第29話 セデスたちの消息

女将にリーベンデールの使者たちが見当たらない事を告げると女将は、ポカンとした顔言で言うのだった。


「そんな人たちは、泊まっていないよ。今日は、あんたがた夫婦と、雨で港に停泊している商人たちぐらいさね。」

「え?さっき、食堂で布教活動に来ていて、ここに泊まっているって言ってたんですよ。」

「ああ。雨宿りで、服を着替えるのに、少しだけ、部屋を貸してくれって言った客が一組いたね・・・。」

「えっ?で、その人たちは?」

「なんだい。あんたたち。その宗教にでも興味がでたのかい?」

「ええ。まあ。もう少し話を聞けたらと思って、明日聞こうかと妻と話していたんですが、さっきのぼや騒ぎにいなかったのでね・・・。」

「そりゃ、いないさ。雨に濡れない様にって地下道に抜ける戸口から出たいって言うからね。」

「地下?」

「ああ。この島は、スコールっていう短期的に降る雨が多いから。地下道が栄えてるんだよ。旅人は知らないけど、流通業者だけが通行手形を使って使う道さ~ね。」

「その二人は、通行手形を?布教活動の旅行者じゃなかった・・・。」

「その辺までは、分からないけどね。通行手形を持っていたから入り口を開けただけだからね。もういいかい?お客さん。」

「あっええっと・・・あと一つだけ。通行手形はどこで発行されますか?」


宿の女将は、地元の者でもないのに発行なんて無理だと言いながらも商工会の場所を教えてくれた。


「ありがとうございます。女将さん。」


重慶は、そういった後、口止め料として宿代以外に、腰につけていた黄水晶の飾りを渡したので、女将がかなり喜んで奥の間に戻っていったのは言うまでもない。


「重慶さん・・・いいんですか?あんな、高価なもの。」

「ああ。藍。あれは、後で、役に立つはずだよ・・・。それより、使者の正体とさっきの船主の話が本当なのかどうか確かめなくては・・・。」


意味深な回答を言った後、重慶は、藍をせかして、雨の中を二人で商工会へと向かうのだった。商工会への道を走り抜けながら、藍も重慶も頭の中をフル回転させてつじつまを合わせるように考えて、一つの答えを導いていた。


「重慶さん・・・リンゴ島でしょうか?」

「ああ。多分な。とりあえず裏取りだ。今から俺たちが普通に船を捕まえて向かっても間に合わない。戦艦レベルの船でもないとな・・・。」


2人は、通行手形の発行記録に新しいものが無い事、特別に王族などが発行できる手形があることなどの証拠を集めてから、今度は、セレベス王城に向かってセレベス王に謁見を申し出ることにしたのだった。


「陛下・・・。取り急ぎ、陛下に謁見を願いでる青華国の使者が参っておりますが・・・どういたしましょう?」


はあ~とため息をつきながら、ラダルは、使者が偽物でない証拠を示せと侍従に言い放った。


「ソニアの書簡だけでも頭が痛いのに、正式な使者以外になぜ、青華国の使者が入国して謁見なのだ。仲達殿をもう一度、呼べ。審議もできよう・・・。」


仲達が再度呼び出され謁見の間には、藍、重慶がそろうことになった。3人は、身元の証明をし、藍と重慶は急ぎリンゴ島にいる青華国の一行に連絡を取る方法がないかと?ラダルに詰め寄るのだった。


「陛下!!リュート殿下に危険が迫っています。どうか、連絡を取るために艦隊を派遣ください。」


藍も重慶も鬼気迫る勢いで食い下がるがラダルは、心配に及ばないと答えた。


「大丈夫だ。そのような事な危険は、回避される。ソニアの側近だったクルトラを迎えに行かせている。あれは、察しが良い奴だ。例え、身内であっても危機だと感じれべすぐさま動ける。だが、とりあえずは、鷹を飛ばすことだけはしておこう。それより本当にセデスたちは、国内から出ているのか?赤子を連れて出るのはあまりに無謀というもの。我もソニアからの報告で見張りを入れているが・・・大きな動きは出していないと報告が上がっている。」


「我々もそう思いましたが・・・セレベス諸島は、島内の地下道だけでなく海中道もあるのでは?ありませんか?」


重慶は、言うかどうか迷ったがラダルに問うのだった。


「うむ・・・。何故、そう思った。・・・重慶殿。」

「はい。島々を渡る橋の数と船の数です。少なすぎます。小舟だけでも、もっとあっても良いものを大きな商船ばかりです。これは、そのような手段を取らなくても行き来が出来る証拠かと・・・。」

「さすがだな。北光を勝ち取っただけあるようだ・・・。だが、表立った動きをしても良いことはないな。青華にとってもな。」

「ですが・・・。」

「セデスは、我が孫だ。過ちは、正してやらねばならないが首まで取る気にはならん。今は、泳がす方が良い。もちろんリュートも同じように守るつもりだ。とにかく、セデスのいる城に呼び出しの使者を送る。その後、今後を考えよう。3人で少し休みなさい。」


そう言うと疲れたようにラダルは、謁見の間から去った。

3人は、拍子抜けしたように、座り込みお互いの顔を見合わせて変に笑ってしまうのだった。




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