第20話 ウロボロスと真実

アーロンが語るウロボロスは、まず、自分達とは種族が違うと言うことだった。


「ウロボロスは、蛇族から神に上がり後に龍神族となったものだ。だから翼が無くとも空を掛けることができる。我々は、翼を背に持つ精霊族に属する龍だから龍族なのだ。喩え金龍になろうともウロボロスに戦いを挑む等・・・死に行く様なものだ。神の次元の力を侮ってはいけない。まして、人が操れるなど・・・。おかしいと思っていたのだ。」


その話に、シンが訝し気な表情で当時を振り返る。


「だが、確かに、大神官は、ウロボロスを解き放って・・・。記憶があいまいだ・・・。あの時、大神官は、ウロボロスと契約などしていなかったと言うことなのか?ただただ、暴れるウロボロスに翻弄されたと・・・?」


「契約など、神族はしない。もっと上の、高位の存在だからだ。神の命で、動いても人や精霊の為に動くなど在り得ない。我は、ウロボロスが暴れれば、その地が壊滅になると思えた。ウロボロスは、荒ぶる神。すべてを燃やし尽くしたはずだとな。帰る当てもない其方が番になると言い、その一族がここで暮らすならそれも良しと思っていただけだ。其方の故国がどうなっているかなど考える気もなかったからな。今、現在の其方の故国の状況は、誰か知っているのか?シン・・・。」


シンは、俯き、考え込みながら今までを少し振り返ったが、自分が離れてからの故国について、何も知ることがないことに気づいた。


「いや・・・。名が変わっている事ぐらいしか知らぬ。豊かなのか?荒れ果てているのか?貿易で、もたらされる商人の噂程度だ。国自体は、存続しているし今回、神官も送ってきたのだから、それなりに成り立ってい居るのだろうと。だからこそ、契約がなされて来たとばかり・・・。では、まずそこから調査せねばならぬということになるな。私は、ここで一族が繫栄する事に注視してきたせいで、故国について考えることは無かった・・・。置いて来た、国民は・・・。私は、なんと無責任だったのだろうか・・・。」


2人のやり取りを聞いていた月涼もソニアもそれぞれの思いで、衝撃を受けていた。

ソニアは、息子が今どのようになっているのか?ここを離れて、傷ついた妻とそっと暮らしているとばかり思いこんでいたのに、隠れた思惑に翻弄され、駒にされているのかもしれない事実に。そして、月涼は、アーロンがとった行動の為に、嗣子と契約しその身に宿したのだ。その嗣子の手伝いである聖地を取り戻すことは、空回で無駄に終わるかもしれないという事実はそれなりの衝撃を受けていた。それでも、契約は、自分は、それで息を吹き返したのだがからそれは、仕方のないことなのだろうが、初めから、掛け違えていたとなると話は別ではないのか?と・・・・。


「ウロボロスには、勝てない?そんな、金龍になって聖地を取り戻すと嗣子は、・・・思っているのに。でも、なぜ、嗣子は、ウロボロスと自分の違いを分かっていないのアーロン?あなたが知っているのに。」


「ふむ。ウロボロスは、神族だ。もともと地にいる龍ではない。高位神の御使いとして、地上に下る時にしか現れぬ。我が知っていたのは、ここに来た、金龍に聞いた事が有ったからだ。その金龍は、各地を旅して、自分の気に入る塒を探していると言っていた。自分の行った先々で、違う龍族がいると聞いたと楽しそうに話してくれた。その話の中にウロボロスの事もあった。命あってだろうが、拝めたらとまでな、その後、ここを立ち去ったからアイツが神族であるウロボロスを拝めたのか?どうかは、知らぬがな。」


「そうか・・・。嗣子は、ウロボロスは、悪龍と思い込んでいるだけで、本来の正体も知らないということなのかも知れない。我々と一緒で・・・。きっと、今、聞いているこの中で。」


月涼は、腹部に手を当てながら、嗣子の存在を感じ、今の状況をきっと苦々しい思いで、聞いているんだろうなと思っていた。そして、ポロリと呟いた。『聖地は、もう無いのかも知れない』と


アーロンの話で、自分たちが思っていたことが的外れな事も多く含まれ、事実と違う事も多くありそうだと認識した月涼、ソニア、シンは、まず、これからすべきことをまず、考えようと話し合った。そして、現況をまず、把握するため、リーベンデールとセデスの状況を秘密裏に調べることを優先することにした。


「義母上、リュートと私がまず、セデス様のところに向かわねばなりませんが、その前に何か情報を知るすべは、無いでしょうか?」

「うむ。まさか・・・このような事態になっているとは、分からず、間者も入れていない。どうしたものか?」

「そうですか・・・。リュートは?彼は、どんな場所でも、間者を送り込んでいると以前、聞いた事が有りますが?」

「そうだな・・・。王位争いは、避けていたはずだから・・・もしかすると送っているかも知れぬな。この件は、リュートも交えて話す方が良かろう・・・。シン様、リュートをここに呼んで刻印を施して下さい。」

「分かった。其方の子だ・・・信用し施そう。」



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