第33話 イヤシロチ
一方、月涼の容体は、かなり危険な状態だった。
医師の手当は施されたが、矢に塗ってあった毒のせいで熱が引かなかったからだ。
「妃殿下の体力にかけるしか・・・。」
医師のむなしい言葉が響く中、リュートは、月涼の手を握り続けていた。
「頼む。リア!!目を覚ましてくれ。」
「殿下。少し休んだ方がいい。私が見ている。」
「仁軌殿・・・。だが・・・。」
「殿下まで倒れたら、この先どうするんだ。」
「ああ。分かってはいるが・・・。」
「このまま。熱が引かなければ、試してみたいことがある。」
そこへチビが地図をくわえて、部屋に入ってきた。
「これの事か?試したいことは?」
人型を取ったチビが仁軌に聞いた。チビは、あの日、猫の姿のままのんびりしていた為に、寸でで月涼を助け損ねたことに落ち込んでいた。
仁軌は、チビが持ってきた地図を受け取り、リュートにそれを見せた。それは、月涼が記を入れていたリンゴ島の地図だった。
「これは?」
「月涼が、困ったことがあったら、この地図の記をつけられたイヤシロチという場所に行くと言っていた。そこへ連れて行く方が良いのかもと思う。」
「俺もそう思う。イヤシロチとやらが俺が思っている場所なら浄化が出来る。その体内の毒は、俺がその地の浄化力を使えれば何とかできるかも知れん。」
その会話の前に月涼は、深い眠りの底で、嗣子と話し合っていた。
「月涼、最後に練習したときに僕を実体化できたんだからイヤシロチで、練習すればきっと出来ると思う。それに、実体化して外に出れれば、そんな毒くらい簡単に外に出して上げれるし。」
「そうは言ってもね・・・。その毒のせいで、体動かないからこんな意識の奥で話し合ってるんだから。私の意識体のままの声がリュートに聞こえたら良いんだけど。それにイヤシロチの話は、誰にもしてないし・・・ん?誰かに言った気がするな。」
「何言ってんるんだよ。地図見ながら仁軌って言う男に言ってたじゃないか。」
「えっ聞いてたの?やめてよ~体の中にいるからって。」
「必要な言葉が聞こえてきた時だけだ。全部聞いてたらこっちがおかしくなる。」
「な・・・。まあ、仕方ないけど。」
「とにかく契約の半分は、お父さんが請け負ってくれて番の契約は、無になったし、僕の魂魄も小さいけどお父さんの魂魄を分けてもらったから、後は、月涼の頑張り次第なのに・・・。」
あの日、三つの条件を受け入れて嗣子を体内に入れて生き返った月涼だったが、アーロンが月涼の中にいる嗣子に力を分け与えた為、嗣子と溶け合っていた月涼の魂魄は分離することが出来た。その代わり、アーロンは、永遠ともいえる命ではなくなったのだ。アーロンにしてみれば、シンの御霊が本体に帰る日まで、共に生きる分だけあればいいと思っていた為、自身としては、納得のいく結果となったのだ。
「とにかく・・・。仁軌さんが気づいてくれるのを待つしかないよ~。嗣子・・・。」
「その、ずっと思ってたんだけど、嗣子っての僕の名前なの?」
「え?今?その話?」
「うん。」
「そうか~名前か~。勝手に決めて良いのかな?シン様やアーロンとかに聞かなくても・・・。」
さあ?という感じで答える嗣子に困る月涼だった。
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