第14話 3つの条件

卵の中の龍が出した契約条件は、3つだった。


一、1000年の時を共に生きること

一、番として水晶宮の番人となること

一、人の子ではなくなること


この条件を聞いて、出来ないことが一つだけあった。それは、月涼にはすでにリュートという伴侶がいるからだ。


「ごめんなさい。その条件は飲めないものがある。私には、伴侶がいるもの。しかも婚儀を迎えたばかり・・・彼を裏切ることはできない・・・。」


「知っているよ。リュートだろ。彼は、人の子だ・・・。君とは違う。君は、これから僕と共に1000年の時を生きる。だから、彼が生きている間は、彼を伴侶としていれば良い。あと、数十年ほどだ・・・。僕には関係ない。それに、生まれてから成体になるまでに100年以上はかかるからね。どのみち、番は迎えられないんだ。その間は、我慢して、君を貸してあげるよ。」


リュートは、私を思って反対するかもしれない。・・・他の道もあるのでは?とも言うだろう。でも、今はこの方法しか前に進む道は無い。


「その件は、リュートにも言うわ。それと・・人でなくなるって?私も龍に変化するの?」


「どうだろう?でも、1000年の時を今の肉体のまま超えるのは無理だろ?だから人では無くなるって言ったのさ。いずれ、分かる日が来るよ。」


知っていても言えないのか?言わないのか?どちらにしても、この条件をのまなければ、自分もシンもアーロンも死ぬ。そして、彼らが支えてきた青華国もこの先どうなるか分からなくなる・・・この国に来て、自分を大切に思い愛してくれるリュートやソニア達・・・その人達ともう少し一緒に生きていきたい。贄として生きるような道だとしても、今は、彼らの幸せと共に歩みたい・・・。


「契約するわ!!前に進みましょう!!さあ、始めましょう。」


「よし。同意したね。まず、僕を殻から出して。」


「えっどうやって?」


「独鈷を掌から出して、具現化するんだ。そして、独鈷を突き刺して殻を割ってくれればいい。」


月涼は、コクリと頷くと掌を開いて独鈷を取り出した。独鈷は、宙に浮いたかと思うと卵の上をクルクルと回り始める。


「これで良い?」


「うん。さあ、僕が言った三つの条件をのみ契約すると願いを伝えて独鈷に力を渡すんだ。」


月涼が契約を唱える。

『我は、1000年の時を龍と共に生き、龍の番として水晶宮の番人となり、人の子ではなくなり龍と契約す。独鈷よ卵を突き破り、龍を放て!!』


宙を回っていた独鈷は、卵の上でピタリと静止し直立するとそのまま、ストンっと卵に突き刺さった。その途端、卵は、眩しく発光し一瞬で消えて無くなった。そして、月涼の心臓が動き始める。ドクンドクンドクンと・・・。


§

一方、ソニアは、月涼を探しやっとシンのいる場所までやって来ていた。そして、シンの傍らに、横たわる月涼を見てわなわなと震えながら駆け寄る。ソニアは、月涼を抱き起すが、その肉体からは、もう体温もなく鼓動も聞こえてこなかった。

泣きじゃくりながら月涼の躯にすがるソニアをシンは、呆然と見つめていた。


だがアーロンは、シンの遺体に変化がない事に怒り始めていた。


「なぜだ!!なぜ!!動かないのだ・・・。」


ソニアがその言葉にはっとなった。


「もしや・・・リアの御霊を奪ったのですか?太后様!!教えてください!!太后様!!どうしてですか?どうして、そんなことをーーー!!」


シンは、拳を握りしめソニアを見ずに頷いた。


「ああ~なんと言うことを・・・時期皇后の証まで与えたでは有りませぬか・・・ゔゔゔ・・・。この国を担う存在では無かったのですか?」


アーロンを止めれなかったのだ、言い訳することなどできない。ソニアに言葉を掛ける事すらできないシンは、ただただ、黙ってみているしかなかった。


ソニアは、何も言わないシンでは埒が明かないと思い涙でボロボロの目でアーロンを睨みつけて叫んだ。


「なぜ、リアを殺した!!なぜ、御霊を奪った!!龍王アーロン!!」


アーロンは、振り返りソニアに手を向けて波動で月涼ごと撥ね飛ばした。


「うるさい!!誰のおかげでこの地に居られるんだ?我とシンが居たからだ!我らがこの地を浄化し続け瘴気から守り続けたのだ!!お前たちは、そんな事も分からず、我らだけを責めるのか?」


撥ね飛ばされた衝撃で起き上がれないソニアに、アーロンの悲痛な叫びの返答が突き刺さる。月涼を抱え込み嗚咽を吐くように泣くしかできないソニアに、シンが近づこうとした。

アーロンは、シンを呼び止め体に変化は、無いのかと?聞くがシンは、フルフルと首を振った。目がしらに手を当て、涙をこらえるアーロン。


そんな状況が続くかと思った矢先だ。ピシッピシッピシッと遺体を覆っている水晶のヒビが音を立てて増え始めた。アーロンもシンも駆け寄ってそのヒビを確認しようとした途端パシャンと音を立てて、覆っていた水晶が崩れ去ったと同時にシンの体が半透明に透けていく。


「アーロン・・・。」


アーロンに手を伸ばすシン。その手をつかもうとするアーロンだったがシンは、消えていなくなってしまうのだった。







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