二十歳までの件
月之影心
二十歳までの件
「俺と付き合わない?」
「ん~……そういう感じじゃなくない?」
俺、
美紅とは幼稚園の頃からの知り合いで、それこそ兄妹のような付き合いをしていた幼馴染だ。
馬鹿な話も真面目な話も、お互いが相手ではないが色恋の話も、多分今まで生きて来た中で一番話をしたのが美紅だろう。
だから美紅の事は誰よりも知っているつもりだし、可愛らしい容姿もあるけどそれ以上に人間として魅力を感じていて、気が付けば美紅を一人の女性として好きになっていた。
「やっぱ違うのかな?」
「違くはないんだけど、恋人になって何が変わるのかな?って。」
「何が……ん~……今までしなかった事が出来るようになるとか?」
「それってえっちな事じゃん。」
「それもあるけど……他何かあるかな?」
「知らないよ。」
淡々とそんな話をしていたが、頭の中では『こりゃダメか』という諦めの想いと『何とかならないかな』という諦め切れない想いが交錯していた。
「今みたいな幼馴染の関係が続くのがいいのかな?」
「私にとってはそれがベストだと思ってるけど、太我くんは違う感じ?」
「違う……ん~……違ってはないけど、このままだと二人とも他の人と付き合って結婚してってなるだろ?そしたら今みたいな関係続けるって難しくないか?」
「それは相手次第だと思うけど……まぁ難しいよね。」
要するに俺の独占欲だと思った。
美紅が他の男と一緒に居る事を思うと、どうにも胸の奥がモヤモヤして落ち着かなくなっていたから。
「何にしてもさ、私は今の太我くんとのこういう関係が一番楽しいから、太我くんとの事にヤキモチ妬いてめんどくさい事言う人はお断りよね。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ヤキモチ妬かない人が居たら断らないって事だよな?」
「まぁ……そうなるかな?」
「それが嫌だから言ってんだけど……」
「心配しなくてもそんな聖人君子みたいな人居ないって。余程の遊び人でも無い限り男はヤキモチ妬きだから。」
いくら俺が高校生でも、自分の周りに居る人間だけが全てじゃない事くらい分かってる。
そんな男が今後美紅の前に現れるかもしれないから焦ってるんだよ。
「そんなに私と付き合いたい?」
「うん。」
改めて訊かれるまでもないんだけど。
「じゃあさ、大学3年になるまで太我くんが誰とも付き合わなかったらOKするよ。」
「へ?どういう事?」
「どういうも何も言葉通りよ。今から勉強して、大学生になって、3年生になるまで太我くんが彼女作らないで居たら私が彼女になる。」
「何?よく分からないんだけど……」
美紅の提案がよく分からなかった。
何故今じゃなく4年以上先?
俺が彼女を作らなかったら?
「大学3年って事は二人とも二十歳になってるでしょ?」
「そうだけど……それが?」
「まぁ二十歳に拘りは無いけど、何かの節目にはちょうどいいでしょ?それまで彼女作らずに居られるかな?」
よく分からないけど、要するに大学3年まで彼女を作らなければ美紅が彼女になってくれるって事で、悪くない提案なのだろう。
「分かった。」
「よし。じゃあそれまでは今まで通りの幼馴染だよ。」
「うん……けど美紅はどうなんだ?」
「私?何が?」
「美紅も二十歳まで彼氏作らないで居るのか?」
「だから私は太我くんとの関係にヤキモチ妬かない人じゃないとダメだから。」
答えになっていない気もしたが、本人が『そんな聖人君子居ない』と言っているのだから美紅も二十歳まで彼氏は作らないだろうと都合よく捉えておいた。
それから俺も美紅も受験に向けて勉強に勤しんだ。
美紅はそれなりに勉強の出来る子で、狙っているのも地元の国立大学だった。
