第18話 金瞳の少年の策略

城に戻った金瞳の少年は、大司祭との歓談時刻と場所を助祭から聞くと部屋に戻り窓から空を見上げて独り言を言う。


「星は、流れぬか・・・。ここでの収穫は、先ほどのものだけになるな。ならば、おびき寄せるまで・・・。まだ、金龍の力は、戻っていないようだしな。クククッ。さて、どのようにするかだな?ここにいても、結界やらなんやらで、自由には動けないしな。仕込んでいた駒を使うか・・・。」


翌日、金瞳の少年は、簡単な歓談で別れの挨拶と帰国することを大司祭に告げた。

訝し気な表情の大司祭を陰で嘲笑うかの様に金瞳の少年は、落ち着いた表情で次は、ぜひ、リーベンデールまで足を運んでいただければ嬉しいと告げるのだった。


「この度は、大変歓迎下さり本当にありがとうございました。諸国遊説の為、少しの時間しか滞在できませんでしたが、大司祭もぜひ、我が国に来ていただきたものです。何せ、もとは、同じ一族、歴史にいろいろ有れど・・・もう、数百年の時を経ています。どうか、御考慮頂き、王族の方々にも良く、お伝えくだされば幸いにございます。では、明日の船で出立致しますので、出国の準備に戻らせていただきます。」


大司祭は、金瞳の少年に裏に隠す表情に気づいていながらもあえて触れず、別れの挨拶を受け流して答えた。


「ええ。ええ。国王陛下もきっと、今のお話を聞けばお慶びになるでしょう。旅の無事を祈っております。聖座様。あっ、それはそうと次の遊説先はどちらに?」


「西蘭国と海南国でございますよ。わが宗派の教えは、伝わっているようですが・・・、あちらは、まだまだ、開けていないかと思われますので・・・。北光国は、青華国に属したと伺っておりますからね。そう言えば、王子妃殿下は、西蘭の方だとか?ぜひ、会ってから出立しようかと思っていたのですが?お忙しい方の様ですね。」


大司祭は、『やはり・・・何か狙いがある。』そう腹に思ったが、顔に出さない様に慎重に対応し、月涼がまだ妃になって、日が浅い為、対外的な面談はしていないとやんわりと断るのだった。


「申し訳ございません。妃殿下は、婚儀を挙げてから、1年もたっておらず、まだ、対外的な面談を許されておりませぬ故、なにとぞ、お気を悪くなさらぬよう・・・。次回?・・・もしくは、諸国への遊歴に出る時に聖座の国を勧めておきましょう。あーーー。その方が良いですな。我ながら良い考えが浮かびました。ハハハハハ。」


『ちっ、たぬき爺爺め・・・!!』金瞳の少年は、舌打ちしそうになるのを我慢して薄ら笑いでごまかす。


「いえいえ。その様にお考えいただけるだけで、ありがたく思います。では、これで・・・。」


大司祭は、金瞳の少年を司祭に見送らせるとすぐ、水晶宮を訪れた。


「シン様!!シン様!!どちらにおられます?」


昨日の件を知らない大司祭は大声で呼ぶ。シンの姿が見当たらず、困惑していると精気を失ったアーロンがゆらりと現れる。


「大声を出すな・・・。大司祭。」

「シン様は、どちらに?」

「シン、・・・シンは、まだ、元の姿に戻れておらぬ・・・。」

「一体?どういうことなのですか?昨日何があったのです?」

「ソニアに聞いておらぬのか?」

「はい。儀式後に城内奥に入られまして。誰とも会わぬと・・・。言われており・・・。会っておりませぬ。」


アーロンは、昨日の出来事を大司祭に伝え、シンの再生がまだかなわぬことを告げた。


「嗣子が言うように、核を使って再生を試みたが・・・まだ、出来ぬ。いったいどうしたらよいのか?シンが居なければ、生きている意味が無い・・・。」


人型も取らず項垂れて翼で顔覆うアーロンは、また、ぽろぽろと床一面に真珠の涙を転がす。その傍らには、寄り添うようにチビがいた。


「おい、アーロン。嗣子は再生すると言っていただろう。時を待てよ・・・。」


大司祭は、初めてチビを見て驚いていた。


「この空間に、聖獣が居るのは、初めての事・・・いったいいつから?」


には、昨日からいる。月涼の法具で呼び寄せられた。まあ、その前から変化して月涼の側にいたんだが・・・だれも本来の姿を知って無かったからな。」


チビは、アーロンを気遣いながら更に大司祭に言った。


「大司祭よ。アーロンはこの通りで、今は、使い物にならん。何かあれば、私が動いてやろう。この空間以外では、小さな猫にすぎぬがな。それなりに術は使えるだけ回復した。小さき者の姿なら人型も取れそうだ・・・。」


大司祭はコクリと頷き、金瞳の少年の歓談での様子と内容を話した。


「ふむ。いきさつを読んだ限りでは・・・ここでの、収穫が少ないと見て、間接的に動くつもりだろうな・・・。」


「はい。どのような手段かは分かりませぬが、他国の者を利用しようとしているのは、確かかと・・・。」


「やはり、早くシンを再生するほうが良さそうだな。アーロン、嗣子の渡した球体と核をよこせ。俺が少し様子を見る。」


そう言うとチビは、人型を取ってから、アーロンに近づいた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る