第5話 金瞳の少年

青華国首都タブールには、王族専用の城内波止とその手前にある商船用の一般のタルタ港がある。

星まつりの前日に、そのタルタ港に降り立った金瞳の少年がいた。


その少年は、肩口に太陽を金で模った金具で留めた白いマントを羽織り、左手には、槍の様に長くその先に、龍を模った水晶がある聖者の杖を携えていた。


幾人かの侍従を連れたその少年は、聖職者として星まつりに参列すべく、青華国にやってきた者だった。


「猊下。下船致しましょう・・・青華国に到着いたしました。船旅は疲れませんでしたか?」


侍従の一人がその少年に聞く。


「いや・・・大丈夫だ。」


「では、このまま、神殿に向かわれますか?」


「聖座について初めての旅だ・・・少し、街を見て回りたい。この格好では、目立つ。・・こちらの着物を調達してきてくれ。あと、宿も用意してほしい。」


「はい。かしこまりました。・・・ですが、青華国側で用意されている王城でのお部屋は?・・・どうされますか?」


「それは、それで使うつもりだ。ただ、街を見て回るときに護衛が多いと観光しづらいではないか・・・。」


少年は、そう言った後、侍従が用意した服に着替え、数人の侍従と共に街の雑踏に姿を消した。



§ 神殿にて


『リーベンデール国、それは、双頭龍王族の国・・・すなわち青華国王族の祖国でもある。300年ほど前の内乱で、権力争いに負けた王族とその一族郎党が、船で出国してたどり着いたのが青華国を建国した地タブールであった。故に崇める神は同じでなのである。』


奇しくも・・・月涼とリュートの契りの儀式が終わった日に、その国から、突然・・・星まつり参列への連絡が来たのだ。300年の時を隔たり、今更・・・何をしようと言うのか?と不思議に思う青華国司祭たちであった。


星まつり前日・・・リーベンデール国からの船が、到着していると聞いた神殿司祭と神女たちが、大神殿大広間に並んで、その国の聖座を待っていたが一向に来ない為、連絡の馬を港にやるかの相談をしていた。


「司祭様・・・。リーベンデール国から、聖座がいらっしゃると連絡が来ていましたのに・・・。どうされたのでしょうか?取りやめになったのでしょうか?」


神女たちがざわついて話し司祭も言う。


「それならそれで、連絡が来ると思われるのだが・・・。港にやった迎えも戻らぬしな。」


ざわつきに気付いた大司祭が神殿奥から広間に出てきて、訝し気に長い顎鬚に手を当てながら、司祭に言った。


「もし・・・着いているのに連絡もなしに姿を見せぬのなら・・・注意せねばならぬかも知れぬ・・・。連絡が来た時期を見ても、あちらの国が使者として聖座を送ってくると言うことは・・・。やはり、何らかの意図が有るのであろうな・・・。」


大司祭は、空を仰いでため息をついた後、急ぎソニアに連絡を取る様に神女の一人に言伝る。


「かしこまりました。大司祭様・・・。」


言伝を頼まれた神女は、ソニアのもとに急いだが、城内のどこにもおらず大司祭のもとに戻り、会えなかったことを伝えた。


「大司祭様、王后陛下は、妃様と視察に出向かれた様でございまして、城内にはおりませんでした。」


「そうか・・・。ならば、私は、明日まで奥神殿に入る故、仮え、リーベンデールの聖座が到着しても誰も通さぬようにせよ。星まつりの準備はいつも通りで構わぬが、聖杯の準備だけ、明日に回しなさい。」


「はい。大司祭様。しかと・・・皆に伝えます。」


大司祭は、奥神殿に入るとすぐ、扉を施錠し誰も入れぬようにしてから、水晶宮へと続く扉を開いた。水晶宮は、入るものによってその形体を変化させる。大司祭が入るとその部屋は、六角形でつなぐ壁に変化する。大司祭にとっての水晶宮は、太后シンとの謁見の場であり、千里眼を発動させる場でもあった。


「小賢しい・・・。街に潜伏して、何を探しているのか・・・・・・。」


千里眼を発動して、リーベンデール国の使者の行方を追う大司祭。

その大司祭の前にフッと姿を現す太后シン。


「何をぼやいておる・・・大司祭。」


「太后様・・・。ご存じかと思いますが・・・リーベンデールが使者をよこしました。太后様の存在を知らぬ者が、平穏な我が国に波風を吹かせようとしている気が致します。」


「そうか・・・遂に来たか。大司祭、使者の姿を壁に映して見よ。」


大司祭は、千里眼で見えた者を映像にして、壁に映して見せた。


その映像を見て、フーとため息をついて太后シンは言った。


「金瞳か・・・。生れ出た様じゃな。我々の最大の敵が・・・。月涼を育てる時間が足らぬかもしれぬ・・・。ともかく、千里眼で監視だけは、怠らぬように致せ。私も、アーロンと共に結界の範囲を広げ強化する。」


「はい。太后様・・・仰せのままに。」


§


その頃、月涼はソニアと共に城下街の視察ついでに市も楽しんでいた。


「義母上・・・あの赤い飴は?何の飴ですか?」


「あれは、サンザシじゃな。甘酸っぱくて、なかなか良い味じゃ。明日の夜市で、リュートに買ってもらえ。今は、必要な法具を手に入れねば。其方の為に作らせた法具を取りに行く。」


「法具?それは、何ですか?」


「其方の身を守る物と思えば良い。城まで持って来てもらっても良かったのだが・・・其方に場所を覚えてもらうついでもある。破損した時に治せるのは、その者だけだからな・・・。」


『なるほど・・・。』と頷いてついていく、月涼の横を金瞳の少年が、通り過ぎていくのだった。


お互い・・・何も知らぬままに。

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