毎月の模試でも割といい判定が出ていたようだ。
俺はと言うと、運動は得意だったが勉強は今一つ。
国公立は言うまでも無く、私立でも中堅クラスでは厳しい判定ばかりだった。
それでも不純ながら美紅の提案もあり、寝食を惜しんで勉強した結果、何とか地元から離れはしたが県外の私立大学に合格することが出来た。
親元を離れて初めての一人暮らしは何もかもが新鮮だった。
朝誰も起こしてくれない。
朝食は誰も作ってくれない。
如何に親に甘えていたかを痛感させられた。
大学は楽しくもなく詰まらなくもなくといったところ。
普通に講義を受けて帰るだけの繰り返しだった。
サークルも色々面倒臭そうだったので何処にも入らなかった。
美紅とはメールでのやり取りが続いた。
内容的には他愛も無いことばかり。
敢えてかどうかは分からないが、お互いに『二十歳までの件』について触れる事は無かった。
親から『社会勉強の為にアルバイトはやっとけ』と言われていたので、居酒屋でアルバイトを始めた。
あまり学生が気軽に来れる雰囲気ではない、ちょっとお高い感じの店だ。
と言っても実際はそれ程でも無く、ただ若者が大勢でワイワイ出来るような雰囲気ではないというだけ。
店員もそれなりにしっかり教育を受けなければならず、俺にも1つ年上のアルバイトの女性が教育係として着く事になった。
彼女の名前は
薄いメイクでもハッキリした顔立ちで控えめに言っても美人だったし、笑顔が可愛らしい人だなとも思った。
ただ何となく、雰囲気が誰かに似ているなぁとは思ったが似ている人なんていくらでも居ると思いつつ、少しだけ頭に留めておくことにした。
蓮見さんはとにかく色々な事を熱心に教えてくれた。
「結城君、お皿はこう持つと軽く感じるし安定するよ。」
「お客様のこの角度から出すと驚かれないから。」
教え方も上手で、俺は順調に仕事を覚えていく事が出来たし、お陰で客からも店長からも評判は良かった。
「物覚えのいい子で私も助かるわ。」
「いえいえ、蓮見さんの教え方が上手なんですよ。凄く分かりやすいですから。」
「あら、私を褒めても時給は上がらないよ?」
「そんなつもりじゃないですよ。」
「あははっ、分かってるって。」
歳は1つしか変わらないのに、妙に『お姉さん』というのが板についていて、実の姉が居ない俺にはそれもまた新鮮だった。
「結城君は彼女居ないの?」
開店準備を終えて休憩していた時、不意に蓮見さんが訊いてきた。
俺はふと、大学やアルバイトで忙しくしている中で美紅の存在が少しだけ薄れてきていた事に気付いて焦った。
「居ませんよ。」
少しぶっきらぼうになってしまった。
「そうなんだ。かっこいいからモテると思ったんだけど居ないのかぁ。」
「かっこ良くも無いしモテもしませんよ。」
「いやいや、キミはかっこいいよぉ?特にジョッキ両手に持って運んでる時とか大皿の配膳してる時なんか最高だね。」
「それ、重たい注文僕に持って行かせようとしてませんか?」
「あはっ!バレた?」
蓮見さんは人を掌の上で転がすのも上手かった。
「まぁ冗談はさておき、本当に結城君はかっこいいと思うよ。」
「ありがとうございます。」
「フリーなら狙っちゃおうかなぁ~。」
「僕なんか狙わなくても蓮見さんならもっといい人釣れますよ。」
「釣れるとか!男漁ってるわけじゃないっての。」
「はは……すいません。」
実際、蓮見さんほどの美人なら普通は言い寄られたら断られそうにないと思うのだが、不思議と蓮見さんから男の気配が感じられない。
俺が気付いていないだけかもしれないけど。
アルバイトを始めて半年程経った頃、俺は蓮見さんに食事に誘われて街に出て来ていた。
