第7話 法具(独鈷)の使い方

独鈷(ドッコ)が元の形に戻り光が消えると更に、不思議なことが起こった。掌から金粉が舞い上がり、月涼の掌から独鈷が消えたのである。


「えっ消えた・・・。なんで?」


まじまじと掌を見つめる月涼の手をハルタンが取った。


「ここ。」


ハルタンが月涼の掌の中央を指さしたので、そこをよく見ると、青華の刻印と同じものが出来ていた。


「これ・・・。額の刻印と同じだ。」


小さいが青く煌いているその刻印は、綺麗に咲いた青華そのものだった。


「でも、額の青華と花弁の枚数が違う気がする・・・?額のは5枚・・・これは、6枚だわ。」


「よく、気づいたな・・・俺も初めて見る枚数だ。」


『どれ?』と言って、ソニアも覗き込む。


ソニアと月涼は、それぞれの刻印を確認したがソニアの刻印は、額も掌も5枚の花弁である。


「これは、何か意味がありそうだな・・・。俺は、与えられた刻印を何度も見ているが枚数が違うのは、初見だ。男は、3枚。女は、5枚と思いこんでいたが・・・。」


訝し気にハルタンが言う。


「うむ。妾も、男女で枚数が違うだけだと思うておった。太后様に聞いてみなくては、ならないようだな。」


ソニアも頷いて、まじまじと月涼の掌を見つめるのだった。その時、月涼の周りを大量の青華蝶が、ブワーっと現れ舞い始める。


「義母上・・・!!これは、シン様からの呼び出し?」


そう聞いている途中に、月涼の姿は、そのまま蝶に埋まる様消えてしまうのだった。


残されたソニアとハルタンは、その状況に驚きを隠せなかった。月涼と太后シンを引き合わせて、何度となく水晶宮を訪れていたが蝶を使った呼び出しは、一度もなかったうえに、長い付き合いのソニアですらその呼び出しは、無かったからである。もちろんハルタンも初めて見る光景だった。


「お嬢は、何か特別な人なのかも知れませんね?ソニア様・・・。」


「うむ。太后様は、何か隠されておられるようじゃな・・・。」


一方、蝶と共に水晶宮の湖の畔に来た月涼も突然の出来事に、状況をきちんと把握できずにいた。


「来たか・・・。月涼。法具は、独鈷か?」


「あ、シン様。急すぎてびっくりしました・・・。」


「独鈷かと聞いておる。見せてみよ法具を・・・。」


シンの威圧に押されて、月涼が掌を開くと独鈷が現れた。


「使い方は分かるか?」


「いいえ・・・。だって、聞く前にここに来ちゃったから・・・。」


「そうか・・・。早すぎたか。」


「今日のシン様、変ですね。なんか?怒ってますか?」


「その様に見えるか?」


「はい・・・・・・。」


そんな、やり取りをしていると、追いかけるようにソニアが現れた。


「太后様・・・。何事ですか?いきなり、リアを呼び出すとは?」


太后シンは、月涼の独鈷を手に取りながら答える。


「ソニア。今年の星まつりに、リーベンデール国の使者が来る予定であろう?」


「ええ。その様に聞いておりますが・・・。まだ、到着の連絡も無かったかと・・・。」


「先ほど、大司祭と千里眼でその者たちを確認した。妾にとっては、縁の深い者たち・・・。少し警戒した方が良いと思ってな。それに、道具屋の傍で、月涼とすれ違っておる。向こうが気付かなかったのが幸いよ・・・。道具屋には、結界を張っておるから・・・その効果もあったやも知れぬが。」


「その者たちが、リアを狙うとでもいうのですか?」


「まだ、何も分からぬ・・・。だが、警戒するに越したことはない故、出来た法具に急ぎ保護を施そうと思って、呼び出したのじゃ。この保護で、気配を消すことができる。」


「分かりました。そういう事だったのですね。」


太后シンは、ソニアと話しながらも月涼の法具に保護術を掛け続けていた。

法具は、宙に浮いてクルクルと回りながら輝いて金粉が周りを飛んでいる。その光景に、目を奪われてた月涼は、シンとソニアの会話も聞かず、金粉に手をかざして楽しんでいた。それに気づいたソニアが月涼の頭に拳骨を落とした。


「イタッ・・・。義母上、何するんですか~。」


「聞いておったのか?リア?」


「何をですか?」


『はあ~』とため息をつきながらソニアが言う。


「太后様は、其方に危険が迫っているかも知れないと呼び寄せたと言う事じゃ!!」


「んんん?どうして、私なんですか?」


「は?そう言われてみれば・・・何故、リアなのですか?国そのものでなく・・・太后様。」


押し黙る太后に、二人は、これ以上聞いてはいけないのかと悩んだ。


「では、とにかく、リアに法具の使い方を教えてしまいましょう。太后様。」


ソニアが、空気を変えようと提案し、シンは、宙に浮いていた法具を再び月涼の掌に収めた。


「月涼。方術の気の回し方は、覚えておるな。」


「はい。シン様。臍の下の丹に気を溜めて・・・と。それから?掌に持って行きますか?」


シンが頷いた後、月涼が掌に気を移動させると独鈷が、回転を始めて宙に浮いたと同時に、青華蝶が舞い上がった。


「これは・・・?」


シンがあっけにとられて呟いた。


「え?何かおかしいんですか?」


月涼は、言われた通りにしたつもりだったが、蝶が舞うのは、シンもソニアも想定外だった。

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