第26話 セレベスの使者

藍と重慶が情報を集める中、月涼たちの船は、セレベスと青華国海の中間にあるリンゴ島で一旦、船を停泊し積み荷をセレベスの使者の船に異動させた。セデスへの贈り物を優先させて、航海してきた為、水などの食料を緊急用に確保するためだ。


セレベスの使者は、ソニアの側近だった。クルトラ将軍だった。


「姫は、いや、ソニア王后陛下は、ご健在か?」

「ええ。母は元気ですよ。止めないとどこに行くやら分かりません。今回も途中まで来ていたぐらいですから。」

「あはははははは、姫らしい!!おっといかん。つい昔の癖で姫と呼んでしまうな。」

「構いませんよ。」


将軍とリュートが和気あいあいと話す中、月涼は一人リンゴ島の地形を頭に入れていた。海岸部と港の位置関係や船旅の途中で教わった航海図の見て海溝の深さなども何かの時に役に立つ情報は、全て入れておかねばと思っていたからだ。ぶつぶつと言いながら、地図と航海図を眺めていると、後ろから仁軌がやって来た。


「おいっ!おいっ月涼!」

「あっ仁軌さん。」

「お前は、何かに夢中になると・・・周りが見えてないだろう。刺客に襲われたらどうするつもりだ・・・。」

「まあまあ。ここは、安全ですしちょっと油断しただけですよ。それにね~仁軌さんも仲達さんも守ってくれますし。へへ。」

「へへじゃないよっったく。一体何に夢中だ?」

「これです!!」

「ただの航海図と島の地図じゃないか?」

「ええ。そうですよ。航海図の見方を教わったんで、頭に叩き込んでます。ついでにセレベス諸島も頭に入れています。船旅の退屈が無くて、助かりました。」


仁軌は、月涼のその姿に呆れつつも、まあ、これが本来の姿だと思っていた。正直、リュートにリアと呼ばれてへらへらしている月涼は、幸せそうだが、あまり、似合わないとさえ思っていたからだ。『天性は隠せないわな・・・』と心で呟きながら、何を考えて、地図を見ているのか聞いてみた。


「頭に入れたいだけじゃないだろう?月涼。何か案があるんじゃないのか?」

「あっ、ばれましたか・・・。実はですね。セレベス諸島各地には、水晶宮ほどじゃないですが、イヤシロチと呼ばれる浄化の洞窟が点在しているんです。義母上とシン様が、何かあれば、そこに逃げ込むようにと言われてまして・・・それも、頭に入れてました。内緒ですよ。ところで、方術の方は、どこまで学べましたか?仁軌さん。」

「ああ。存在作用の消し方と、攻撃する時に手に作用させる方法だな。予見までは、無理だが・・・ほぼ、出来てると言われんだ。そうは、思わんのだがな。」

「ああ。勝手に体動いてません?実戦で。」

「それは、当たり前だろう。」

「それが予見ですよ。意識せずにしているから分かっていないだけで、意識できるように持っていけば、自在になりますよ。例えば・・・。」


そう言った後、月涼は、仁軌の左肩に触った。


「おい・・・なんで、左手を動かすと・・・。」

「これが、予見です。仁軌さんが、左に波を移動させるのを見越して触ったんです。」

「波?」

「そうです。人が肉体を動かすときに波を発するんです。それを先に見て行動すればいだけです。手に作用させているのが波です。」

「そんなの見えないぞ。」

「見る気が無いからですよ。攻撃時の作用の時なんかは、かなり力を集めるわけだから、見えてるはずですよ。持ってた剣とか、光って見えたりしてません?」

「おお~それなら、緑に光って見える。」

「それです。それって剣先ばかり見てるから剣が光って見えてるんです。ちゃんと元をたどって体を見てみてください。」


2人の方術の予見の仕方で盛り上がて来た時、リュートがクルトラ将軍を月涼に紹介しようとやって来た。


ドタン!!ガタガタガタ・・・ゴロゴロまるで、物のよう仁軌がリュートと使者の前に飛ばされて転がって来た。


「あいたたた。おい月涼!!手加減しろよったくよ・・・」


頭を抱えながら仁軌が立つと、目を丸くして驚いているクルトラ将軍が目の前に立っていた。


「なんですか?今のは・・・。その、そこの・・・貴方が彼を飛ばしたんですよね?」

「いいえ。飛ばしたんではありませんよ。ただ、彼の力を逃して私は、よけただけですから。」

「えっいやいや・・・どう見ても飛ばされたようにしか・・・。」


リュートは、横でプッと吹き出して笑い始めている。


「仁軌さんもやられましたか・・・ハハハハハ。」

「えっ殿下もやられたんですか?」


クルトラ将軍は、飛ばされたシーンしか見ていないため何が何やら分からず困惑していた。


「じゃ、もう一回実演してみましょうか?えーっと、貴方は、誰ですか?」

「セレベス王国から参りました。クルトラでございます。もしかして・・・。妃殿下であらせられますか?」

「ええ。クルトラ様。ごきげんよう。ふふふ。」




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