第16話 星まつり

星まつりは、まず儀式衣に着替えた王族たちと大司祭、司祭、助祭及び神女たちが神殿大広間に集い、広間中央に備え付けられた神大灯篭に聖火を点灯する。来賓として、祭祀に加わったあの金瞳の少年もその列に加わっていた。そして、大神殿に入り浄化の儀式が全員で行われる。その後、点灯の儀式を行う神女たちが街に繰り出し、街の神事用の灯篭に次々に聖火からの分け火を点灯していくのだ。王族と祭祀は、その間、神殿に残り浄化の祈りを捧げる。


王と王后が大司祭と共に奥神殿に移動して祈り、その他の王族は、司祭と中神殿で祈る。助祭と神女及び来賓が大神殿に残り祈りを捧げるのだった。


「ちっ中神殿すら入れぬのか・・・。」

金瞳の少年は、不満げに呟いた。

「猊下・・・ご不満は、後ほど、国王に伝えるほうがよろしいかと・・・。」

傍にいた助祭が金瞳の少年に怖ず怖ずというと少年は、カッと睨みつけて言い返した。

「誰に言っているのだ・・・。我か?ん?・・・助祭。」

助祭は、その瞳に圧倒され、怯えて謝り続けた。

「申し訳ございません。・・・猊下。どうか、お許しを・・・。」


§

奥神殿入り口にて ザンビスとソニア


ソニアは、ザンビスに先ほど起こった出来事をかいつまんで浄化の祈りが始まる直前に話をしていた。ザンビスもシンやアーロンが居なくなれば、この地が瘴気に満ちた地に戻るとは知らなかったらしくかなり驚いて聞き返した。


「今の話は、本当なのか?もう、この地を守る物が居なくなると・・・。浄化しているのは、この儀式も有り分かっていたつもりだったが住めないほどの瘴気が満ちるとは、なんと・・・。」

「ええ。陛下。ですが・・・リアが跡継ぎとして指名されました。その力を宿していると言うことで。」

「ふむ。そうか。嫁いできて病を治して早々で、大役を担うのは・・・辛い役目じゃな。」

ザンビスがソニアの話を納得しながら、聞いてくれているのは分かったがその約束1000年も続く約束だとは、言えずにいた。そして、まだ、他にも方法は無いのかと考えたからだった。


「ソニア、可哀そうかも知れぬがリアもそれを分かってくれたのであろう?」

すまなさそうな笑顔でザンビスを見つめてからコクリと頷くソニア。その頬を優しくなでながらザンビスは、ソニアを慰めて言った。

「其方が悪いわけでは無かろう?大丈夫だ、あの子なら・・・大役をこなしてくれよう。きっと、大丈夫だ。さあ、浄化の祈りに参ろう。そして、この事がうまくいくようにも祈ろう。」

「ええ。ええ。そうですね。陛下。」


§

中神殿入り口にて リュートと月涼


月涼の契約について何も知らされていないリュートは、儀式姿の月涼を婚儀衣装の時の事を重ねて、満足そうに言った。

「綺麗だねリア。いつもの男装も良いけど・・・厳かな衣装が本当によく似合うよ。」

月涼は、嬉しそうに自分を見るリュートに、契約の事をいつ話せばいいのだろうと不安な気持ちでいっぱいだったが、笑顔でそれをかき消して冗談めかして答えた。

「そう?私ったら何でもに似合うのかもしれないわね。ふふふ。ね、リュート。あっそれより、城に戻るときに見た苺?じゃなかったサンザシの飴屋を見つけたのよ。そこに行きたいわ・・・。」

リュートは、一瞬見せた月涼の曇った顔色を見逃してはいなかったが、今は、月涼を和ませてあげようと知らないふりをした。

「分かった。儀式を終えたらそこへ一番に行こう。今は、浄化の祈りと千の星に国の安寧を祈ろう。」


それぞれがそれぞれの思いを胸に祈りの儀式は粛々と進行していく。


そして、街の点灯が無事に完了すると街は、お祭り騒ぎでにぎわっていくのだった。祭りは、朝まで続き翌日は、どんな仕事も休みになる。儀式の終わった二人も離宮に戻って来ていた。それをフルル達が二人を出迎えに離宮の門まで駆け付けてきている。


「お帰りなさいませ。殿下、妃殿下。お着換えの準備は出来ております。直ぐにお出かけになりますか?」

「ああ、フルル、リアの準備を頼むよ。」

「ただいま~。フルル。」


二人は部屋へと向かい、お忍びで繰り出す為の軽装に着替える。


「私たちが出かけたら、フルル達もお祭りを楽しむのよ。分かった?ね。」

「はいはい。リァンリー様・・・ご準備をしましょう。殿下の支度が済んでしまいますよ。」

「ほんとね。待たせちゃうわ!!あーそれより、そっちの青いほうにして。」

「それは、騎馬衣です・・・リァンリー様。殿下と出かけるんですから、こちらの赤にしてくださいまし。フリルも少なめで動きやすいものに仕立て直していますから。丈も短めで捌きやすいものです。」

「ふー。分かったわ、今日は、言うことを聞くわ。フルル。」


月涼とリュートは、裏手の門から出て街へと出かける。護衛は、離れて後からついてくるようで二人きりになれないがそこは、仕方がないと思うのだった。


「ねえ?リュートそう言えば、藍が見えないんだけど?」

「ああ。今日は、休暇をあげたよ。ルーランから頼まれてね。」

「???んん。」

「そういうことだよ。」

「いつから?」

「さあ?どうかな。藍自体の気持ちは、聞いてないからね。」


藍にも春が来たのかな?と思う月涼だったが契約のことが頭を過ぎり、なんだか思い切り喜べないのだった。




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