第38話 尾行
部屋を出てすぐ、後をつけている者がいないか確認した3人は、少し立ち止まって話した。
「人だけではありません。空を見てください。」
月涼のその言葉に、リュートも仁軌もあたりを見回す。
「何もないと思うが?」
月涼は、指を空に向け静かに言った。
「あの鳥、ずっと我々の上を旋回しています。少し移動しますね。あの鳥から我々が死角になって・・・見えない・・・そうだな。あの大木辺りはどうですか?」
そう言う月涼の指示に従い、大木のところで馬をつなぎ空を眺めた。
「あれは、我々の目的地を探っているってことだろうな。」
「ええ。」
「なんで分かった?」
「私がいつも外に出てすぐにするのが、空の状態を見ることです。大気の変化は、移動にとって重要ですからね。」
「なる程・・・。それで、あの鳥が気になったという事か?」
「リュートも気づいてましたよね。」
「ああ。この辺りにいる鳥より大型だと思えたし・・・連絡用の鳥なのかと思っていた所だ。」
「イヤシロチへは、ここからどれくらい有りますか?」
「徒歩での移動だとかなりかかるな。やはり馬で行こう。あの鳥をどうするかだが・・・。」
「それなら大丈夫だ。」
そう言うとリュートが胸ポケットから鷹笛を出して、吹き始めると連れてきていた鷹(ダリヤ)がかなりの速さで飛んできた。ダリヤは、さっとリュートの腕に乗った後、すぐに飛び立ち、旋回していた鳥に向かって攻撃を仕掛けた。
「これで当分、あの鳥は、我々の相手をする間はないはずだ。急ごうか。」
「ええ。ダリヤってこんな風にも役に立つんですね。特急便のお知らせ係だけかと思っていたんですが・・・っふふ。」
なんだか自分が褒められているような錯覚になり、リュートは、顔が綻んだ。仁軌は、なんだか変な仲の良さを見せられて妙な気まずさを覚えたが、そこは、無視する方が良いのだろうと思って、馬に早く乗れと二人をせかすのだった。
「おいおい。鳥が片付いたんだ早く行こう。あいつがふてくされるぞ・・・。」
「そうですね。チビ待ってますよね。」
鳥の件が片付いた一行は、馬を早く駆けさせてチビの元へ向かった。ダリヤに追撃され追い返された鳥はというと間者の元へと戻って行くのだった。
「はっ。役に立たなかったのね。まったく仕方ない子ね。でも、向かった方角だけは分かったからよしとしなくちゃね。聖座様に報告してきてちょうだい。」
間者は、戻った鳥に文をつけると再び空へと放った。鳥は、少し旋回した後ピユーと一鳴きして、東の空へと消えていくのだった。
「さて、私も準備しなくちゃね・・・。そろそろバレてしまうわ。ペンドラム様に調査依頼まで出していたなんて・・・。本当に抜かりのない方だわ。もう少し・・・居たかったんだけどな。」
間者は、憂いの目をしながらぽつりと呟いた。
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