第36話 痕跡

重慶が魔法石の痕跡を見つけて二人の元に駆け寄った。


「やはり、ここで魔法石を作ろうとしていたんだろうな。小さいが、これも魔法石だ・・・。でも、大きなものを作ろうとしても無理だったのかもな。ここでの純度の問題かもしれないし。そこの辺りまでは、分からないが。」

「こうなると、純度の高い場所を求めて、国を転々として探して、良ければ貿易を持ちかけて、最悪、侵略も視野に入れているのかもしれない。」

「そうですね。豊かそうに見えた暮らしも、その魔法石が枯渇すればかなりの打撃・・・。」

「そんなものどころではないだろうな。魔法石に頼り切った生活だ・・・すべてが成り立たなくなるだろう。俺が見てきたリーベンデールは、全てが魔法石で成り立つような生活形態だったんだからな・・・。」

「となると・・・。実は、かなり焦っているのかもしれないな。」

「ええ。まだ、全ては、分かりませんがリーベンデールの開国は、魔法石の枯渇が関わっているとみて間違いないでしょうね。」


3人は、この会話の後、更に採掘場の奥へと歩みを進めていくと大きな黄水晶の壁まで来た。


「これは、見事な黄水晶ですね。これに目をつけなかったのでしょうか?ハル・・・そう思いませんか?」

「これは、多分、魔法石には使えないのかもしれないな・・・。俺が見てきた魔法石の色は、紅、青、紫、無色の物だ。黄色はなかった。」

「ほう。色が限定されているのか・・・。そういえばこの採掘場は、紫ばかりだものな・・・。重慶殿。」

「ああ。紫は、冷気を出して物を冷やしたりするだけなんだ。だから、一つの家庭に沢山いる訳じゃないからな。」


重慶の回答になる程と仲達も藍も納得して、黄水晶壁を更に伝って細くなって、まだ採掘されていない場所までやって来た。すると・・・ぼんやり人影が見え始めた。


「水晶の中に人が?」

「えっ藍何言ってるんだ。ここから先は、手が入った形跡がないし・・・それに水晶自体の・・・あっ月涼・・・なんで?」

「月!!どうして?閉じ込められてるの?」

「おい。二人で何言ってるんだ・・・。うわっ!!月涼。いったいどうなっているんだ・・・。リンゴ島にいるはずじゃ・・・。」

「違います。仲達さん。これ。映されているだけですよね?」


3人は少しうろたえたが仲達も水晶の中の月涼を凝視しながら答えた。


「ああ。そうだな。それしかないだろう。」


水晶の中の月涼は、藍に向かって何か言いたそうにしていたが、声まで聞こえる訳ではなかった。ただ、藍に分かる何かを見せているようだった。


「月・・・。何か伝えたいことがあるんだね。」


独り言をつぶやく藍に仲達が話しかけた。


「藍。月涼がお前に何かヒントをくれているのか?」


藍は、首を振りながら『まだ、はっきりしない』とだけ答えた。藍のそんな態度に仲達は、先ほどの間者の件だろうと予想するのだった。


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