半年の間、店内やバイト明けの夜にしか会った事の無かった蓮見さんと昼間に会うのは何とも不思議な感じがした。
明るい所で見る蓮見さんは更に美人だった。
昼を蓮見さんお勧めと言うラーメン屋で済ませ、食後のコーヒーを近くのカフェで楽しんでいた。
「そう言えば蓮見さんってうちの大学じゃないですよね?」
「うん。と言うか大学生ですらないよ。」
「え?そうだったんですか。」
よく考えてみれば、半年も一緒に働いて居ながら俺は蓮見さんの素性を殆ど知らなかった。
「私、専門学校生だよ。調理師目指してるんだ。」
「あー、それでよく厨房に入ってるんですか。」
「あれは入ってるだけ。さすがに包丁持たせてはくれないよ。あの店そういうところしっかりしてるもの。板さんたちの手元とか見て勉強させて貰ってるだけよ。」
「凄いんだ。あ、でも専門学校って事はあと半年もしない内に卒業ですか?」
「私は将来自分でお店持ちたいから、料理だけじゃなくてマネジメントとかも勉強出来るコース選んだんだ。そのコースは3年制だからあと1年ちょっとは学生だね。」
将来を見据えた学問というのはこういう事を言うんだろうなと心底感心した。
「どんなお店持とうと思ってるんですか?」
「そうだねぇ……あまり大きいのは管理大変そうだから満員でも10人。和洋中取り混ぜた創作料理のお店とかいいかなって思ってるよ。」
「完全予約制みたいな?」
「あ~いいねそれ。憧れるよ。」
将来の夢を語る蓮見さんの目は生き生きとしていた。
「何か今日はやけに私の事知りたがるね?」
「え?あ、いや……そういうつもりじゃなかったんですが……気に障ったらごめんなさい。」
「ううん、全然構わないよ。寧ろ結城君が私にそんなに興味持ってくれるのは素直に嬉しいよ。」
にっこりと笑顔で俺を見る蓮見さんに、俺は少し照れ臭くなって視線を泳がせてしまっていた。
その後、何を買うでもなくショッピングモールをぶらぶらしていると、蓮見さんが『折角だから晩御飯も一緒に食べよう』と言い出した。
俺も蓮見さんもその日のシフトは入っておらず問題は無かったので、今度は俺がお勧めの店へ行く事にした。
お勧めと言っても此処に来てまだ半年ちょっとしか経っていない学生が年上の女性を連れて来られるようなお洒落な店を知っている筈もない。
「あははっ!やっぱり学生の推しと言えばこういうお店よね!」
有名牛丼チェーン店から出て来ると、蓮見さんは『分かる分かる!』と連呼しながら揶揄でも何でもなく楽しそうな顔で言っていた。
「それにしてもあの味は侮れないわね。」
調理師を目指しているのもあって、使っている調味料や出汁について色々語っていたが、俺には何の事かさっぱり分からず仕舞い。
蓮見さんは余程機嫌が良かったのか、このまま夜景を見に行こうと車で山を昇り始めた。
街を外れて昇った山の頂上の展望台で、俺と蓮見さんは手摺にもたれて夜景を眺めていた。
「今日は楽しかった。」
「はい。僕も楽しかったです。蓮見さんの事も色々聞かせて貰えたし。」
「おや?私に興味持っちゃったかな?」
「半年以上一緒に仕事していて知らなさすぎってのもありますけど。」
「じゃあこれからはもっと私の事知って欲しいな。」
薄暗い展望台で俺の顔を覗き込む蓮見さんは、何だかやけに色っぽかった。
「もっと知ってくれる?」
蓮見さんは俺の腕にもたれ掛かりながら、上目遣いにそう言ってきた。
「え?」
こんな雰囲気の中、こんなに色っぽく言われる事が『もっとお喋りしましょう』じゃない事くらい俺でも分かる。
俺の頭の中は様々な状況をシミュレートしていたのだが、
と同時に、頭に浮かんだ蓮見さんの笑顔に別の人物の顔が重なった。
(美紅?)
