第28話 使者のゆくえ
ソニアからの書簡には、青華国を建国の経緯にリーベンデール国が深くかかわっていること、そのリーベンデールが300年以上の時を経て、鎖国を止め突然動き出し、それに、セデスが利用されようとしているという事だった。祝いの出席かと思いきや思わぬ方向に動き出した事に、ラダルは、かなり困惑したが、派手な行動のわりに、慎重に裏どりをしてから動くソニアのことを知っていればこそ信頼できる内容だと思い、この書簡の後すぐに、セデスに子が出来たことを理由に身辺警護だという理由で見張りを付けたのだったが、少し遅かったのである。
時は、少し遡りセデス夫妻は、トルテアと共にわが子が王位につける手立てをリーベンデールの臣下から甘言され、その策略にいともたやすく踊らされていた。
「リュート殿下が祝いに来るこの旅で、不慮の事故にでも合えば・・・。」
「だが、わが弟・・・。」
「何を甘いことを言うのです殿下。このまま、この島に滞在して一生を終えるのですか?聖座は、ぜひともお力になりたいとご子息に祝福を施してからずっと申しております。妃殿下は、何も分からないまま、王后の資格がないと進言されたとか・・・おいたわしい事にございます。通常は、第一王子が世継ぎになるもの・・・そう
ではございませんか?」
「それは、そうだが…。母上も太后に認められて王后になっているのだ・・・。太后の存在は、歴代の王后しか知らぬ。何か理由があるはず・・・。トルテア、水晶宮に行くときの様子をもう一度、リーベンデールの使者に話してみては?どうだ。」
トルテアは、少し、考えるしぐさをした後、その時の様子を思い出して話し始めた。
「ええ。そうね。・・・結婚の許可をもらって、婚儀に際して、神殿に入る前に太后様に合わせるとおっしゃっていたでしょ?それで、あの日、部屋で身支度をしていたら義母上に呼ばれて、王后居室に案内されたのよ。中に入ったらすぐに、突然違う扉が現れて、その中に入るように言われたわ。その扉に入っただけで気分が悪くなって・・・。それでも、長い廊下をついていって大広間に出て、そこで、気絶してしまって。終わりよ。部屋に戻されて体調は戻らないうえに、王后の資格がないと一言だけ言われて。太后様という方にも会えなかったわ。何にもしていないのよ。それなのに・・・資格がないなんて納得いかなかった。あの部屋に入ってから体調は、どんどん悪くなったの・・・覚えてるでしょ?セデスも。だから、こっちに帰って来て療養を始めて、体調を取り戻したわ。それに、もともと、青華国の風土が苦手なのもあるんだけど」
「なんと。その大広間で、魔術でも施されたのやも知れません。御労しい限り!!やはり、聖座の力を借りて、本来の地位を取り戻され、世継ぎを王位につけてあげなくてはいけません。聖座が祝福を送られるほどのお子様です!!きっと素晴らしい力を備えた方でございますよ。」
リーベンデールの使者の言葉にすっかり乗せられた二人は、その使者の指示に従い宮殿から外出をしなくなり、動向を探られない為に姿を見せなくしていたのだった。
そう、藍たちが聞いたあの情報はこの状況だったのである。そして、その後に得た情報は、二人がセレベス国内から出国しているかも知れないという事実だった。
「酷い、雨なのに、船を出したいと言うので困ったよ。全く異教徒だか何だか知らんが、日を選んで動くから今日しかダメだと言って・・・。」
そんな事を話しながら、土砂降りの雨の中を宿の食堂に入ってくる男たちを見つけた藍は、そっと近づいてその話を重慶と共に聞き耳たてていた。
「さっきの・・・。あのリーベンデールの使者たちのことじゃ・・・。」
「だが、彼らは、部屋に向かって階段を上がって行ったし、その後、ここを通っていないじゃないか?アラン。」
「確かめましょう。重・・・ハル様」
「ああ。だが、どうやってだ?」
「部屋は、10ほどあるし、いちいち開けて聞くのか?宿屋の女将に聞いて教えてもらえるだろうか?」
「良いですか・・・。この煙玉を窓から投げて・・・。火事に思わせれば。」
「お前、どこで、そんなもの?」
「ああ、えっと月が何かと便利だといつも持たせて・・・。」
へへっと笑う藍を尻目に重慶は、はあっとため息をつきながら、『まったくお前のご主人は、飛び道具まで用意するのかと?』と言いながらも行動に移した。
小雨になったのを見計らって、藍は、ひょいっと窓から裏通りにめがけて、煙玉を投げた。もくもくと煙が一瞬で広がり火事を思わせるだけの煙が上がった時点で叫んだ。
「あれ、あれ!火事じゃないか?」
重慶のその声に反応した宿に泊まっていた客は、廊下に一斉に出てきたが、やはり、あのリーベンデールの使者たちだけが見当たらなかった。
煙はすぐに消え失せたので客たちは、『なんだ・・・ぼやか・・・。』と言いながらすぐに部屋へ引き返していった。声で駆け付けた宿屋の女将も安心して下の階に降りていこうとしたので、藍が呼び止めた。
「あの・・・ちょっといいですか?」
「ああ。なんだい?」
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