第2話 水晶宮へ
月涼は、第一王子の話が気になるもののそれ以上・・・うまく聞けずにソニアについていく。
歩を進めると微かに響く唄声に足を止めた。
「王后陛下・・・何か聞こえませんか?」
「そうか・・・聞こえるか。まぁ、気にせずついてくるが良い。それからのう・・・王后陛下ではなく、義母上(ははうえ)で良い。式は、まだじゃが其方は、義娘(むすめ)になるのだからのう。妾も『リア』と呼ぼう。そのほうが呼びやすい。」
「はい。義母上。」
コクリと頷いて、さらに歩みを進める二人。
次第に先ほどの唄声が明瞭になり、通路の先がキラキラと輝いて見え始めた。
「あれは?」
「今日は、一段と多いようじゃ・・・。」
「え?何ですか?義母上・・・。」
「青華蝶じゃ・・・。リアよ・・・其方、かなり歓迎されいる様じゃな。フフフ。」
「蝶にですか?」
「いや・・・。王太后様じゃ・・・。」
「えっ?この先に、王太后様が居られるのですか?」
ソニアは、頷くと月涼の頬を撫でた。
「良いか?其方は、これから見るものすべてを受け入れよ。其方の国には、無い世界じゃ。」
月涼は、ソニアの顔をまじまじと見ながら、コクリと頷いて質問した。
「受け入れられないとどうなりますか?」
「そうじゃな・・・。此処での記憶は、全て残らないだろうな。見たこと、聞いたこと全てじゃ。」
「そうですか・・・。じゃ、行きましょう。」
あっさりした月涼の回答に、大笑いを始めるソニア。
「ハハハハハハ、面白いやつじゃのう。普通なら、恐れる所を・・・・其方ときたら・・・。」
「いえいえ。義母上、少しは、怖いですけど・・・面白そうなのが先立ちまして・・・。」
ニッコリ笑う月涼を見て、少し呆れるソニアだが、自分の若いころを重ねて楽しみが増えたような気になってきた。
「では、参ろう。太后様がお待ちかねじゃ。」
二人が更に歩みを進めると天井の高い広間に出た。広間の天井は、色とりどりの水晶で出来ており、ともしび草に照らされて淡く輝いている。
月涼は、あの部屋からつながる通路から物理的に考えて、この空間はおかしいとすぐに覚った。そして、隣のソニアの顔を見てから質問しようとしたが、『其方の国には、無い世界…』という先ほどの言葉を思い出し止めた。
その広間には、青華蝶がかなりの数が舞っており、いったいどこから来るのか?とも思えた。その蝶が月涼の周りを舞い始めたかと思うと、歩みを進めろと言わんがごとく次の広間へと誘う。
「フフフ。蝶に催促されているではないか・・・。さ、次の間に行くぞ。」
「その様ですね。あの広間には、お役目があるのですか?」
「そうじゃな。あの広間が、1番目の面接じゃな。蝶が居なければ不合格じゃな。通路が閉じる。」
月涼は、なるほど・・・と頷く。
「それでは、この先にいくつもあるのですか?」
「其方は、これだけだろうな・・・あれだけの蝶が舞って、しかも次へと誘うのだから。短縮じゃ・・・フフフ。」
「ん?人によって違う?ということですか?」
「その様じゃな。妾も聞いただけで体験はしておらん。其方と同じじゃ。」
蝶に気を取られ、唄声が止まっている事に気付かなかったが、次の間に入るための通路でまた、唄が聞こえてきた。今度は、違う声色だ。
「あれ?声色が違う・・・。」
「良いのう・・・。龍まで歌いだすとは・・・。今日は、太后様だけでなく龍にも会えそうじゃな。」
「龍?」
月涼は、驚いて聞き返し、ソニアの顔を見る。ソニアは、歩みを止めて月涼の頬に手をあて聞く。
「怖くなったか?」
フルフルと首を振り、瞳を輝かせて満面の笑みで答える。
「いいえ!!楽しみですーーー。龍なんですよね?本当に本物の!!」
「ふっハハハハハハ!!リア・・・。もう、あまり・・・笑わせるな。」
笑いが止まらぬソニア・・・。蝶は、二人が立ち止まる度に、月涼を取り巻いて急かす。
「早う、行かねば太后様に怒られそうじゃ・・・。」
二人が通路を足早に進むと今度は、ふわりと何か心地よい香りが漂い始める。月涼は、この香の事も聞きたくなったが、龍の事の方が頭から離れず、先に進む方を取った。
次第に香りが強くなると、突然、蝶が消え、先ほどとは違うかなり明るい広間に出た。
広間の奥には天蓋のある寝台と小さな机に長椅子が二つある。その寝台隣に扉があり、さらに奥へと行ける様だった。
「ふむ。太后様がおらぬな・・・。龍の間まで来いと言う事か・・・?」
そう言うとソニアは、寝台の隣にある扉に手をかざした。
「リア。私の手を取れ。龍の間に入る。」
「は、はい。義母上!!」
途端に、まぶしい光に包まれた。目を開けるとそこは、草原と煌々と輝く湖がありその畔に龍が静かに座っている。その傍らに、薄桃色の長い髪の少女が立っていた。
「よう、来たな・・・。後継者たちよ。」
「はい。太后様・・・義母上様」
恭しく、ソニアが頭を垂れてあいさつする。
その様をあっけにとられて月涼は、見ているのだった。
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