第22話 出航準備

シンの言葉は、いづれ、崋山の瘴気は、水晶宮がなくとも収まるのではないかという事だった。今回の件をよくよく考え振り返って、確信までではないが自分が消えれば、抑え込めなくなると信じて疑わなかった瘴気が自分の力が失われつつあっても、増すことがなかったからだ。


「気休めにならぬかも知れぬが・・・。我は、そう思えたのじゃ。そして、龍剣を継ぐ者も其方の子であった。龍剣は、邪悪なるものに反応し瘴気も消す。ようやく・・・役目が済むようだと感じたのだ。これからは、アーロンの気持ちに寄り添って、最後の時を迎えたい。この地を守るためのことを其方の子に伝えよう。龍と共に生きるすべを夫婦で過ごせるようにな・・・。それから、嗣子との契約を何とかしてみよう・・・。生れ出てからにはなろうが・・・。」


月涼とリュートは、顔を見合わせてからシンに頷いた。ソニアは、リュートにセデスの元に潜入させている者と連絡がいつとれるかを聞いた後、シンに今後の計画を立てようと話し始めた。


「ですが太后様、みすみす、2人を罠に嵌るために行かせたくは、有りません。かといって、行かせなければ・・・トルテア・・・いえ、金瞳のあの者ががどうとるか?というところですが・・・。何か策は、有りますか?」


少し一息を突き、シンは、リュートに譲った龍見を見てから答えた。


「ソニア・・・。あやつが、我の考えている者なら、そんな簡単に尻尾は出さぬ。無謀のように思えるが罠にかかるつもりで赴く方が良かろう。懐に入らねばどのように出て来るかも分らぬゆえにな・・・。其方の息子には龍剣を譲った。それで、あちら側の者か判別するのだ。龍剣は、必ず教えてくれよう。それと、月涼・・・其方の腹におる嗣子と話がしたい。我と遠く離れても連絡が取れるのは、分魂を持っていた其方になるだろう。その意思の取り方も確認したいからこの後残りなさい。」


月涼がコクリと頷いた後、リュートがシンに答えた


「太后シン様、この龍剣を携えて、あちら側の思惑を探りこの地を守るためにもリアと共に行ってきます。」


そして、月涼を残し、ソニアとリュートが水晶宮を後にした。ソニアは、まず、リュートの出向の為の準備に取り掛かった。リュートもまた、護衛などの采配と自分がいない間の国の警備などを入念に準備し、仁軌、仲達を呼び出した。


「殿下、仁軌殿、仲達殿が参りました。執務室の方に通しております。」


ペンドラムが書斎にいたリュートに声を掛け、リュートは頷いた後、執務室へ足早に向かった。


「すまなかったな・・・。急に呼び出して。貴方方に此度のセレベス諸島に行く件に入って頂きたい。何より、君たちの月涼の護衛を一番安心して、頼めそうな二人だと思うからね。」


「はっ。ご用命とあらば・・・。」


仲達が即答した後、仁軌がリュートに聞き返した。


「元より、参加させて頂きたいと言うつもりでした。諸国を知るのも北光国の外交に役立ちましょうし・・・ただ、問題が生じていると思った方がよさそうな案件と思われますが、どうなのですか?リュート殿下。」


リュートは、怪訝な面持ちで仁軌に航程を渡しながら言うのだった。


「事は、国家に関わる事態となって来た。信頼している二人だから言えるのだが・・・。」


そう言い始めたリュートは、事の顛末を掻い摘んで仁軌と仲達に話、意見を求めた。


「なるほど・・・。なんとなく想像は、少ししていましたが・・・。大なり小なり世継ぎに関わることは、色々とありますからね。ですが、国の根幹にかかわることにもなりそうですね。今の話から行くと、この国の世継ぎの決め方に不満も抱いているかと思われますね。もともとは、無かったとしても、トルテア妃殿下の為に、自分が王后の力に関係なく王座を戴けるのならと思った可能性は高いかと。」


「そうだな。仲達、俺もそう思う。自分の国を出て妻の故国に居続けるぐらいだ。トルテア妃殿下の為に、何かしてやりたいと思っているはずだ。そこへ、リーベンデールの聖座の件が加わるとなると・・・月涼のことだ、何か変なことを企てたりして、危険な事に自ら突っ込んで行きそうだ。」


2人は目を合わせてから大きく頷きリュートの顔を見た。リュートは、情けなさそうな顔で二人に向かって無言で頷くのだった。


その後も、出航に向けて3人で打ち合わせを重ね準備に費やし、ついに出航の前日となった。月涼は、と言えば出航の準備そっちのけで、水晶宮を往復し、時に食事も忘れるありさまで、フルルに何度も雷を落とされて、やっと出航に荷物の確認をして前日を迎えている。リュートもあきれながらその様子を見守っていたが、それも致し方なかった。王后シンから何か伝授されているのを止めるわけにも行かなかったからだ。


「リア。本当に明日、出発できそうかい?」

「ええ。リュート!!何とか間に合ったわ。」


月涼とリュートは、久しぶりに床を同じくしその夜をゆっくりと過ごすのだった。

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