第11話 太后シンと月涼の御霊
月涼は、シンの話を聞きながらこれからどうするのか?そして、どうなるのかを考えていた。『シンは、自分の御霊本体と通じ合ったとまで話した。
私の御霊本体にある何らかの作用で、シンが肉体ないままでも今ここに居る・・・その作用は?』頭の中考えが纏まらぬまま月涼は、シンに問う。
「あの・・・シン様の肉体は、どうなったのですか?肉体は無いとは、仰いましたが、お話を聞いている限りでは・・・それ自体は、なんとなく現存している気がするんですが・・・。」
「うむ。肉体自体は、水晶の中で封印していた為、朽ちてはいない。だが、そこは、御霊の入れ物では無くなったということだ。もう、あの体で動くことは、叶わぬ。私の御霊は・・・。」
月涼がふっと思いついて躊躇なく発した。
「あっ私の中、それじゃあ・・・豹(チビ)の推測は、半分は、はずれ・・・。」
シンがフッと苦笑いして頷く。
「そうだ・・・。やはり、察しが良いな月涼。私の御霊は、分魂されて其方の中に在る。あの日・・・其方の本体が見えて、私は念じた。自分の肉体は寿命が尽きようとしているのに、この地を守るものがいない。どうか、この地を守る力を貸してほしい・・・そう祈ったのだ。」
月涼もソニアも何が起こったのか知りたいと身を乗り出して聞く。
「それで・・・どうなったのですか?」
「本体に戻ろうとしていた、其方の御霊が突然輝いて押し戻されたのだ。それと同時に我の御霊は、肉体から飛び出した。そして、其方の御霊と合魂したのだ。我の御霊は、其方の御霊と対極で合わさり中に核を作った。その核から飛び出たものがアーロンを宿り木として、我を再生している。」
「私の本体が願いを聞き入れてくれた?ってことですよね。神界にある本体と話せたのですか?」
シンは首を振り、その問いに想像で答えた。
「話すことまでは、出来なかった。だが、こうして、この地を微力ながらも守り、姿を保つことだけは出来ているのだ。願いをかなえてくれたのだと思っている・・・だが、これがいつまで続けられるのか?我は、見当がつかぬ。」
月涼は、そんなシンを見て、まだ隠し事があると感じて更に問う。
「シン様・・・。まだ、何か?隠していませんか?」
シンは、大きく息を吐き・・・意を固めた顔をして言った。
「そうだ。隠していないわけではないが、今、言うのは時期尚早の様に思えている。それに、いずれ、言わずとも感じるのではないかとも思っている。」
このシンの言葉で月涼は、気づいたのだった。自分の死とシンの死が同時に起こるであろうことを。『自分の御霊は戻ろうとしていたのだそこへ、シンの願いでシンの御霊が月涼の御霊を補完して戻したのだ。つまり補完ができない状態になれば・・・。』
「私の死は、シン様の死ですね。」
月涼は、きっぱりと言うのだった。その答えにシンがコクリと頷き沈黙が流れた。口火を切ったのは、やはり、月涼だった。
「いつかは、死を迎えます。ですが・・・大きな責任を貰ってしまった。私が死ねば、この地を守れる存在を消してしまう・・・。とにかく、この地を守る他の方法が他にないかを探ることが先だとは思いませんか?」
「そうだな・・・今回は、一時しのぎだろう・・・。何故こうなったかを探らねばならないのは、分かっていた。だからこそ、この国へ来るように・・・。」
遮る様に月涼がシンに言う。
「仕向けたんですね。ジアン公やこの国の方々を・・・。ですが、この地を離れられないのにどうやって?仕向けられたんですか?」
「我の御霊が合魂したことで、其方の体の成長が止まった。周りは、毒により死にかけたせいの病と思うだろう?だから・・・厄介な病を治せるのは、青華国しかないと流布させたのだ。ザンビスと交流のあるジアン公が、それに食いつくだろうと予想がつく・・・さらにソニアを通じてザンビスに、西蘭国にリュートの妻に相応しい力のあるものが、助けを求めて向こうからやってくると教えておいた。簡単なことだ・・・。」
月涼は、自分の身に起きた出来事を回想しながら、背筋が寒くなる思いだった。そして、リュートの感情も操られていたのだろうか?と悲しくなり、ゴクリと溜飲を下げる気持ちでシンに聞く。
「じゃあ・・・リュートが私を好きになったのも・・・?」
シンは、首を振り月涼の手を取った。
「あれは、想定外だ・・・まさか、一目惚れするとは思ってもみなかった。」
「でも・・・もし、リュートが私を選ばなければ・・・。」
「そうだな・・・違う形ででもこちらに呼び寄せるか・・・術を使ってでも惚れさせたかも知れん。」
ソニアの顔色もどんどん無くなっていく・・・そして、消え入る様にシンに聞くのだった。
「ならば・・・セデス(第一王子)の件も王后様が絡んでいるのですか?」
「すまぬ・・・。絡んでいないと言えば・・・嘘になる。だが、トルテアに資格が無かったのは事実だ。もし、このような状況になくとも、トルテアは、王后になることはなかっただろう。」
ソニアは、なぜ、話してくれなかったのかと泣きながらシンに訴えるのだった。
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