その瞬間、俺は『二十歳までの件』が過って思わず蓮見さんから離れていた。
「どうしたの?」
「あの……ぼk……俺……蓮見さんに知って貰いたい事が……あります……」
恐る恐る見た蓮見さんの顔は、さっきの色っぽい顔ではなく、いつもの柔らかい笑顔だった。
「実は……お、俺……好きな子が居るんです……地元の幼馴染なんですけど……その子と約束していまして……その……蓮見さんは凄く素敵な人なんですけど……好きな子との約束は……やっぱり大切って言うか……その子の知らない所で裏切れないって言うか……」
自分でも何をどう言ったのか分からなかった。
一瞬だけ蓮見さんを見て、すぐ目を逸らして、を繰り返しながら話していたが、蓮見さんは俺をその優しい目でじっと見続け、俺の話を最後まで聞いてくれた。
話が終わっても、蓮見さんは無言のまま目線を泳がせる俺の顔を見ていたようだった。
「帰ろっか。」
どれくらい時間が経ったのだろう。
多分そんなに長い時間ではなかったと思うけど、俺には永遠にすら感じた時間は、蓮見さんの言葉で中断した。
「ふふっ。結城君が見た目以上に真面目で安心した。」
蓮見さんはすっきりしたような顔でそう言っていた。
冷静に考えれば、年下の男に誘いを掛けて断られたのだから多少なりとも落ち込んでいるのではと思ったりもしたが、そんな気配は微塵も無かった。
だが、それからの蓮見さんは直球だった。
「付き合おうよ。」
「好きになっちゃったんだよぉ。」
「確約の取れない約束より『今』だよ。」
半分以上冗談っぽい口調ではあったが、以前のように当り障りの無い話し方ではなく、ダイレクトに『付き合って』と言ってくるようになった。
勿論、他のアルバイトや店員が居ない時に限ってだが。
不思議だったのは、毎回丁重に断り続けていて、ちょっとでも俺が『面倒だな』と雰囲気を見せると蓮見さんのアタックがぴたっと止む事。
そして暫くしてまたほとぼりが冷めた頃に剛速球を投げ込んで来る……そんな繰り返しだったので、益々蓮見さんが何を考えているのか分からなくなっていた。
そんな事を繰り返しつつも、やはり蓮見さんは美人な俺の教育係なわけで、一緒に居て面白くないわけがなくて、買い物や食事に誘われれば同行もしたし、逆に俺の服をコーディネートしてくれたりもして、本当の姉のような感じにもなっていった。
そして時は流れ、美紅と約束をした大学3年を迎えようとする春休み。
蓮見さんは専門学校とアルバイトを卒業する事になった。
「おめでとうございます。」
「あははっ……ありがとね。」
閉店直後、蓮見さんは店長始め、従業員や当日シフトの入っていたアルバイトに囲まれ、俺からの大きな花束を抱えて目をウルウルさせていた。
「何か3年あっという間でしたけど、皆さんと一緒に働けて楽しかったです。」
俺の後に入って俺と同じく蓮見さんが教育係になっていた女の子は顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
店長も鼻をぐずぐずいわせていた。
俺は花束を持って店を出る蓮見さんと一緒に店の外に出た。
「例の約束……二十歳になったらってやつだっけ?もうすぐなんでしょ?」
「え?あ、はい。来月ですけど……?」
美紅との『二十歳までの件』は、蓮見さんと夜景を見に行ったあの時にしか話した事が無かったのに、何故このタイミングで出てきたのか分からなかった俺は、ついぽかんと口を開けたままになってしまった。
「ふふっ。幼馴染の子もずっと一人で結城君の事待ってるよ。」
分かっているような口調で言う蓮見さんは何となく満足気な表情だったが、その理由を把握したのはそれから暫く後の事だ。
大学3年になる春休みの後半、月は4月になった。
俺はバイト先に3日程休みを貰って実家に帰ることにした。
美紅との『二十歳までの件』……約束を果たす為に。
電車を乗り継いで実家の最寄りの駅に着くまで、心臓の音がやけにうるさく感じた。
『ドキドキ』というよりは『ドンッドンッ』という感じ。
電車を降りて駅を出た俺は大きく深呼吸をした。
「おかえり。」
聞き慣れた声が横から聞こえてきた。
美紅だった。
「え?何で?」
