第15話 嗣子との対面と約束

「シン!!シーーーン!!消えた・・・消えてしまった。我の番!!我の愛しき番!!どこだ・・・どこにいったのだ・・・。」


狂ったように叫ぶアーロンは、生まれて初めて泣いた。涙など無縁で生きてきた・・・。シンが消えて初めて、悲しみという感情が沸いてきたのだ。

アーロンの涙は、ぽろぽろと真珠に変わって床に落ちて転がっていく。先ほどまで保っていた人型は、龍体に戻ってしまい力なくシンのいた場所でへたり込んでいる。


そのアーロンの流した涙の真珠は、始めこそ、てんでばらばらと転がっていたが急にコロコロと集まり始めた。すると、青華蝶も舞い始め、ふわり、ふわり・・・と少しずつ数が増えていき、やがてそれは、人型を取り始める。それに、気づいたアーロンが叫ぶ。


「シン!!シンなのか?戻って来てくれたのか?」


だが蝶の模りから現れたのは、シンではなく少年だった。


「お父さん・・・。」

「えっ?」


アーロンは驚きを隠せず目を見開いて聞く。


「嗣子なのか?シンと私の・・・。嗣子!」


「お父さん。僕は、月涼から生まれる。お母さんから生まれることは出来なくなったから。月涼から奪った御霊は、僕が月涼に返したよ。」


「シンは?お前の母は、どうなったのだ?シンを返してくれ!!嗣子。」


少年が小さな球体を差し出し、話を続ける。


「お母さんはここだよ。これだけでは、もう、本体に戻るしかないけれど、お父さんの中にあるお母さんと月涼から生まれ出た核をこの中に入れれば、再生できると思う。」


アーロンは、球体を受け取ると大切そうに抱えて頷きながら聞いた。


「本当か?本当にまた、会えるのか?シンに・・・。」


「うん。でも、肉体は無理だよ。お母さんは僕を宿したことで肉体の寿命を早めたと同時に、僕が宿っていたから・・・今まで持ったともいえるんだ。矛盾しているけれど・・・だからもうお母さんは、僕を生み出せないんだ。」


涙を流しながら首をコクコクと頷くだけで、言葉が出てこないアーロンに少年は伝える。


「僕は月涼と契約したよ。これから生まれ出る準備に入る・・・。だから、ちゃんと月涼を守って欲しい。お母さんの願いだからね。」


そう言うと少年は、青華蝶に囲まれて消えていくのだった。

そのやり取りを遠目に見ていたソニアは、抱いていた月涼の変化に気づいた。体温が戻り始めていたのだ。


「温かくなってきた・・・リア!!リア!!聞こえるかえ?」


薄っすらと目を開ける月涼は、なんだか、大声で呼ぶソニアを不思議そうに見つめていた。


「ははう・・え?・・?」

「ああ、ああ・・・そうだ、リア、しっかりいたせ!!リュートのもとにもどるぞ!!リア。」


コクコクと頷いて、ゆっくりと体を起こす月涼。


「私は・・・眠っていたのでしょうか?義母上・・・?」

「今は、何も考えずとも良い。体に戻れたのだ・・・。良かった。本当に良かった。」


ソニアは、月涼の無事を確認するとアーロンに目を向けて言った。


「今は、この場を離れる。太后様が再生されたら、また、話がしたい・・・。青華国にとっても、重大なことだと認識している。」


ソニアは、月涼を抱えたまま、手をかざし空間を移動する扉を作り出した。

やっとの思いで自室に戻ったソニアは、月涼の体の状態と離れているときに何が起こったのかを聞くのだった。


「リア。何をされたのか覚えているのか?」


コクリと頷き、いきさつを語る月涼。

シンの肉体の寿命がそこまで来たことで、シンが嗣子と共に消えると悟ったアーロンは、月涼の御霊を利用してシンの肉体を蘇らせようとしたができなかったこと。

その為、月涼の御霊は、元の体にも戻れず、嗣子の空間に呼び出されたのだ。

そして、嗣子から聞いた話と契約することでこの世に戻れたことを伝えるのだった。

契約の条件を聞いたソニアが月涼の頬を撫でながら、月涼に謝る。


「すまなかった・・・。このようなことになるなど・・・。そなたを犠牲にすることになるとは・・・。しかも、千年・・・気の遠くなる様な時ではないか・・・。」


月涼は首を振り、そんな風に思わない様にソニアに言う。


「義母上。王族に嫁いで来たのです。この地を民を守るのは、当り前です。それより、この中に宿ったと思う嗣子がどのように生まれるのか?我が子として生まれるとは思えませんし・・・。リュートに話すタイミングも考えねばなりません。」


それでも、ソニアは泣きながら月涼を抱きしめて謝り続けた。


「すまぬ・・・。すまぬ・・・。」


「泣かないで下さい。本当に大丈夫です。義母上、今日は、星まつり・・・千の星に祈りましょう。この国の未来と幸せを・・・。前に進まねば。」


「そうだな・・・。もう一度、落ちついて、龍王と話さねばな。泣いている場合では無いな。これまでの事を詳らかにして分かったうえで前に進まねば。」


二人は、固く誓い合った後、まずは、目の前の事を片付けようと今日の星まつりに参加するための準備にかかるのだった。


「さあ、リア、フルルが衣装を用意しておる。まずは、着替えてくるが良い。我も儀式衣に着替える。」


「はい。それでは、後ほど。」


少しけだるい体をおして部屋に戻っていく月涼の背をやはり、憂いの目で追ってしまうソニアだった。


そして、大神殿での点灯儀式の鐘が鳴り始める。



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