしまうだろう。

 

 ……仕方ない。


 弟子になりたいという人いないのなら、人を見つければいいだけだ。


◇ ◇ ◇


 ということで翌日にやって来たのは奴隷市場。

 他の貴族が仕入れる前の早朝なら良い奴隷を手に入れられるはずだと一番乗りしてみた。

 そしてわかったのは奴隷が想像以上に酷い扱いを受けていること。


 まず第一に誰もまともな服を着ていない、布切れ一枚、女は全裸だ。


 労働力として買うにしろ、性奴隷として買うにしろ商品は至る所を見なくてはいけないのだから確かに効率的なのかもしれない。


 市場にポツポツと建てられた簡易な小屋からは女の嬌声が聞こえて来る。


 奴隷市場兼売春宿と言ったところかもしれない。


 「この中でこれに該当する奴隷はいるか?」


 そのうちの1人の恰幅の良い奴隷商人に希望を書いた紙を渡すと男は怪訝な表情で品定めするような目つきになる。


「こう言う奴隷は希少だからなぁ……お高いぜ兄さん?」


「構わない、金はいくらでもある」


 差し出した革服には300万ルードが入っている。


 魔術師団の月給は100万ルード、平均的な魔術師なら25万程で300万は1年分にも匹敵する大金。


 ちなみに平均的な奴隷の金額は20万らしい。


「ついて来てくだせぇ、こう言うのはちゃんとした場所に保管してるんでね」


 男について行くと小汚い個室の並ぶ建物の中を歩かされる。


 そして1番奥の扉を開けると、そこにいたのは少女だ。


「ハーフエルフで15歳以下、男女問わないが五体満足で処女か童貞、旦那さんの理想の奴隷だ。本当は先約があったがまぁどうにでもなる。どうだい?」


 銀髪、銀の瞳、しかしひどく痩せ気味で肌は透き通るように白い。

 怪我や傷は無く確かに理想だ。


「一応処女か確認してみるかい?」


「魔力の流れを見ればわかる」


 溢れんばかりの綺麗な魔力の奔流、それは純潔を保っている幼いエルフ特有のものだ。


「なら取引成立だな。んでハーフエルフは最近人気でね、忌み嫌われてはいるが物好きがすぐ新品を買ってっちまう」


「何が言いたい?」


「そんな怖い顔しなさんな、折角の美形が台無しだ。つまる所300万は品代として、旦那さんみたいな有名人には口止め料を貰ってるんだ。まぁ、あんたほどになると100万は……うおっ!?」


「300万追加だ、これで文句はないよな?」


「……へ、へい……」


 どうしようもない人間だな。

 これから奴隷を買う俺も人のことは言えないが。


「名前は?」


「名前?そいつのですかい?あー、確か……ノルって名前だったかな。だがもう旦那の奴隷だし名前は自由につけてくだせぇ」


 銀髪ハーフエルフ、もといノルが奴隷商人が渡した服を着て手錠を外した時だ。


「……もう1人いる」


「ん?誰がだ?」


「ハーフエルフ」


 消えそうな小さな声で仲間がいることを教えてくれた。


「おい!余計なことを……」


「ということはいるのは本当なんだな?」


「あ、いえ旦那、いるにはいるんですがあれは特別中の特別でして譲る訳にはいかないんですよ」


「いくらだ?」


「いや、こいつばかりはちょっと……」


「これならどうだ?」


 1000万ルードをテーブルに置くと男は冷や汗をかきはじめていた。


「ま、まぁあっちの旦那には死んだとでも伝えておきゃ問題無いし……旦那も決して他言無用で頼みますぜ?」


「勿論」


 男が本棚を何やらいじるとその後ろから別な扉が現れた。

 そして鍵を開ける。


 直後、何かが飛び出してきた。


「おい逃げるな!!旦那、そいつがもう一匹のハーフエルフですぜ!」


 金髪だということは視認できたがあっという間に俺の手からノルをひったくり窓から飛び出す。


「早い、期待できるな」


「感心してる場合じゃないですぜ!」


「平気だ……その身のこなしはどこで覚えたんだ?」


 2階の窓から飛び出た2人を


「は、え……何で!?」


「さて、何でだろうな」


「離せ!!」


「行くぞ、お前の名前は?」


「うるさい!近づくな変態!!」


「暴れるな、今逃げてもいいがその格好で逃げたらどうなるかわからないぞ?」


 金髪少女は辛うじてボロ布を羽織るだけで見えてはいけない部分がチラチラと見えてしまっていた。


「……」


 顔を真っ赤にした金髪少女に布を被せて軽く首筋に触れると気絶する。


「リン!」


「少し眠ってもらっただけだ、大人しくしてれば喰ったりはしない」


 怯えながら黙って涙目でこくこくと頷くノル。


 ……冗談だったんだが。


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