第25話 情報操作
翌朝、センテス島は酷い雨で雷まで鳴っていて、藍たちは、身動きが取れない状態だった。
「これじゃ、動きようがないな。藍。」
「ええ。町に出ても人気も無いでしょうしね。それはそうと、食事が出来ているみたいですよ。下の食堂に行きましょうか。重慶様。」
並んで、宿の1階にある食堂に出向くと、足止めを食った宿泊客たちが暇をつぶしていた。これはこれで、情報を探れると思い立った藍は、わざと宿泊客の固まっているテーブルの側に座ろうとした。
「アラン。そっちは、混んでる、こっちにしよう。」
藍は、重慶のその呼びかけを無視して、開いていた席に座り重慶の首を引き寄せてぼそっと言った。
「何言ってるんですか?どこの国の人が来てるとか情報を得る機会なのに!!。」
重慶は、藍の話ももっともだと思い素直に『すまん』と一言だけ謝って席に着いた。
隣からは、耳慣れない言葉が飛び交っている。藍は、どこの言葉だろうと耳を傾けたが分からなかった。一方、重慶は、その会話を聞いてニヤリとしてから、指で耳を貸せと言ってきた。
「藍、隣の奴らは、リーベンデール語だ。ちょっと、話しかけてみる。」
「ええ?。待ってください。先に、何話してるかよく聞いてからにしましょう。」
「ああ。食事し終わったころ合いを見てにしてみるつもりだ。」
藍は、コクリと頷いて、重慶の目をしっかり見てからテーブルを指でトントンと叩いて内容を教えてくれと伝えた。重慶も藍を見て、目で相槌を打った。隣から聞こえてきた会話は、セデスとトルテアの子に祝福を与えに聖座が来たという話だった。
『聖座様が巡礼旅の途中で立ち寄られて、生まれた嫡子に祝福の記を与えたそうだ。素晴らしい事だな。もう一足早ければ、聖座様を拝めたのにな・・・残念だ。』
『ああ。本当だな。新しく就任された聖座様は、人当たりが良く見た目は、少年の様な、お姿らしいがとても神々しいと噂だ。ああ、本当に私も拝みたかったよ。』
藍に、今の話の内容を掻い摘んでテーブルに指で書いて教えると、藍は、いぶかしげな顔をした。『おかしい・・・確か聖座は、直接船で、リーベンデールから来ていたはずだ。船便で経由の記録は無かったはず。いったい、いつ?』
藍は、重慶にリーベンデール人であろう隣の客に、わざと、海南語で話しかけてみてくれと机に書いて伝えた。
「なんで?」
「良いから?」
重慶は、しぶしぶその客に『リーベンデールの国の方ですか?』と海南語で話しかけた。案の定、その客は海南語は、分からないようで、手を振って、分からないとポーズをとった。
藍が、海南語で重慶に話しかけた。
「重慶さん、海南語で会話しましょう。海南から来たと隣の客に伝えて、リーベンデール語話せますよね?聞き取れるんだから・・・片言のリーベンデールの言葉で話しかけて見てください。情報を引き出して、聖座がこの国に来たのはいつか聞いてください。気になることがあります。」
「ああ。やって見よう。」
重慶は、普通にリーベンデール語を話せるが、わざとたどたどしくその客たちに話しかけた。
「すみません。リーベンデール語の様ですが・・・。私は、商人をしていますので、リーベンデールの言葉を少し、知っています。リーベンデールから来たのですか?」
「おお~珍しい方がいる者だ。なかなか我が国の言葉を話せるものなど居ないのに・・・。そうなんです。リーベンデールから来ました。新しい聖座が就任して、開国したことを広めるため、布教活動を行っているんですよ。なかなか言葉の壁が有るので、四苦八苦しているんですがね・・・。貴方のような方に出会えるとは、神に感謝しかございませんな。」
「いえいえ。布教活動なんですね。聖座様とは?」
「あーここら辺の国では、司祭?大司祭様のことですね。その方が、このセレベス王国の侯爵様の御孫様に祝福を授けに、いらっしゃっていた話をしていたところなんです。」
「そうですか?自ら出向いたとは、大変、心優しい方なのですね。今、いらっしゃるのですか?ぜひ、お会いしたいな~。」
「一足遅かったのですよ~。先週の初めには、もう、立った後でした・・・。」
「残念ですね。すみません。あまり、上手に話せないのに長々と伺ってしまいました。それでは、布教活動頑張ってください。」
「いえいえ此方こそ、ご夫婦に神の祝福が降りますように。」
そう言うと隣の客は、明日の朝早くに宿を出るのだと言ってから部屋へ戻っていった。重慶は、席に座り直し、藍に向き合って、先ほどの会話の内容を伝えた。
「おかしいです。重慶様・・・。リーベンデールの聖座は、青華国を立ってから西蘭、海南、北光をめぐると言って出発しています。もし、青華国に来る前にセレベスに寄ったとしても、先週の初めまでこちらにいたというのも変です。」
「もしかして、情報を操作しようとしているんじゃ?そう思わないか?藍。」
「ですが・・・。何のためでしょうか?」
思案していた二人に更に思わぬ情報が入ったのは、この後だった。
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