第17話 星まつり 2
星まつりの夜、重慶、仁軌、仲達が顔を突き合わせて、居酒屋で飲んでいた。
仁軌が重慶に向き直り、説得するかの様に話し込んでいる。
「重慶・・・とにかく、月涼は諦めろ。幼馴染よりもこっちの殿下を選んだぐらいだ。入り込む余地が微塵もないのは、分かっているだろう?あの時、現場にまでいたのにどこをどうすれば、そんな風になるんだ?」
「仁軌、何も、妻にとまで言っているんじゃない。参謀としてだな・・・。俺は、あいつの頭が欲しいんだよ・・・。」
「もっと無理だろう・・・こっちの妃殿下、のちの王后とまで言われているんだぞ。何とか言ってくれよ。仲達。」
「全く、酔えばこの話だな。それはそうと、第一王子は、星まつりにも帰還されなかったな。ソニア様の故郷におられると聞いていたのだが・・・。」
第一王子セデスは、星まつりだけではなく月涼とリュートの婚儀にも出席していなかった。妻であるトルテアの体調不良と言うことであったらしいが実情としては、妻トルテアの王后不適格の烙印により、王位継承を絶たれた事に納得がいっていない事だった。
セデスがトルテアと出会ったのはソニアの故郷セレベス諸島だった。セレベス諸島は、大小6つの島で成り立っており一番大きな島がセレベス島である。首都は、そのセレベス島に有り、島の大きさ順に、タルタ・デルタ・トマ・ルトア・サンダになる。タルタとデルタは、セレベスの3分の2くらいで他の3島は、小さくセレベスの半分にも満たない。トルテアは、その諸島のタルタ島を統べる貴族の娘だった。
セデスは、ソニアが里帰りでセレベス島に帰る時に共に行くことが多くその際に、トルテアと出会っていた。
身分も申し分なくお互いの気持ちもあっていた二人が婚約したのは、15の時である。セデスにしてみればソニアが王后になっている以上、トルテアも王后になれると信じ切っていた。その為、太后シンに不適格を出された時、トルテアはかなり憔悴し、床に伏してしまう状態になった。その件で、自分たちを守らなかった、ソニアに憎悪を募らせたセデスは、トルテアと共にタルタに里帰りし今に至るのだ。
王后の担う役目は、表面的に国民の為としか分かっていないセデスは、ソニアやザンビスの言うことも聞かず、なぜ、トルテアが不適格なのかいまだに聞いていないのであった。
§
「それはそうと・・・そのセデス様にご子息が生まれたらしい。それで、近々リュート殿下が月涼を伴って、結婚の報告も兼ねてセレベスに行くようだ。俺は、その際に同行する予定だ。」
「そうなのか・・・。そう言えば、仲達は、諸国の文化を学ぶ目的でこっちに滞留しているんだったな。私も同行できるように頼もうかな・・・。ソニア様の率いていた艦隊の訓練も見てみたいしな。」
「仁軌・・・。北光の事もあるのに、そんな遠出されては、俺が困るじゃないか!!もうすぐ国名も決まるんだぞ~。」
「それなら、重慶も来たら良いだろう。ふらふらとこっちにばかり来ているぐらいだ。今しかできないぞ。国王に就いてしまえば今の様に身動きは取れないからな~。」
3人のそんな会話をつゆ知らず、星まつりを楽しむ月涼とリュートは、軽快に流れる音楽に身をゆだね、手をつなぎ、ステップを踏んで、祭りの踊りに紛れて楽しく踊っていた。
「リア。疲れてないか?」
「全然!!大丈夫よ。リュート。」
「そうか・・・。それならいい。楽しもう。」
音楽は、更に盛り上がり、二人を人波にのせていく。そんな二人に金瞳の少年が少しづつ差を縮めて近づいていた。
『間違いない・・・金龍の気だ。まだ、弱いが・・・。』着いた時には、感じなかったものが今は感じる・・・。この人波の中にいる!!
ドン!! 金瞳の少年の背と月涼の背がぶつかった。
「あっごめんなさい。」
月涼は、とっさに謝ったが、当たった瞬間の衝撃は、かなり異質のものだった。
『なに?なんだか変な感触がした。普通に当たっただけなのに・・・。』
リュートが月涼の手を引き大丈夫かと引き寄せた。
ぬめりとするような感覚が背中を走り、ぞわぞわと体に伝う・・・一瞬だがその気持ちの悪い感覚に纏わりつかれた様だった。
『ウロボロス!!』腹から聞こえるその声に独鈷が反応して発動した。発動して舞い上がった独鈷は、月涼とリュートに、金粉を篩わせ取り巻いて隠すようにして、その場から隔離した。
「ちっ逃げられたか!!もう少しで金龍ごと捕獲してやったのに!!」
「猊下、どうなされましたか?突然、人混みに飛び込んでは、我々も追いつけません。」
「ふん!のろまめ。獲物に逃げられた・・・。」
金瞳の少年は、かなり苛立って、助祭に言うが助祭は、何が起きたのかも分からず呆けて聞き返した。
「獲物?何の事でございますか?」
「何でもない!!帰るぞ。もう、此処に用は無い。」
「城でしょうか?それとも潜伏先の宿でしょうか?」
「城だ!!明日、大司祭に歓談の申し入れもしておけ。」
「はっ。では、そのように整えておきます。」
金瞳の少年の真の目的を知らない、助祭たちは、その苛立ちに呆気に取れれるしかなかった・・・。
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