第39話 幼名は?

イヤシロチに着いた月涼は、チビの側へ駆けよって抱き着いた。


「チビ~!!ありがとう。」

「おいおい。月涼。」


少し照れくさそうにしながら、豹の姿のまま月涼の頬に摺り寄せてチビは嬉しそうにしていた。


「それより、嗣子を分離して実体化させたいんだろ?どこまで自分でできてるんだ?」

「ああ。えーっと…ちょっと待ってよ。」


手のひらから法具を出した月涼は、法具を宙に浮かせると金粉を降らせ始めた。その後、映像の様に嗣子が姿を見せるのだった。


「これじゃ、何も出来ないよ。月涼。火を噴くのも無理だ。」


映像のままの嗣子がふてくされて言う。


「だよね・・・へへへ。」

「さてと・・・ここから実体化まで持ち込むには・・・と。」


そう言うとチビは、浄化の時の様に青華蝶を呼び寄せた。


「月涼。この奥にある黄水晶のところまで行こうそこの方が力をため込みやすい。お前が投影されていた場所だ。リュート。龍剣でここから先に誰も入れない様に結界を張ってくれ。出来るか?」

「ああ。そのやり方は教わっている。」

「俺は、何をすればいい?」


仁軌は、手持無沙汰になりチビに聞いた。


「そうだな。リュートが結界を張っている間、そいつの背は無防備だ。しっかり守ってやってくれ」

「おう。それなら任せてくれ。」

「じゃ、奥へ行くぞ月涼。」

「うん。チビ。」


2人が結界を張って待ち続けていると。パタパタと小さな羽音がし始めた。


「殿下。なんか聞こえないか・・・?パタパタって」

「ええ。奥の方から。でも嗣子の羽音じゃないでしょ。龍ですよ。それならバサバサじゃないですか?」

「それもそうだ・・・。ハハハハハ。」


と思ったのもつかの間、目の前に小鳥サイズの小さな龍が現れて炎をブオっと一吹きされた。


「小さくて悪かったな!!」


2人が驚きのあまり声を揃えて悲鳴のように言った。


「ええええええ????」


その後、チビと月涼が奥から掛けてきた。


「成功したよ!!リュート、仁軌さん!!」

「いやいや・・・リア。」

「そうだぞ、月涼。」

『小さくない?』

「うるさ~い!!!」


嗣子の声がイヤシロチ中に木霊する。そんな嗣子をヤレヤレといった感じで月涼が慰めた。


「仕方ないよ~。まだ、生まれたばかりでしょ。それに、今のサイズの方が一緒に動きやすいしね。だから・・・。そう怒らずに。あっそうだ!!幼名は、ここで決めようか?真名は、シン様が決めてるだろうし。何が良いかな?綺麗な金の鱗だからアウルム・スクウァーマでどう?」


「うむ。金の鱗という意味だな。」

「そうそう!!」

「だが、長くないか?」


嗣子は、皆の意見が出そろうまで待てずに口を開いた。


「アウルムでいい!!」

「じゃ。決まりだね。よろしくアウルム!!」


月涼がそう呼ぶとリュートも仁軌もコクリと頷いた。


チビは、嗣子が頭の上に乗っかって揶揄いに来るのが腹立たしく猫に戻って逆に追い回し始めた。


「こらこら。止めなよ・・・。先が思いやられるな。」


月涼のぼやきも空しく、その行動はエスカレートするので、仕方なくアウルムとチビを引きはがしてイヤシロチを後にする月涼たちだった。




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