第32話 間者
その箱を持って現れた侍従は、ラダルに差し出しながら仲達たちにも見えるように箱を置いた。
「こちらでございます。」
「うむ。仲達殿、実は、リーベンデールの使者は、この王宮にも寄っておってな土産だと言って、置いていったものだ。それが先ほどの話の魔法石ではないかと思ってな・・・。」
仲達たちの目の前で侍従に箱を開けさせたラダルは、重慶に聞いてみるのだった。
「どうじゃ、これが、魔法石かどうか分かるか?」
重慶は、その石を取り出し、少し眺めてから、何かの文言を唱えた。すると、その石から、水があふれ出した。
「これは、水を引き出す魔法石ですね。こっちのは、火でしょう。彼らは、いつも火と水の魔法石をセットで用意していました。これ・・・サイズが小さいから良いですが・・・大きなものは、かなりの炎が出ます。厳重に保管される方がよろしいかと思います。これをただの宝石として献上してきたのですか?」
そばにいた侍従は、謁見の時にいたのか、黙って頷いた。
「陛下・・・。リーベンデールの使者がたどった場所を徹底的に洗いなおす必要があります。これが、各地に置かれていたら厄介です。特に・・・海道は、・・・。」
重慶の魔法石に対する考えを受け入れたラダルは、すぐさま国中の海道を点検する事とリーベンデールの使者を捕らえるように勅令を出した。
「ありがとう。国を助けてもらったな・・・もし、この件が分からず、何か起きて居れば・・・。」
そう答えた時には、時すでに遅かった。使者たちは、すでに海道を使って逃げた後、その街道を水に沈めていたのだ。その報告が入るまで、あまり時間を要さなかった。この話し合いの最中に知らせが入ったからだ。
「陛下、海道の一部が水没しています!!先ほどの勅令で向かわせてすぐに連絡が入りました。また、数名の者がやけどを負っております。」
「遅かったか・・・。青華国のソニアにもすぐに知らせよ!!奴らは、何をしでかすか・・・。」
「いえ。陛下、魔法石は、大量に持ち込むのは不可能でしょう・・・。青華国は、水晶の管理を国がしていますし・・・。むしろ、こちらで純度の高い水晶が取れるところを封鎖する方がよろしいかと思います。この国で魔法石を作っているかも知れません。」
重慶が更にラダルに意見し、ラダルも頷いてすぐに新たな勅令を下した。その勅令に仲達が割って入った。
「陛下、出来れば、その採掘先に我々も同行できないでしょうか?何か痕跡などを重慶どのが分るかも知れません。」
「よかろう。いや、頼んだぞ・・・。」
「はっ!!では、向かいます。何かあれば必ずご報告に上がります。」
3人は、侍従について、謁見の場を離れて、採掘場へと急ぐ中、一人いぶかしげな顔をしながらついてくる藍だった。
「藍、おい、聞いているのか?」
「あ、ええ。すみません。ハル。」
「いったいどうしたんだ?急いでいるのに変な顔して。」
「そうだぞ、藍。何か気になることでもあるのか?」
その仲達の言葉に藍は、足を止めて、二人に言うのだった。
「気になりませんか?なんだかこちらの動きがばれているように感じます。先回りされているのか・・・それとも誘導されているのか?そんな気がしてなりません。」
藍のその言葉は、二人の中にもやはり芽生えていたのだった。
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