第6話 装具士ハルタン

バン!!と勢いよく扉を開けて入るソニアについて月涼は、法具を作ってくれているハルタンのもとを訪れていた。


「入るぞ!!ハルタン。」


と大きな声で入っていくソニア。


『いや、入ってから言っても・・・』とソニアに突っ込みたいところだが、そうもいかず…ぴったりとソニアの後ろに隠れている月涼。


「ソニア様・・・もう少し丁寧にお入りいただけませんかね?ドアが壊れます。」


ハルタンが、不機嫌そうに言うのを見て、月涼も『その通りである。』と思っていた。そんな、二人を他所に辺りを見回した月涼は、この店は、何にもないように見えるが、これで本当に道具屋何だろうか?と思っていた。


辺りを見回す月涼を見たハルタンがソニアに聞く。


「この方が、例のお方ですか?ソニア様。」


「ああ、そうだ。で、それよりできたのか?法具は?」


「ええ。まあ。ご本人に持たせて調整が必要ですからね。奥へ移動しましょうか?」


「うむ。」


ソニアが返事をするとパチン!!という合図で、部屋がゆがんで見え始めた。


「えっ?何ですか?部屋が・・・・・。」


眩暈の様に感じるがそうではなく、本当に部屋が捻じれている。捻じれた先には穴が出来上がり、月涼は、その穴へ入る様に促された。


「早く来な。嬢ちゃん。すぐに戻ってしまうんでな。」


「ええ。あっははい・・・。」


小さな穴をかがんでくぐると直ぐに、その穴は閉じられた。穴の先は、大きな部屋になっていて壁や天井にまで、ありとあらゆる道具が掛けられている部屋になっていた。


「うわ~~~~!!すごい!!」


月涼が思わず感嘆の声を上げると、装具士ハルタンは、自慢げな顔をして月涼に言った。


「俺の自信作ばかりだからな・・・。」


「ええ。ええ。すごいです。」


そう言って振り返って、装具士ハルタンを見た月涼が更に驚く。


「あ、あ、あれ、さっきと姿が・・・。耳が・・・。」


驚いた月涼の目の先には、この部屋に入るまで無かったモフモフした猫耳が、装具士ハルタンの頭にぴょこんと出ていたのだ。


「ああ。これか?俺は、猫族だからな・・・。人に混じるときは、隠しているがこの部屋は、猫族の空間だから元に戻るんだ。」


ソニアの顔をまじまじと見て、知っていたのか?と合図を送る月涼に、ソニアは平然と言った。


「リア。其方、龍王アーロンの時は、驚かないのにこれくらいで、何故、驚くのだ?」


「え?あ?そっか・・・。そうですよね。ふっハハハハハハ。そうですよね。」


何故だか、笑ってしまう月涼に、ソニアがつられて笑った。


「おかしな奴じゃのう。其方は・・・。ハハハハハ。」


「何でも良いですけど・・・法具を試してもらわないと・・・。さっこっちへ来て、嬢ちゃん。」


装具士ハルタンが法具を手に持って、月涼に近づくように言う。

その法具は、掌に収まるサイズで、金で出来ており両端が分岐していない金鋼杵で、独鈷というらしい。装具士ハルタンは、月涼の手を取り、それを、掌に乗せてから何か呪文を唱えた。


「φДψψЁφ・・・・在りし日の姿を映し…この世に顕在させよ、その姿。主、月涼の名のもとに発動・・・。」


月涼の掌で、その独鈷が輝き始めて、その両端の先端から光と共に刃先が生まれる。


「よし!!成功だ。これで、この法具の主は、嬢ちゃんだ!!」


「良い!良いぞ!!ハルタン!!でかした!!これは、見事だ。」


驚いて、その状況についていけてない月涼だが、その法具の美しさにだけは、目を奪われてしまうのだった。


「これが・・・法具?」


「そうだ。これが、嬢ちゃんだけの法具だ。嬢ちゃん以外には誰も使えないものだ。常に身に着けてなくちゃならない。そのうち、精霊も現れるはずだ。」


「精霊?」


キョトンとしてしまう月涼に、さらに装具士ハルタンは言う。


「そうだ。精霊だ・・・。嬢ちゃん、西蘭の生まれだったな?確か?あっちの国じゃ、妖の類・・・扱いだがな・・・。俺も、その類にされちまうだろうな。ハハハハハ。」


そう言った後、月涼の顔をまじまじと見て、更に、ぐるりと月涼の体の周りを歩いた。


「んんんんー・・・おっかしいな~。嬢ちゃんの気からは、西蘭が感じないんだよな・・・いくら、こっちの者と交わったからと言ってもな・・・ったく不思議な気の持ち主だぜ。」


ソニアが納得するかの様に、話に入ってくる。


「そうじゃ・・・妾もそう思っておったのじゃ。始めは、勘違いか?妾の力不足かと思って過ごしていたのだが・・・本当は、リュートが連れ帰ってからずっと、リアから感じるはずの西蘭国の気が無いと・・・思っておったのじゃ。何故であろう?ハルタン。」


「うーん。こればっかりはな・・・。シン様に聞く方が良いんじゃないのかい?ソニア様。」


「そうか・・・そうじゃな。『法具が出来れば、来い』と言っておられたしのう・・・。リアを連れて行くときに聞いてみるとする。・・・フム。」


なんだか訳のわからないまま、物色されてる気がする月涼だったが、掌の独鈷から飛び出している長い刃先をどうしたものか?と思っていた。


「あの~この法具の刃先って出たままですかね?ハルタンさん。これじゃ、持ち歩けないかと・・・。」


「おお、出たままだったな・・・。独鈷をギュッと握って、元の状態を頭に描いてみな。」


月涼は、その言葉に従い先程の独鈷の状態を思い出して、ギュッと握ってみた。すると、独鈷がまた発光し刃先は、消え失せたのだった。

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