第13話 龍王の嗣子 2

卵から聞こえる声の主を助ける手立ても探せない上に、自分もここから出ることも無いと思っている月涼は、なんとなく・・・卵に向かって謝った。


「ごめんね。御霊がアーロンとシンの手に渡ってもあなたが出れないってことは、私は、無力なんだよ・・・。でも、ここに居るよ。話し相手がいるって良い事じゃない?」


月涼は、卵をそっと抱きかかえて言うのだった。


「謝らないで・・・月涼。分かっていないだけで、君には僕を孵らせる力があるんだよ。」


「えッ?どうやって?」


月涼は目を見開いて卵を見つめると卵から暖かさが伝わるような気がした。そして、卵は発光しだすのだった。


「君の中に入るんだよ。」


「どうやって?そんな事できるの?」


「うん。それには、同意と契約が必要なんだ。だから、ここへ呼んだんだよ。お父さんは、お母さんの御霊さえ取り返せば良いと思っていたみたいだけど、それでは、足りないんだ。僕がお母さんの寿命が尽きる少し前に宿ったことで、お母さんの器は、それに耐えれず急速に力を失っていったんだ。だから、起こるべくして起こった出来事だったんだ。本来なら、お母さんと共に神界へ帰れば良かったんだけど・・・それを捻じ曲げてしまったし・・・。何より、あの日・・・君の本体が力を貸したからね。だから、契約者として君を呼ぶしかなかったんだよ。」


月涼は、卵からの声を静かに頷いて聞いていた。


「そう・・・。じゃあ、これは、私の見えない意思でもあると言うことだね?」


「そうだよ。今の君じゃないけれど・・・君が帰るはずだった本体の意思だ。何故そうしたのかは僕にも分からないけれど・・・いつか分かる日が来るんじゃないかと思うよ。」


あの時、絶望に近い感情さえ沸いていた月涼だったが、卵の言葉が腑に落ちて、妙に納得する月涼だった。そして、どれくらいの時が過ぎたのかも分からないこの空間から脱出することは、早いに越したことは無いと思い堰を切るように話しかける。


「ねぇ、ねぇ!!どうするの?契約!!どうやって、私に入るの?」


その言葉に反応して卵が発光し、薄っすらとだが中に丸まった龍が入っているのが見えた。


「僕の姿が見えた?」


「うん。金色の羽があるんだね。金龍なの?アーロンは銀龍なのに・・・。」


「そうだよ。金龍になる。聖地を取り戻すために神界に戻って力を取り戻していたんだ。僕を閉じ込めていた封印も解けたみたいで、その時がやっと来た。それなのに、僕を生み出す者が現れなくて、一縷の望みでお母さんに宿るしかなかった・・・。」


月涼は、『聖地って?どこなんだろう。』この水晶宮が聖地ではないのかと考えていた。だが。もし、水晶宮なら取り戻す理由は無い。それなら、始まりの聖地なんだろうかと思った時だった。卵の中の龍には、月涼の思考が伝わるらしく直ぐに答えが返って来た。


「始まりの聖地さ。あいつは、ウロボロスを使って聖地を穢した!!絶対に許さない。双頭龍王族と僕は、ずっと平和に暮らして・・・守ってきたのに。欲にまみれたあの・・・・・司祭も生まれ変わっているんだ。」


怒りに満ちた感情で卵が更に発光し、今にも割れるのではないかと思えるぐらいになった。


「ちょっと、待って・・・司祭も生まれ変わっているって・・・。本当なの?それなら、この国も危ないってこと?」


「それは、分からない・・・。だけど、多分この地に来ている・・・あいつの気を感じるんだ。何のために、こんな所まで来たのか・・・僕は、知らなくちゃいけない!!」


月涼は、卵の中の龍からの意思が犇々と伝わり、自分の中に充満し覆いつくされるように感じて苦しくなっていく。卵の中の龍も変化して、金色だった羽が赤く染まり始めていた。


「く、くるし・・・・・・・い。お、おち・・・ついて、けいや・・・くのはなし・・・を・・・。」


声も絶え絶えに、月涼が卵の中の龍に話しかけた。

卵の中の龍は、月涼の様子が分かり『はっ』として、感情を戻し謝った。


「ごめんね。苦しませてしまったね。君が止めなければ、赤龍になるところだった・・・。まだまだ、未熟だ・・・。」


月涼は、首を振り大丈夫だと卵を優しくなでた。次第に卵の中の龍の羽が元の金色に戻ったあと、卵の中の龍は、落ちついて言うのだった。


「月涼、契約の条件は厳しいよ。もし、無理だと思うならしなくても良い。君が契約しないなら、僕も、お母さんたちも、君も神界に帰ることになる。あいつとの対峙は、先送りになるが・・・・・・。だから、いつまでもこの空間にいる訳じゃないよ。」


「どうして?私の御霊は、あなたのお母さんの中に入りなおして、少しの間だけでも、生きられるんじゃないの?私としてじゃないけど・・・。それに、アーロンも?神界に?」


月涼の疑問に対して、卵の中の龍が簡潔に答えた。


「君たちは、お互いの御霊を補完して生きているからだよ。だから・・・誰も欠けてはいけないんだ。お父さんもお母さんもそこを見落としてしまっているんだ。・・・分ったかい?じゃあ契約の条件を言うよ。」


「ちょっと待って!!補完しあっているのは、分かったけど・・・契約したからってそれが変わるわけじゃないでしょ?」


「変わるよ。僕と契約することで君の御霊は、僕が補完するからね。君の中に入るって言ったでしょ?だから、お母さんの御霊は元の体に戻れるんだ。ただ・・・。」


「後、どれくらい生きられるか・・・てことね。」


「うん・・・・・・。でもね、普通の人とは、違うからね・・・今日、明日とかでは、ないよ。」


あっさりと答える卵の中の龍に、いったいどれくらいの時間の感覚があるのだろうか?と思う月涼だった。











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