第4話 水晶宮へ 3

ソニアが太后シンと月涼の対面を無事終えた事に安堵し、水晶宮を後にしようとした時だった。


「シン様、どうして、少女の姿なのですか?」


30年近い付き合いのソニアですら、聞かなかったことを月涼はさらりと聞いた。


その問いに太后シンは、苦笑いをして答える。


「我の肉体は、すでに無い。宿り木の様に龍に魂を寄生して、再生させた姿じゃからの・・・この姿が限界といったところだ。」


シンの答えに捕捉するように龍も言う。


「人の子よ・・・己の世界では、起らぬ事よ・・・この地は、狭間の世界と思うと良い。」


シンの答えも龍の捕捉も、月涼の好奇心をどんどん刺激する。


「魂とは、亡くなった後の意識?と言ったところですか?」


「そうじゃな・・・簡単に言えばそうなるが・・・意識だけでは、力はもてぬ。本来の精力であり、活力であり・・・肉体を操作する源と言った方が良いな・・・。その事は、こちらに来た時に龍と共に、いろいろと教えよう。」


矢継ぎ早に、あれもこれも質問しようとする月涼。


「それに、この地が水晶宮そのものなんですよね・・・ね・・・。」


「バカモノ・・・。水晶宮は、其方の後ろじゃ。振り返ってみよ・・・。」


月涼は連れてきてもらった時点から、龍と太后シンが佇む湖の方向ばかり見ており、後ろを見ては居なかったのだ。水晶宮とは、ソニアに連れてこられた通路があった場所であり、自分が出て来た場所だ。

太后シンに言われて、月涼は、ゆっくり振る。そこには、全てが水晶で出来た宮殿が聳え立っていた。その荘厳な佇まいに、圧倒され息を呑む月涼。


「えっ・・・あの宮殿から出てきたの?通路と・・・広間、それに部屋が一つしか・・・。」


月涼のつぶやきを遮り、太后シンは言う。


「月涼よ・・・。其方は、ソニアに手を引かれて、歩いた所のみを知る。それでは、あの宮殿とはいえぬな。少しづつ、見えてくるはずじゃ。あの宮殿の奥の深さとその存在を・・・。今日の所は、これで、帰るが良い。また、いつでも会える。」


ソニアがなかなか話に入れず、困っているのを察した太后シンが帰るきっかけを与える。


「太后様、それでは、連れて帰ります。刻印ありがとうございました。」


「うむ。ソニア・・・。よう、見てあげなさい。」


ソニアは、頭を垂れて挨拶をし、月涼に帰るぞと声をかけると、その手を引いて踵を返した。

水晶宮に向かい、手をかざすと青い光とともに門が開く。その門に向かって歩く二人。


「義母上!!ちょっと待って!聞き忘れました!」


月涼がソニアの手を離して、太后シンに駆け寄る。


「シン様!!、出入り自由と言っても、義母上様の部屋からだけですか?」


「いや、其方が、方術を使いこなせば・・・その扉は開かれる。今は、無理じゃろうな・・・ククク。」


「むぅ・・・意地悪な・・・。絶対使いこなしてここに来ますからね!!シン様。」


月涼は、啖呵を切るように太后シンに言った後、龍王アーロンにも駆け寄った。


「アーロン。また来るね。待ってて。」


「ああ。人の子よ。♪♪♪♪♪♪。さあ、行きなさい、・・・人の子よ。」


龍王アーロンが唄を歌い送り出す。



「これ、早う帰るぞ!!其方、閨事の特別授業もあったであろう!!」


ソニアが連れ戻しに来て、月涼の手を引っ張るが、そんな事も無視して、後ろを向き龍王アーロンに手を振り続ける。


「アーロン、私の名は、人の子じゃないからね・・・。月涼でもリアでも良いからーーー!!シン様ーーー!!絶対自分で来れるようになりますからーーー!!」


「励むが良い。そうなってもらわねば困るしな・・・。」


太后シンは、月涼の背を見ながら呟くように、そして、意味深に言うのだった。


二人は、青き門をくぐると光に包まれ、一瞬でソニアの部屋の水晶宮の扉前に出た。


「義母上。出る時は、一瞬ですね。」


月涼は、まだ興奮冷めやらぬ状態で、ソニアの顔をを見ながら言う。そんな、月涼に呆れながらソニアは、月涼の頬に手を当てて聞く。


「リア・・・。太后様からの圧を感じなかったのか?」


「んんんんー?圧?それは、どんな?」


少し心配そうに瞳を合わせてソニアは、月涼に言った。


「圧倒的な強さというのか・・・。簡単に言えば、蛇に睨まれた蛙じゃ。妾は、太后様の威圧で倒れそうな事もある・・・というのに、其方、何も感じぬのか?しかも、龍王アーロンにまであの様に接するとは・・・。」


月涼は、小首をかしげながらソニアを見た。


「んーーー。その様には、寧ろ・・・とても、懐かしいような気さえして、故国で味わってきた違和感が解消されるような・・・そんな気に包まれました。何ででしょうかね?」


「し、質問を質問で返すものがあるか?いくら、妾とて分かるわけがなかろう・・・。」


月涼の答えに驚きながらも少し心に、何かが生まれるのを感じるソニアだった。


「そ、そうじゃ、フルルが準備が整ったから、後で来るように言って居った。行ってきなさい。」


「えーーー!!行きたくありません。だって、・・・。」


「リア。約束したであろう・・・昨日。」


「じゃあ、一緒に来てください。義母上。我慢しますから・・・。」


「さっきの勢いはどうした?あの勢いで行けばよい。」


「それとこれとは・・・違いますーーー。お願い致します!義母上。だって、今日は、さらに・・・。」


「さらに、なんじゃ?」


月涼が顔を真っ赤にしながら首を振るのでソニアは、それ以上聞かずに笑いながら部屋へ送ることにした。


「ハハハハハハ。さあ、行くぞ。リア・・・。」


「・・・はい。」


シュンとなりながらも行くしかない月涼だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る