「何でって……今日帰って来るって言ってたじゃん。」
「言ったけど時間も何も言ってなかったし。」
「まぁいいじゃん。時間の節約だよ。」
「あー……うん。」
家までは歩いて10分程。
その間、俺と美紅は無言で歩いていた。
家に着くと美紅が玄関を開けてくれた。
そのまま俺の部屋だった2階へと向かい、美紅が俺に続いた。
「この部屋久し振りだね。」
「俺は正月に帰ってたからそうでもないけど。」
「あそっか。今年は私、お婆ちゃんとこ行ってたからねぇ。」
部屋の中をぐるりと見渡す美紅は、大学へ行く前と変わった様子は無かった。
「さて太我くん。」
「ん?」
布団の無いベッドの縁に腰掛けた俺の正面に美紅が立って言った。
「約束の時が来た。」
「何だその黙示録みたいなのは。」
「あははっ。言ってみたかっただけ。」
美紅は少し頬を染めて笑顔で俺を見ていた。
「よくここまで彼女を作らずに来られました。」
「え?あ……うん……」
「よって!目出度く私、星宮美紅は太我くんの彼女になるk……」
「ちょっと待て。」
「ことに……って何よ?」
俺は猛烈な違和感に襲われていた。
「俺、何も言ってないぞ?」
「何を?」
「大学行って彼女作らなかった事だよ。」
「作らなかったんでしょ?」
「それは天に誓って。けど、俺その事一度も美紅に言ってないだろ?何で美紅が知ってんだよ?」
美紅はニヤっと顔を崩したかと思ったら、予想だにしなかった名前を口にした。
「蓮見……広香ちゃん。」
「え……?」
何故美紅の口から蓮見さんの名前が?
美紅と蓮見さんに接点なんか無い筈だが……。
「何で……美紅が蓮見さんの事知ってるんだ?」
美紅は俺の顔を見続けたまま『うふふ』とか『あはは』とか笑いながら事の顛末を話した。
「まずね、太我くんと広香ちゃんが会った事……これはもう全くの偶然なの。広香ちゃんもびっくりしてたよ。『あの太我くんかぁ』って言ってた。」
「え?何それ?どういう事?」
「覚えて無いよね。広香ちゃんは私の従姉だよ。小さい頃太我くんも一度だけ一緒に遊んだ事あるし。」
蓮見さんを初めて見た時、雰囲気が誰かに似ていると思ったのは美紅だったのか。
顔立ちはあまり似ていなかったので思い浮かばなかった。
「まじか……」
「家に写真もあるよ。でね、広香ちゃんがアルバイト先に太我くんが来たって電話で言ってきたから、例の『二十歳までの件』を話したの。そしたら広香ちゃん『じゃあ2年間私がスネークしてあげる』って。スネークって何?」
「わ、分からんけど……」
「まぁそれで太我くんが彼女を作ったかどうかは広香ちゃんから筒抜けだったって事よ。」
俺は全身から血の気が引くのを感じた。
真っ先に思い出したのは、あの夜、蓮見さんと夜景を見に行った展望台の事。
蓮見さんの誘いに乗りそうになった時、何故か突然浮かんできた美紅との事は、虫の知らせというか第六感というか……そういうものだったのかもしれない。
まぁあの夜の事は美紅には黙っておいても良さそうだ。
「広香ちゃんの誘いも私との約束があるからってちゃんと断ってたんだってね?」
筒抜けだった。
「広香ちゃん綺麗な人でしょ?太我くん、広香ちゃんに取られちゃうかもってほんの少しだけ心配もしたんだけどね。でも広香ちゃんって昔から年上好みだから大丈夫だって思って安心してた。」
蓮見さんが年上好み?
じゃああれだけ俺にアプローチ掛けていたのも……演技?
何だか凄く騙されたような気がして一気に力が抜けてしまった。
諸々あり大学もまだあと2年程あるが、今俺はこうして隣に美紅が居て念願叶ったという感じ。
蓮見さんが監視役だった事は、美紅も意図しない偶然が重なった結果だと割り切る事にした。
「ところでさ。」
「ん?」
「美紅は俺との関係にヤキモチ妬かないような人に出会わなかったのか?」
美紅は俺の顔を笑顔で見た。
「広香ちゃんが言ってたでしょ?『ずっと一人で待ってる』って。」
俺は蓮見さんが最後に満足気な顔で言った言葉を思い出し、声を上げて笑っていた。
二十歳までの件 月之影心 @tsuki_kage_32
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