第12話 龍王の嗣子
シンがソニアに第一王子の件を説明しようとしたその時だった。月涼とシンの周りを青華蝶が舞いその数がドンドンと増え、あれよという間に泣き崩れていたソニアと
「シン様・・・これは?」
「我だ・・・。」
『あっ』と言って月涼が遺体に近づいて、その水晶で覆われた遺体に触れる。
「どうしたのだ?何かあるのか?月涼。」
「ここに・・・。亀裂が、最初から在りましたか?」
慌てて、シンも駆け寄りその亀裂を確認する。亀裂は、かなりの大きさで今にもすべてに広がっていきそうな感じだ。シンは、悲しそうに自分の肉体を見つめて水晶に覆われた遺体に触れて言うのだった。
「もう、涙も出ないのだ月涼・・・。分かるか?ここにある肉体が成し得たことを何もできないのだ。」
呟くように言うシンに・・・何とも言えない気持ちになる月涼だった。二人して、シンの遺体をじっと見つめていると後ろから男性の低く良く通る声がした。
「アー・・・ロ・・・ン?」
その声に振り返った月涼は、人型を取ったアーロンを初めて見て、驚きすぎて声がひっくり返る。その姿は、床に着くほどの長い銀糸の髪、紫水晶そのものの瞳、透き通る様に白い肌・・・神秘的で人型であっても人とは思えない不思議な感覚に襲われるそんな姿だった。
その様子を他所にアーロンは、語りかけるように静かに話し始める。
「人の子よ・・・。我の番の限界が近い。其方が必要だ・・・。あの日、御霊が抜けてしまうなど予想だにしなかったのだ。こんな事になるのなら、シンの願いを許さなかっただろう。我の唯一の番なのだ。できる事なら添い遂げて共に生きたかったのだ。」
アーロンは、シンの手を取り自分に引き寄せて、そして、シンの遺体を愛おしそうに見つめなおしてから話を続ける。
「ここに、嗣子も眠っている・・・。我とシンの子だ・・・。其方が必要なのだ。」
月涼は、この言葉で状況を考えてゴクリと唾を呑み込んだ。私を器として差し出せと言う事なのか?器として怪我をされては困るから方術を教え法具を持たせたのか?これまでの事が走馬灯の様に蘇る。この国へ来て、これまでと違う生き方ができる事を心から嬉しく思っていた。それなのに、本当は、私を器として利用することが本当の狙いだったのかと・・・そう思うとホロホロととめどなく涙が溢れてきた。
「私自身でなく・・・器としての私が欲しかったのですか?」
「そうだ。・・・だが、器ではない。」
「アーロン、言うな・・・。」
シンの制止も聞かずアーロンは、遺体を見ながら話を続ける。
「月涼、其方と初めて会った時、分かった。シンの御霊がそこにあると。ならば、取り戻せばよいと。其方の御霊ごと取り出し、ここに入れればシンは、蘇って子を産めるはずだ。許せ・・・月涼。しばしだ・・・しばしの間だ。」
アーロンが手をかざしながら月涼ににじり寄る。月涼は、首を振って、沈黙のまま拒否し後退りする。そして、その手が月涼に触れた瞬間だった。眩い光と共に月涼の御霊は、取り出されていた。抜けがらとなったその器は、シンの遺体の横にパタリと横たわった。
「アーロン、やっぱり駄目だ。月涼に返して・・・!!それに、こんなことをすれば、アーロンだって・・・ただでは済まない。」
シンの悲痛な叫び声が部屋に響く中、アーロンは、首を振り御霊をシンの遺体へと運んだ。
§
御魂を盗られた月涼の意識は、混沌とした霧のかかった中にいた。宙に浮いたような状態で、天地も分からず・・・ただ彷徨う。己に起こった事を思い起こそうとするが靄がかかったように思い出せない。
どれくらいの時が過ぎたのかも分からないまま、なすすべもなく浮かんでいた時だった。淡い光がだんだんと強くなり、自分を呼ぶ声の方に引き寄せられた。『誰かが呼んでいる・・・。誰?』光の指すほうに手を差し出すと眩く光り、その光の中に吸い込まれた。
そこは、先程の様な空間と違い、ふわふわとした綿の中の様な場所だった。天地は有り壁が無い空間で、地面に足をつくことができた。ふと、足元に目をやると、真綿に包まれた大きな卵があった。どうやら、声は其処から、聞こえているらしかった。
月涼は、その卵にそっと近づき話しかけてみた。
「ねぇ。あなたが呼んだの?」
そして、コンコンとノックしてみた。
「うん!!そうだよ。月涼だよね?」
「そうだけど・・・。あなたは?」
「僕には、まだ名前は無いよ。生まれてないからね。今、お父さんとお母さんが・・・僕を外の世界に出すために頑張ってくれている。でも、ダメなんだ・・・。」
「どうしてダメなの?」
「ごめんね・・・月涼。僕のせいで、こんなとこにまで来させてしまった。」
その言葉で、御霊を盗られてしまった事を思い出す月涼。
「思い出した・・・。君は、アーロンとシンの子供なんだね?」
「うん。僕は、お母さんのおなかで成長が止まってしまったんだ。だから、出たくても出れないんだよ。君の助けが必要で、ここまで来てもらったんだ。」
「でも、私は、御霊をあなたのお父さんに盗られちゃったんだけど・・・。助け方も分からない・・・。」
唯々、途方にくれるしかない月涼だった・・・。
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