第8話 法具(独鈷)の使い方 2

月涼が独鈷ドッコを宙に浮かせて気を集めた途端現れた蝶は、どんどんと増え続けた。そのうち、蝶は一か所に集まり、パッと消えたかと思うと其処には、青く輝く毛色の豹が現れた。月涼は、その豹に気を取られて独鈷に気を移すのを止めてしまった。


「シン様・・・義母上・・・この豹は、私が呼んじゃったんでしょうか?」


「その様じゃな・・・。聖獣よ、名はあるのか?それとも話せぬか?」


シンは、豹に近寄り話しかけてみるが豹は、そっぽを向いて答えない。ソニアも同じように話しかけたが無理だった為、月涼に話しかけるように促す。


「これ、リア、其方が呼んだのだから話しかけてみよ。」


豹に近寄り話しかけると豹は、月涼にすり寄ってきて抱き着き、頬をぺろぺろと舐め始めた。その豹を相手にしながら、胸にある模様が目に入った。


「んーーー?お前、チビちゃんなの?」


「何を言うておる。あれは、もっと小さな猫ではないか。リア。」


「ですが、義母上・・・この胸の模様は、チビです。チビ、チビだよね?」


「せいか~い!!月涼。やっと、元の姿に戻れたぜ!!ふわ~長かった~!!100年はかかったかな?」


チビは、そう言うと月涼にぴったり寄り添って座り、頭をこすりつけて来た。


「えッ?チビっていくつなの?」


「俺か?俺、そうだな・・・かれこれ300年は生きてるぜ。」


「さんびゃく~!!」


「昔・・・人の子らに悪戯しすぎて、方術士の罠にはまって、猫の姿にされちまったのさ。それからずっと、猫の姿で過ごしてたんだ。まっ見た目が麗しいお陰で・・・優雅に過ごせたがな。」


鼻をフンと鳴らして、ちょっと自慢気に言うチビに、シンが顔を強張らせ神妙に聞いた。


「聖獣よ・・・。人に馴れぬ者がなぜ?月涼について来た?お前は、味方か?それとも敵の使者か?」


この言葉に、チビは、少し構えてシンに言い返した。


「ふんっ!敵?味方?・・・俺の勝手と言いたいところだが、あの日、月涼が泊まった宿でピンと来たんだ。こいつに付いてれば、元の姿に戻れるってな!!こいつの気は、人じゃないからな・・・。この空間の支持者シンさん。あんただって分かってんだろう?こいつの中にある気の本体を?」


「黙れ!!聖獣。まだ、本来の力は戻っておるまい?我がもう一度封印することも可能ぞ!!」


「あの~シン様??さっきから、人の気じゃないとかどうとか?って・・・。チビもちょっと、喧嘩みたいにならないでよ・・・。」


一触即発の様な雰囲気になってきたので、月涼が水を差すように言うと、一斉にシンもチビも振り返って睨んできた。

『ガルルルル!!』鼻柱に皺を寄せ、地面に爪を立て姿勢を低く構えるチビが、今にもシンにとびかかりそうな状態になった。慌てて、前に立ちはだかる月涼。


「チビ!!駄目だ!!」


月涼は、無我夢中で独鈷をつかんで、『傷つけるな!!』と思いながら、チビに向けると独鈷の両端から刃先ではなく、光の帯が放たれ、その帯は、チビにぐるぐると巻き付いて縛るのだった。チビは身動きが取れず、唸り続ける・・・『グルルルル。』


「落ち着いて・・・。お願い・・・チビ。私を見て・・・。」


そろりそろりと唸るチビに近づく・・・。その時だった、バサバサバサっと上空から羽音から響きその陰で地面が暗くなる。・・・龍王アーロンが来たのだ。


「人の子よ・・・。呼んだか?」


首を振り否定するが龍王アーロンは、月涼が呼んだという。アーロンが降り立ちチビに言う。


「サーラム・・・久しいな。生きていたのか?」


龍王アーロンの問いに、ようやく興奮が収まってきたチビが、シンを睨みながら答えた。


「お前もな・・・アーロン。こんな空間に居たら見つからないわけだぜ。それよりも、誇り高き龍王がなぜ、結びの契約をしているんだ?そこの小さいのと・・・。」


「いろいろとある。お前には、関係ない事・・・。我の契約者を害するなら、戦うがどうする?サーラムよ。」


「へっ戦うわけないだろう・・・。完全体でもない状態で!!そこの小さいのとならまだしも・・・。」


「見誤るな・・・サーラム。シンは、弱くないぞ・・・。我が契約するぐらいだからな、フフフ。」


龍王アーロンは、シンの横に立ちシンを翼の中に、愛おしそうに呼び寄せる。その光景を見て、構えるのを止めて、チビは月涼に独鈷の縛りを解けと言った。


「あーごめん、ごめん、チビ。どうやるのかな?」


「お前・・・俺を縛っておいて、解き方が分からんのか?」


「へへっうん。だって、初めて使うし・・・。」


チビが呆れるてものも言えないと言う顔に、なっているのが分かった月涼は、チビに許してもらおうと、頭を撫でに近寄ろうとした途端、縛りが解け同時に月涼は、その場で膝を付いて、ガクリと倒れ込んだ。


『あっ・・・力が抜け・・・。」


チビがすかさず月涼の下に潜り込み、背中で受け止める。ソニアもシンも駆け寄り、チビの背から下して、月涼の頬をさすり意識を確認する。


「リア、リア、大丈夫か?」


「あ、義母上・・・。シン様・・・急に体の力が抜けて。」


「当たり前じゃ・・・まだ、安定もしておらぬのに、あれほどの気を放出したのだからな・・・。ソニア、宮殿の回復室に連れて行きなさい。そこの豹、お前が乗せていけ。」


「クッ・・・命令するな!!言われなくても連れてく。」


「落とすなよ・・・。豹。」


「当たり前だ!!」


月涼を乗せたチビと共にソニアは、水晶宮の回復室に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る