第24話 ダイアン侯爵領
先にセレベス王国に向かった藍がダイアン侯爵領のあるセンテス島に着いたのは、月涼たちが出航する3日前の事だった。
「ちょっと~なんで、一緒に来ちゃったんですか?怒られるじゃないですかー--。月になんて言ったらいいのか。勝手に船内に潜り込んで・・・。知らないっすからね。何かあっても。命の保証とか無いですよ。」
「まあまあ、そんなに怒るなって、藍。」
「そんなに仲良くないですよね・・・俺と貴方様と・・・。」
「そうか~俺は、そんなこと無いと思ってたけどな。月涼の側にいたんだから、俺の事もよく知っているじゃないか~。」
「はいはい。分かりましたよ。でも、派手な事だけは、やめてくださいね。重慶様!!とにかく、宿に向かいましょう。ったく・・・こんなことなら道具全部持って来れば良かった。あー--。なんて、可愛くない着物なんだろう・・・。」
2人は、当面の宿泊先に決めた宿に向かうことにしたのだが、本来なら一人で泊まる予定だったが藍が女装をして、夫婦で旅行に来ている事にして部屋を取ることに変更したため藍は、慌てて、女装する羽目になり、自分なりにお洒落したくても道具がそろっておらずプンプンと拗ねてぼやいた。
「まあまあ~十分可愛いから・・愛しの奥方『アラン』」
「ったく、勝手に名前まで決めて・・・私は、なんと呼べば?不細工な旦那様?」
「ぶぶ不細工とは・・・俺は、風流人で知られた重慶!!不細工など言われたこともないぞ!!フン!!」
「もうなんでも良いですよ・・・とにかく夫婦ですからね。何と呼びますか?」
「そうだな・・・幼名で春の君だったからハルでどうだ?」
地図を広げながら、藍は、めんどくさそうに重慶に返事して言った。
「了解しました。では、ハル様、参りましょうか。この大通りを突きあたった角の宿が良いと思って調べてあります。居室で湯あみもできますので、女装もばれにくいですしね。」
港から辻馬車に乗せてもらった二人は、大通りに出て、宿を目指す途中に露店を見かけた為、そこで降ろしてもらうことにした。
「すみません。ここで降ろしてもらえますか?」
「良いのかい?宿まで、まだ、少しかかるよ。」
「ええ。初めて、来た町なので、散策もしたくて・・・。ありがとうおじさん。」
「ああ。良いよ。こんなに駄賃貰ってるのに悪いね。」
「ああ。取っておいてくれ。妻もこう言っているし。」
「へえ。旦那。良い旅を・・・。」
重慶の言葉に、見えないように肘鉄をくらわした藍は、ニコニコしながら馬車を降りて、馬車のおじさんに手を振った。余分な駄賃を貰えてうれしそうに去っていく馬車をしり目に、重慶がわき腹を痛そうに抑えていた。
「おまえ・・・。」
「何が・・・妻ですか・・・。」
「そうだろう。夫婦なんだからな。まったく疑われてなかったじゃないか!!」
「そうですね。合格点としておきましょう。あんまり、顔割れしないでくださいよ。」
「分かったよ・・・ったくなんて、鬼嫁だ!!」
「はいはい。じゃ、とりあえず、町人の会話に耳を傾けましょう。買い物するふりをして。」
「あ~それより、腹好かないか?アラン。」
「そうですね。ハル様。では、あそこらへんからいい匂いがしてますから、その食堂にでも入ってみます?」
「おう。そうしよう。」
2人は、食堂に入り、窓際の席に着いた。食堂のおばさんが注文を取りに来たので、おススメ料理を頼みながら町の様子を聞いてみた。
「いつもこんな風ににぎわっている街ですか?私たち新婚旅行に来たので、この町は初めてなんです。ね。ハル様。」
「そうなんだよ。ここの風景は綺麗だと聞いてね。それにいい街だとも聞いて来たんだが?」
店のおばさんは、ここ最近では、ダイアン侯爵に孫が誕生したことでにぎわっていることを教えてくれた。
「そうなんですか?お孫さんが・・・それは、祝い事で花が咲きますね。」
「ええ、そうなんですけど・・・。」
「ん?どうされました?」
「まだ、お披露目もないんですよ。誕生の話だけは、出たんですけどね~。トルテア様のお姿もセデス王子のお姿も見かけないから・・・本当なのかと言われ始めてますよ。ま、庶民には、分からないだけかも知れませんがね。めでたい話ですから。もっと派手になさっても良いのにとあたしが思ってるだけですよ。ははははは。」
藍と重慶は、この話に、やはり、何かあると思い食後、買い物をしながらさりげなく情報を収集して回り、宿でやっと、一息をついた。
「変ですね・・・。月が先に行って、情報を纏めるように言ったのは、正解だった。重慶様、とにかく、今日の情報を纏めて書き出してみませんか?」
「うむ。そうだな。その方がいい。あいつらが到着したら、注意して動く材料になりそうだ。」
「ええ。」
着いた初日から、この街の可笑しさに気づいた二人は、夜更けまで、情報を纏めた。
「よし、これぐらいにして、また、明日、足を延ばして、情報を集めよう。」
「ええ。重慶様お疲れ様です。先に湯あみをしてください。」
「分かった。」
翌日、雨で足止めとなる二人だったが情報が自らやってくるとは知らず眠りにつくのだった。
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