第23話 出航
ザンビスとソニアに挨拶し、月涼たち一行は、船に乗り込んで航程の確認をしている時だった。船内会議室にチビがひょっこり顔を見せた。
「あっ!!チビ。フルルと一緒に宮に残したのに~何でいるの?」
「お前を守るために来てやってるのに・・・なんて言い草だ。」
チビが話すのを聞いた皆は、目を丸くして驚いた。
「ね・・・ね…猫が喋った!!」
とそこにいた皆が口を揃えて言った。
「おい、月涼、その猫・・・あの時の宿からついて来た猫だよな。」
仁軌がチビに指を指して月涼に聞いた。
「うん。実は、・・・・・・・。」
そう言おうとした瞬間、チビは、豹に変化した。
「このサイズのほうが良いのか?月涼。」
「いや・・・あのさ、チビ余計怖いよ。猫のままで良いよ。」
チビは、そう言いだすか否や今度は、少年に変化した。皆、この状況に更にあっけにとられて見ている。
「実はね、チビは、神獣だったのだよね・・・。」
仁軌がチビに近づいて、その周りをぐるぐるとまるで猫のように回って言った。
「すごいな~。チビ。なんていうか・・・。目の前で見ると感動だな。」
そう言われてチビは、猫にさっと戻り、満足そうに喉を鳴らして答える。
「これぐらい朝飯前さっ!フン!ま、月涼の護衛は、俺に任せな。」
皆、あっけにとられながら、月涼からチビのいきさつを聞いて納得し、今回の件に同行させる方が良いのではと改めて、皆が思うのだった。
「それはそうと、藍は、行かないのか?絶対に、側から離れないやつなのに・・・。」
仲達が、不思議そうに月涼に聞いた。月涼は、航海図を見せながら、藍に先回りさせて、町の情報を探らせていることを伝えた。
「セレベスは諸島は、大小5つの島で成り立っています。一番大きい、ここがセレベス大国の首都となっています。第2都市と呼ばれるこの島がセデス王子が、滞在しているトルテアの実家、ダイアン侯爵領です。藍には、まず、首都でなく侯爵領の様子を探るように、先に出航させています。何より、藍は、私が連れてきた従者ですから顔割れしていませんからね。仲達さんや仁軌さんを呼んだのは、それも有るんです。こちらの情報は、最小限で行きたい。」
顎に手を当てながら、航海図を見て仁軌は、その回答に頷きつつ、一番小さい島を指さして月涼に聞いた。
「おい、月涼、この島は?なぜ、こんな小さい島に記を入れてる。」
「あー。これですか?ここを拠点にしようかと考えています。公式には、セレベス大国に挨拶とセデス王子の嫡子誕生祝ですが、その後の拠点にと思いました。この島は、無人島だとリュートから聞いていますので結界も張りやすいし船も隠しやすいでしょう。一旦帰ると見せかけて動かねばならないと思った時の拠点です。」
航海図で島の位置を確認しながら、相手の情報の少なさに動きをどうとれば良いのかという話になった時に、その場にまだ居なかったリュートがやって来た。
「リア。そろそろ出航だ甲板に出て、港にいる皆に挨拶するぞ。」
「あっうん。そうだね。義母上は、艦隊で途中まで見送りしてくれるって言ってたから。義父上が港まで見送りに?」
「ああ。フルル達も見えたな。そういえば、今回はルーランしか連れてきていないから身の回りが大変化も知れんが大丈夫なのか?リア。」
リュートが少し心配げに、月涼を胸元まで引き寄せた。月涼は、リュートに目で合図してから耳元で小声で言った。
「今回は、何があるか分からない。最小限の同行で、動けるものの方がいいから。」
そう言うと、早く行こうとリュートを促して、足早に甲板に向かいながら首だけ後ろを振り返って仲達の顔を見た。
「あ~そうだ、仲達さん、ごめんね。フルル連れてこなくて。」
「な、何がだ、月涼!!」
仲達とフルルの仲は周知のようで、クスクスと皆が笑う中、仲達が一人だけ顔を真っ赤にしてプンプンとして、下を向くのだった。
「下向いてないで、行くぞ。仲達!!見送りの人たちに手を振ってやらないとな。」
仁軌が、ぽんっと仲達の背中を叩き、甲板へ促すと仲達も相槌を打って、月涼の後を追いかけた。港では、大勢の見送りの人々が訪れていた。セデス王子に祝福をと歓声が上がり、手を振る国民を見つめながら、リュートも月涼も複雑な思いだった。
「もう少し楽しい旅だったらね・・・リュート。」
ぼそっっとぼやく月涼の頬にそっと口づけてからリュートが耳元で囁いた。
「うーん。そうだね。でも・・・ま、楽しむところは楽しもう。リア。」
リュートの顔を見上げて、プッと吹き出した月涼は、それもそうかと思い直して、国民に向かって手を振った。
仲達たちもフルルや、ペンドラムに手を振り、船は、セレベスに向かって出航するのだった。
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