第3話 纏う

約200年前魔法ができてから大きく変わった物の一つは戦争等の戦術形態や喧嘩などのスタイルである。特に体を動かすのが得意ではない人でも魔法が強ければ喧嘩が強いのだ。

そして魔法の普及は戦う力をみんながそれなりにもってしまうことを意味する。

しかしそれと同時に娯楽としての魔法戦が人気となり生活にも魔法は根付いていたため国は魔法を取り上げることもできなかった。

その結果、魔法を高いレベルで扱える必要がある職業が出てきた。

 一つは魔法戦のプロである。これはスポーツ選手と似ている。その強さをもって人々に魅せ、勝利することでお金を得る。当然弱ければなれない。並外れた努力、才能が必要となる。

 二つ目は自衛官や警察官などである。他国に攻められたときに戦車や戦闘用ジェットしか使えないようじゃ魔法には勝てないのだ。当然高い魔法戦闘力が要求される。警察も取り締まる相手が魔法のせいでそこそこ強いことが平気であり得るのだ。そのためかなり高いレベルが要求されるようになった。狭き門となり給料がめっちゃ良くなった。

 3つ目は教師である。特に魔法学の教師はかなりのレベルが要求されるが一般の教師も実はハードルが高い。大きな理由としては教師は子供を守る必要がありつつ、子供に負けてはいけないのだ。魔力の制御が下手な子供が放つハチャメチャな魔法から他の子供を守ったり、模擬戦として子供複数を一人で相手したり、子供同士のケンカは止めないとだし、反抗的な子を抑え込む必要がある。魔法がからっきしの人では務まらないのである。そして教師とは学問も教えなければならない。魔法を武と言っていいのかはわからないが行ってみれば文魔両道でないといけないのだ。


 長々と書いたが要は教師というのはマジの狭い門を潜り抜けたエリートである。給料も魔法開発以前からは信じられない位良い。


 つまり教師4年目、由良 吹はとても優秀である。本当に優秀である。が三瞬くらいフリーズした。

 当然原因は割れているシールドである。


「えっと衣手君?エネルギーボールか他の魔法か使った?」


 一応聞いてみる。が由良自体がわかっていた、ありえないと。

魔力に対しては気を張っている。エネルギーボールを使った子がいたら絶対わかる。

 考え通り流は


「使ってない」


「お父様、お母さま、お子さんのシールドに何かしましたか?」


 由良はシールドのひびに驚き顔を見せている両親に一応聞く。

 もうあの驚き顔で間違いなく何もしてないとわかっていても、だ


「「なにもしてません」」


 やはり


「衣手君、どうやってシールド割ったの?」


 再度、流に尋ねる。ここが本題


「叩いたら割れた」


 この時点で可能性は二つ。一つは考えたくないので由良はもう一つの可能性について問う。


「もう一回同じようにシールド使ってみてくれる?」


「はーい」


流がシールドを出す。それを見た由良は

 うーんしっかりしてるよな…

 試しに叩いてみるが弾かれた。

つまりシールドがあまりに低レベルだったという可能性もなくなった。

由良の頭に残る可能性は…考えたくないほう

 え?ありえるの?いや、んん?6歳にして『纏える』の?

 世界でも今何人できたっけ?2人くらい?しかも二人ともプロじゃ…

 魔力に親しみ馴染んだ境地とか言われてなかったっけ?

ただそれしか考えられないなら追及するしかない。


「衣手君、もう一回このシールド叩いてみて、思いっきり割るつもりで」


「はーい」


流は拳を振りかぶりシールドを殴った。そして…







ビキビキビキパリン






ああやっぱり。


『纏える』のか。

しかも無意識に

まだ魔法を使い始めて0日目の子供が


完全に割られたシールドを見て由良はありえない現実にゆっくり向き合おうとしだした。一方…


「「「「「……………………………………………………」」」」」


――恐らく壊れないと思います。本気で殴っても壊れませんよ。基本的に魔法は魔法でしか壊せません。まあ魔法の使い手のレベルにもよりますが。ちなみに私はミサイルくらいならいくらでも防げますよ。これが自然における…


先程の由良の説明。これに続く言葉は『魔法優位』である。義務教育レベルのことで当然大人は知っている。だからこそ、沈黙した。由良は真相にたどり着いているがこれは優秀な人が頭をフル回転させているからであり、凡人たちはまだ思考が整理できていない。何も言えない。


子供達はまだ事の大きさがわからない。


沈黙を破ったのは滝だった。


「流、お前『纏える』のか?」


由良と同じ結論を出せたようである。しかし『纏う』ということを6歳の子供が知っているわけがない。そこへの配慮ができていないあたりまだ動揺が見て取れた。


子供と向き合う仕事をしている由良が引き継いで質問する。


「叩いたときに何か右手に感じた?」


「うーん?特になにも」


まだ微弱な魔力しか『纏えない』のか?やはり無意識…

だが由良はこれ以上をみんなの前では、と思った。

もう遅いかもしれないが…


「皆さん、これにて入学時の義務は終わりです。むやみに魔法を使わないように気を付けてください。お父様、お母さまがたもお子さんの魔法には注意を払ってください。それではこれで入学時のクラス会を終わりにしたいと思います。皆さんさようなら、また明日」


多少強引に締めに入った。

他のクラスも同じようなタイミングで終わったらしく騒がしくなっている。ばらばらと帰る人がいる中、由良は衣手一家に声をかけた。


「すいません、少し時間いいですか?」


これには滝が応えた。


「大丈夫です、花と流も一緒でいいですよね?」


「もちろんです」


もう既に校長に概略だけ校内念話で伝えてあった。

その結果校長室に衣手一家を連れてこいと言われたのである。












衣手一家3人と由良は校長室で炎道校長と向き合っていた。

木目調でアンティーク感のある立派な部屋。

が全く気にならない程の校長の真剣な顔。


 私焼き殺されないよね?


と由良は思った。そして万が一のために緊急脱出の経路と方法をイメージトレーニングするのであった。







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